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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第五十一章 変わる僕ら、僕らは変わる

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86 その足枷は既にはずれている



「リギル君!」

「いぃいっ…っ!!」

思わず後ろにズリ下がるが、響は布団の半分は譲らず真っ直ぐリギルを見て言う。


「まず点滴しよ。行こ、病院。」


「………」

リギルは壁に背を付けたまま固まってしまった。ファクトやリゲルも取り敢えず見ているしかない。

それでも響は優しく言う。

「すごいよ。トイレには行けてたんだよ。」

この状態がもっとひどいと、ペットボトルに尿どころか、くぼみを作ったところや布の上をトイレにしてしまう者もいる。もちろん部屋中ひどい匂いになる。


「………」


リギルはこの状況に言いたいことはたくさんあるはずなのに、壁に身を任せたまま動くことも話すこともできない。


「リギル君。もうね。あきらめよ。」

「………」

「…?」

「あきらめる?」

ファクトたちも何の話かと思う。

「ごめんね。ファクトたちに聞いて少しは事情を知ってるんだ。ここは医師でなく、チコやファクトの友人として言わせてもらうわ。」

「………」


「私は正式な医師ではないからここで点滴も投薬もできない。栄養剤ならいいんだけど。」

と、カバンからごっそりスティックパウチを取り出した。

「これ飲んでね。こっちは紅参とかね。こっちはマルチビタミンタブレットタイプ。私も好きなの。」

と、サイドテーブルに置く。

「これは普通のカロリーゼリーね。」

トントンと揃えて、親戚のおばちゃんである。


「それでね、今もう何人かこの外にいるんだけどね、やじ馬が。」

そこで響はリギルを見る。


「ここ。通って病院に行こう。」

「…っ。」

「もうね。あきらめなさい。他人に見られるのが嫌なの?他人が自分を勝手に評価するのか嫌なの?陰口が嫌なの?


大丈夫だから………


ここでは全部さらしてしまいなさい!!」


「…っ」

話しが飛び過ぎてリギルだけでなくファクトたちまで面食らっている。

「響さん大丈夫?」



「ここにいる人間はエリス総長やチコが選んでいるし、とくに初期はカストル総師長も入っているから。それでも鼻持ちならないのもいるだろうけどね…」

「………。」

「『自分大好き人間』ばかりだから、それほど他人は気にしないだろうし………」


それは僕たちのことか、響さんひどいと思う、響を知る面々。

「響さんそんな風に思ってたの?」

友情を育んできたつもりなのになぜか評価の低い第1弾。


それにリギルとしてはそれだけではない。絵にもならない自分がみんなの前に出ることも嫌だった。



「あのね、みんな五十歩百歩!!どんぐりの背比べ!!!

どうせ半年、1年後にはまた会うかも分からない面子なんだよ?他人なんか気にせず外を歩こ!!」


「…。」

リギルだけでなく周りも唖然としてしまう。


「右手が長くても左手が短かったりするし…。立派なことを言っている人も、自分の背中は見えていなかったりするんだよ。自分に背中があることに気が付くこともなく…。」

リギルが戸惑って辺りを見るとファクトが謝った。

「リギル、ごめん………」

ファクトも全部ではないにしても、響に少し事情を話している。


そしていきなり響は力強く言う。

「動画も消しなさい!」

「?!」

真っ白になる。まさかミツファ先生にそこまで知られていたとは…。というか、世の中でも人気動画なのでこの狭いアーツで話題になってしまったら知らない方がおかしいのだが。


チコの親友であり、そして自分が人として好きだったミツファ先生にユラスやベガスの悪口を書きまくっていたことが知られていたとは、四面楚歌だ。


「…み、み…」

リギルは、見たの?と言いたいが言葉にならない。

そして響はズバリ言う。

「見ました!何本か!!」

「!!」


途中で来た野次馬も、この状況に気持ちの行き処がなくなってしまう。


「この『藤湾大、移民占領地造成の拠点になるか』って記事!私もこの計画に関わってた一人なんですけど?」

「~っっ!!?!」


もう、もうやめてあげて……リギルが心臓発作を起こして、フラグの立った太郎君より早く死んでしまう………とファクトは焦ってくる。

「…響さん?あの…」

しかしそれを遮る。

「この動画!」

今度は違う動画を出し、そしてその視聴者のコメントを開いた。

「何が『左の侵入を防いだことと、移民地区を作ることは別だ』『子供若者を利用した』なの?」

少し怒っている。


でも、今度は響が動揺していた。

「今の時代の大都市や安定国家がどうやって経済発展したか知ってる?」

「…頭が……良くて…地道に努力したから…?」

どうにか答える。


「前時代のアジアの大都市の多くは戦争特需で急発展したの!

他の国が独裁国家と戦ってた時に得た利益と、国土が戦争にならなかった余裕で発展したんだよ?一般の産業発展はその土台で成長できたの。」


前時代の経済地域が今の都市形成の元だ。一般人は知らないが、その時途方もない命を失って西諸国が東への侵入を防ぎ、その間に東アジアは西アジアが背伸びをしても届かないほどの大発展をしたのだ。そして今は東アジアが西を援助する形になっている。


それから世界は最後に、国内が混乱していたユラスにその矛先を変えたのだ。

どうせ混乱している。科学先進国アジアを落とすより先にユラスを落とした方がいいと誘導し、ユラスもいくつかの交換条件と共にそれを受け入れた。



そして、全ての世界が一枚岩ではない。


一番上に見えている絵のために、数千数万ものフォルダーやレイヤーがあって、それを重ねて一番上の1枚絵を見られるのだ。

レイヤー1つ1つを見なければ、本当の世界は何も見えない。フォルダーの中にさらにいくつものフォルダーがある。お互いがお互いのレイヤーに隠れ、隠し、そうして今のアンタレスが見える。


誰もがその一枚絵の一部だが、誰もが同じ世界を見ているわけではないし、見られるわけでもない。



アジアには絶対落されてはいけないニューロス研究などがあったことと、その使命感。

そしてユラスもユラスでオミクロンなどは自分たちを盾にでもアジア圏を奪われない道を選んだ。


同時に東アジア外相アルゲニブなど、その間を利用し利益を得る者たちもいた。何か世間に知られれば、国や行政の責任にすればいいのだ。自分たちのしたことが気にならないくらいの爆弾を設置しておけばいい。

マスコミでしたいように書けば、この時代でも世間は妄信的に動く者がまだ多い。

メディアに乗せ、強く主張したことが真実になるのだ。この世界は。


そして、左や右すらも、中道も一枚岩ではないのだ。


全てが入り組み、全てが混乱している。それを見極められるためにはまずは知ることしかない。

隠されている全てのカギを開いて。


世界が非常に複雑で、今、目に見える物は真っ直ぐな世界ではないことを知るために。



リギルは、信頼していた先生が何もかも知っていて、急に饒舌に攻撃したしことに、変なムカムカと怖さと苛立ちを感じる。内容よりも裏切り感と恐怖。


だから何なんだと。全てに「もういい!」と言いたい。



それでも響は言う。


「知らないの?もっと前は人身売買。それで経済発展をして財閥強化や国力強化をしたんだよ。欧米だけじゃない!

アジアもだよ?世界中に売られたアジア人の墓地があるし、世界中に売り買いされた女性たちの子孫もいる…。知らないの?!アジアにだってたくさんの国から連れて来られた子孫たちがいる!そんな国の男に唆されて孕まされて……


自分たちだってそうかもしれないんだよ?


もう…。もう石も残っていない場所もあるけれど………。」



響の中にブワッと、その影が映っていた。


ファクトには見える。


青い光。青い狼。

東方の国が。女の国が。





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