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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第五十章 四支誠

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85 世の中がそうだからって、そうとも限らない。

また大幅な全体修正をしています。

渋谷のように、延々と工事です(´;ω;`)


オミクロンで出会った子供たちは、カウス子供テミンの従兄妹ではなく、カウス叔父たちの子供や孫でした。申し訳ありません。テミンの又従姉弟でしょうか?




「でも太郎君は自分勝手にしか反省しないから、死ぬ時は雑魚みたいに死ぬかもよ。」

ファクトは思わず言ってしまう。


しかし、雑魚みたいにと言われたことよりも太郎はラムダに食って掛かる。

「なんでお前が、俺が死ぬことを気にしてるんだ。」

「知り合いが死んでほしくないー!」


ラムダ。オタクなのに相容れなさそうな畑違いの男にも無駄にいい奴である。ベガスに来なければ、太郎君は掠ることもない人物であろう。

「死ぬにしてもお前には関係ないだろ?だいたいお前は誰なんだ。」

当人太郎君も言ってのける。ラムダの名前すら知らない。


「ラムダです!ファクト君の友達です!

とにかく、ここで僕が気が付いたことで、死亡フラグの一部を回収しているので元気を出してください!」

「は?」


「読者に先に予測されると、設定を変える作者が多いんです!連載中の場合は。」

「作者って誰だよ。」

作者などいない。

「大丈夫?ラムダ、正気?」


「俺が死のうがなんだっていいだろ。」

たくさん人を殺して来たし、今さら長生きしようとも思っていない。

太郎君は、人が成長して学校に行って働いて、結婚して子供を産んで育てて、孫に会って曽孫もできて……なんて人生設計図すら知らないのだ。最近習って聞いてやっと一般的な人生を知ったばかりである。



「うう。

今日持って来ててよかった……。太郎君にこれを……」

ラムダはそう言ってカバンの中の保護ケースから一冊の本を出す。


「豪華版の絶版だから貸すだけね。汚したり破ったりしないでね。また返してね。」

太郎君は流れでビニールカバーのついたその本を受け取った。

「………。」


それは前時代の昔良きイーストリューシアが舞台の、戦争が終わる前後の平凡な家族の物語であった。児童文学の定番で、昔の有名漫画家がコミック化したものである。

「響さんが読みたいっていうから持ち歩いてたんだけど、なかなか会えなくて…。」

「響?」

急に関心を持つ太郎にファイはイヤな顔をする。響の好きな絵柄で、前後にカラー画集も付いているものだ。


「読み方分かる?漫画。」

「………後で誰かに聞く。」

「今度響さんに貸すから、ちゃんと返してね。」

「分かった。」

「それ読んだら、死んだっていいとか思わないから…。」

既にすすり泣くラムダ。


「あ。今、ラムダが死亡フラグ立てた。」

無情にもファクトは言う。

「えーー!!??なんで!!!?」

いきなり言われてビビる。

「悪役の人生の転換は死亡フラグ。太郎が古き良き時代を知って、そんな良き人生を目指し始めた時こそ――」

「あーーー!!!やめてよっ!!」


そんな二人を無視して、太郎君は不思議そうにその本をいろんな角度から見ていた。




***




その数日後、連絡不通で遂にブチ切れたある女性がアーツ男子寮に乗り込んで来た。



うおおおおっっ!と、驚く通りすがりたち。


それに目もくれずツカツカ廊下を歩く女性。



男女平等時代に理不尽だと思うかもしれないが、女子寮には時々来る業者以外掃除のおじさんはいない。でも、男子寮には掃除のおばさんがよく出入りしている。おじさんはともかく、女性は格闘技の有段者でオバちゃん自覚がある人しか採用もしてくれないが、彼女たちが入ると掃除に抜け目がない。


シャワールームの水垢一つ逃さないし、何日もシーツや枕など替えないと勝手に回収して布団やマットごと洗って真っ白にしてくれる。こまめな性格のメンバーがいないフロアの冷蔵庫は悲惨なので一気に大清掃もされる。


その代わり、ドアやドアノブに無条件ハンドメイド手芸など付けられたり、ソファーや椅子にクッションやカバーも付けられてしまう。

オバちゃんが西アジア圏だとけっこうカッコいい織物など掛けられていて、ウチの店に仕入れたい、使いたいなど言っているメンバーもいるが、ここ男子寮なんだけど?と言いたくなるレースや造花など飾ってくれる場合もある。


男子が『これ貰ったから好きに食って』とスティックコーヒーやお菓子などを部屋に放置すると、ハンドメイドでファンシーなカゴに入れておいてくれることもある。

しかし、気にしたら負けだ。今となっては、今度はどんなファンシーが来るのかと楽しみにするしかない。


基本掃除は住んでいる自分たちでするが、忙しいしやはり男子。放置するとあれこれ汚くなるため、定期的にオバちゃんが入るのだ。

だらしないメンバーも多いので、他人が出入りすることで気を抜かせない目的もある。



だが今いるのは、時々抜き打ちチェックに来る、チコやサラサや教官でもなく女医。しかも若い。

一応一部共有フロアは誰でも出入りできるが、普段女性は1階の食堂や休憩ルーム以外はほとんど入らないので少し注目を浴びているのだ。


そんな医師。

(まさ)しく医者と言えば地味(じょ)響先生なのだが、響は一気に2階の個室の前まで来た。


そしてドンドンと遠慮なくドアを叩く。



トントン。

「リギル君!」

ドンドン。

「こんにちは!」


「………。」

少し待ってもドアは開かない。

「何度も連絡したんですけど。」

ドンドン遠慮なく叩く。


「開けて!」

『…。』

「開けない気?」

『…』

「じゃあここで大声で名前呼ぼうか?」

『!』


『…ま……』

「ま?」

『待って……』


何か声が聴こえてくると、ガチャッと扉が開いた。

「…響さん…。」

しかし、中から戸を開いたのはファクトだ。


響が少し部屋を除くと、ベッドの方で布団を被って丸くなっている人がいた。

リギルであろう。


今のリギルは窓のある小さな個室が与えられているが、ブラインドが下げられ室内は暗い。

響を案内したリゲルも後ろからため息をついた。名前は似ているが、桜色坊主のリゲルは見た目は不良系でファクトの幼馴染。リギルは引きこもりである。


「…リギル君、エリス牧師から許可を貰っているの。少し入るね。」

「………。」

返事はない。


既にエリスやサルガス、もちろんリーダーのシャウラやナシュパー。距離が近いファクトやリゲルも声を掛けているが、リギルはまた引きこもりに戻ってしまった。ランスアと病院で会ってから数日、食事も差し入れをしないと何も食べず、トイレも極力我慢し、部屋にボトルがあるが水もほとんど取っていない。


Gチームリーダーのジッキーに関しては、はじめは強く攻め過ぎた事を反省していたが、未だリギル自身があまりに弱い、贅沢だと責めるので一旦リギルから離している。



響は静かに話し始めた。

「リギル君…」

「……」

「先生が心配していたよ…。」

担当医のことだ。


「あんまりトイレ我慢すると、いろんな病気になるし慢性化したら大変だよ…。」


でもリギルは思う。ただの医者が一人患者が来なくなったところで何を心配するのか。


「あのね。お兄さんの件でいろいろあったけれど…。私はそんなにお兄さんのこともあれこれ思っていないし、リギル君が恥じることでもないよ。」


響は言うがそうでない。ランスアに自分を皆の前で落とし込まれたことがあまりに許せず、そして自分の存在が恥ずかしかったのだ。


「……こんなこと言われるとカチンとするかもしれないけどね、これまでたくさんの人間を見ているからいろんなこともあったし、私もこの前のことはそんなに気にしていないから…。」

一応それは、これまでサルガスたちも言ってきた。多分響さんの周りは強烈な人がいくらでもいたから、この前の出来事はそこまで気にすることはないと。


けれどリギルは、心身が弱った自分を見られるのもイヤだった。


小学生の頃、ランスアが校庭で立ち眩みをしその場に倒れたことがあった。その弱っていた姿すらカッコいいと女子の間で噂になって、時々そうなる度に数人の気の強い女子たちがキャーキャー言いながら保健室に出入りしていたのだ。自分と言えば、あの頃はまだ髪の毛はふさふさしていたが、それでも鼻風邪だけ残っていてマスクをしていると、うつるから寄らないでとわざわざ遠巻きに言われたのだ。どうせ普段は近くに来ないし、イヤならわざわざ近付いて言わなければいいのに。


兄と違って病気でも差別されるのだ。疲れ切った自分など見せたくない。

それに、ここまで閉じこもってしまったので、今更出て行く勇気もない。またバカにされそうだ。


先生からも兄たちと比べられて、何もかもが屈辱で嫌悪する世界だった。




しかし、リギルはリギルでまだ理解していなかった。


ここにいる人間は『世の中こうだから、こう』と考える人たちではなかった。



響は最初は介護や看護系だ。老若男女問わず自身の下の世話ができない人も担当しているし、意味不明のことを延々と言い続けるご老人も相手にしている。そして、リギルより体や見た目に問題がある人でも、結婚し家庭を持つ風景も見てきた。


エリスやクルスは職業柄どんな人間とも仕事をしないといけないし、ベガスは軍人も多い。


心身ボロボロになった者をたくさん見ているし、あのランスアがまだまともだと思えるような人間をいくらでも目にしている。体に関してもベガスにいる人間の何割かは、内戦や貧困の中だった乳児期幼少期の栄養不足や未治療で体が歪んだり欠損していたり、成長しきれなかった者も多い。

ベガスに来た時点でワクチン接種したり栄養を補っているが、みんながみんな間に合うわけではない。


世界がアンタレスの一般の日常と同じではないのだ。

リギルが小学校時代に経験したものは、彼らが言う日常であって世界の日常ではない。



もちろんリギルが経験したものが、リギルの日常であり、一つの世界であることは間違いないが……


今リギルはその足枷を既に外しているのだ。




それはジッキーについても同じだ。


彼も、リギルを落とし込める意味で責めたわけではない。同時にジッキー自身もここにいる以上、自分と人の人生や考え、物事の処理の歩幅は違うのだと学ばなければならなかった。キファとぶつかっている石籠(いづら)たちもそうだ。


誰もが計画通りに動き誰もが気持ちよく従ってくれるなら、VEGAが行政に召還を受けたり、そもそも人口減に悩んだり、スラム自体ができるわけがないのだ。この世界の最先端都市アンタレスで。


ジッキーのしていることは、とにかく『人は、世の中ではこうあるべきだ』と言う理想論だけ。自身も全体をまとめている都市計画の受動側でしかなくなっていることに気が付いてさえいない。


それはネットや口だけで正論を言う足枷で、身内にいる分、下手をすると超反対派や改革派より厄介だ。目的の中核を打つのだから。


なぜならそういう人たちを宥めて宥めて、宥めてベガスは事業を進めているのだから。





小さな部屋で響は少しだけ待つ。


そして、

「リギル君、ごめんね。」

と、いきなり響は布団を少し外す。


「っひぃ!」

と、リギルは思わず布団を引っ張った。




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