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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第五十章 四支誠

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84 死亡フラグを立てないで



「ファクト。」

シェダルが舞台下の弟に声を掛ける。

「ん?」


そして、笑った。

「お前に何もしなくて本当によかったわ。」

一瞬迷ったファクトは襲撃のことかと気が付き、え?壁に叩きつけられて骨折れたんだけど……と思うが、今は言うべきではないであろう。もちろんこの中でその話が分かるのはファクトとウヌクだけだ。


「死なせていたら多分……いろいろダメだっただろうな………。

まあ、楽しかった。ありがとう。」

「?」

太郎君は自分の言った言葉の通り、階段を使わずぴょんっと舞台下に飛び降りた。もともと身体能力は高いので、今度はコケることもなくバランスも崩さない。ただ、一般義体なので変なことはしないでほしい。


急に笑うので呆気にとられる回り。

けれどファイは思う。何だろう、まだある既視感。死なす?殺すってことだよね?今言ったの……。



ファイの中に記憶が走る。


あのお香。

お寺の香りが広がる第3ラボの一室。


響の首に投影が走った――サイコス世界からの襲撃者。感覚だけの…あの記憶。


?!




「どうも。」

と、そこでシェダルは軽くみんなに礼をして護衛のいる外にサーと行ってしまう。

「あ!太郎!」

ウヌクが追いかけ、ファイもみんなにペコっと舞台関係者に挨拶をして後に続いた。


「………。」

ファクトとラムダは目を合わせるが、

「俺らも行こうか……」

と、ファクトが言うのでラムダもお礼をして去っていこうとする。


「待って!ファクト君。」

しかし、リーオが止めた。

「あ、あの……ウヌクさんって…。あの……。」

「……?」

ファクトは言葉を待つが、リーオは言葉が出ない。響のことかと気が付いて言っておく。

「大丈夫。ウヌクとはそういうのないと思うよ。……ウヌクは。」

「………。」


―ウヌク()?―


「私は…響さんが幸せならそれでいいから。」

戸惑うがリーオは仕方なしに笑った。

「でもさ、危ないことさせないように見守てってね。」

「…………。」

少し考えてファクトは無言でOKサインを出し、ラムダたちを追いかけた。




***




「ちょっと!あんたなんなの?」


人気のないフロアまで駆け足で来て、ようやくファイは前方のウヌクとシェダルに言う。ファイも足は速い方だが、なにせ歩幅がかなり違う。アーツ全体で一番背が低いのはファイ。


「…思い出した……。」


「……太郎、待ってあげな。」

ウヌクが太郎を引っ張り無理やり止める。

「何なんだよ。」

「…あんた、響さんの首絞めてた奴でしょ!」

「?!」

小声だが力強く言うファイに、一同は驚く。


「首?締める?」

ウヌクも驚いた。なぜならファイはこの前の大房でのことは知らないはず。なら別の時にも何かあったのか。そう、まだウヌクがベガスに来る前、SR社でのDPサイコスだ。


「あ?だから何なんだ?」

「だからじゃない……。響さんとのことはお互い同士で解決してるのかもしれないけどね……」


ファイはキッと睨む。

「あんたのしたことでね、あれからリーブラ…リーブラが………。」

あの事件の後から、リーブラが激やせをしてすっかり大人しくなってしまったのだ。

「はあ?何の話だよ。」

「あんたねっ。チコさんのことだってあんたが……」

とファイが突っかかろうとしたところでウヌクが止める。

「ファイ、やめろ。響さんが全部知って受け入れていることだ。」

そこには何かしら意味があるはず。

「…っ。」

ファイは泣きそうな顔になる。既に追いついていたファクトが間に入ろうとするが、ウヌクは手で制した。このままではファイの気も収まらないだろう。



「…強い人ばかりじゃないんだよ?!起こったことを流せる人ばかりじゃないんだよ?」

チコと響が混迷状態になってから、リーブラは痩せてしまったのだ。


闇属性気味なファイより、リーブラは人の痛みにずっと弱かった。もちろんファイは本当の意味で卑怯で一番弱いのは自分だとも知っている。チコや響もリーブラのことをものすごく気にかけていることも知っている。


でも、ファイにとってもあんなふうに目の前で人が痩せていくのは本当にショックだった。この男が許せない。


「ファイ……」

ファクトは何も言えない。と、同時にファイも気が付かないうちに霊性が上がっていたのかと気が付く。当時のあのモヤのような姿だけで、響の首を絞めていたのが太郎だと分かったのだ。


「で、俺にどうしろって言うんだ?だいたいリーブラって急になんだよ?人?物?お前も誰?」

太郎君は何も変わらず太郎君だ。普通に見れば本当に最低な男である。


「…ファイ。それに関しては俺は何も言えない。あとでいくらでも話を聞いてやる。」

ウヌクが小さな声で話し出す。

「でもな、ここで起こっていることはもう自分の範疇(はんちゅう)で考えるな。ベガスだけじゃなく、アンタレスやユラス、メンカルも……動いている。」

『ギュグニー』という名は控えた。


「俺たちは何かが動いている中核に来てしまったんだよ。」

「…。」

「分かるか?」

「…でも……」

遂に涙が出そうになるが、ウヌクはファイの目を手の甲で拭った。




しかしそれを打ち破るのは、今回この男。


「ねえ!ウヌク!」

時々一緒にいながらも、今までウヌクには所用以外で直接声を掛けたことのなかったラムダである。



「あの、太郎君!君は前は悪党だったの???」

「…は?」

連合国を善とすれば、間違いなくシェダルは悪党一派である。比べなくとも悪党だ。まあ、悪党であろう。

しかも法など関係なく好き勝手した国の駒だ。しかし『悪党』という言葉を子供時代以来、聞いたことのない皆さん、一瞬飲み込めない。悪党など今時子供アニメでも使われない。古典童話くらいだろうか。


「それで改心したの?」

「はあ?」

誰もが戸惑う。ラムダの乱入をいいことに、太郎君はファイから離れた。太郎君が改心したのかは……前に比べれば変わってはいるが、そこのところはどうなのか。

正直分からない。もう少し言ってしまえば、自分たちも暴行をしないだけで善人でもない。心の裏はネチネチ隠す分、正直すぎる太郎君より悪党かもしれないのだ。



そしてラムダは叫ぶ。


「ダメだよ!!」

「ダメ??」

ラムダの言うことがますます分からない。

「死なせちゃだめだ!!」

「は?死ぬ?」

いつ死んでもおかしくないような人間だが、死ぬとは?なぜ急に。


「敵が改心したり仲間になって……そして笑ったら………」


ラムダは何か胸の内をため込み…そして続きを言う。



「だいたいそれは………


死亡フラグなんだよ…。」



「は?」

「しぼうふらぐ?」

単語の切れ目すら分からない、全く意味の分からない、オタクファイ以外の皆様であった。


「しぼうふらぐ…しぼうふらぐ…

死亡フラグ?」


やっと解読するウヌク。


「そう!正に!」

「ラムダバカなの?これ以上バカは要らないんだけど…。」

急に冷静になるファイ。

しかし、

「悪役がいい笑いをしたり、普段言わない人がいいこと言ったら………」

と、キリっとした顔でラムダは答える。

「だいたい死ぬんだよ………。」


「…………。」

皆さん、何と言っていいのか分からない。


「漫画なら3分の1ページ以上占領、もしくは数コマに渡ってそのセリフを言ったら……。

見開きならもう確実………。

そんでまた………

見開き1ページを使って散っていくんだ…。」

それはツラい。多分。


「その後フラグ回収時。さらに数ページ大ゴマを使って主人公たちの驚き顔のストップモーションシーンが入る……。」

今までになく深刻なラムダにファクトはやっと言っている意味を理解する。


太郎君死ぬのか。



「そんで、下手すると次回に持ち込む勢いでカッコよく死ぬ……。次回!って。人気漫画だとカラーになる。」

「………。」

なんとなく分かる下町ズと、全然分からない太郎君。ただしこの時代、ほとんどAIが描くので漫画はフルカラー連載が多い。


「会心のシュートするときも似たようなシチュエーションになるよね。」

ファクトは大好きなサッカー漫画の話まで入れてくる。

「ファクト!今は命の話をしてるんだよ?」

「スポーツ漫画もけっこう人が死ぬんだけど。」

「ファクトは黙ってて…。」

今日のラムダは手厳しい。


「でも太郎君は自分勝手にしか反省しないから、死ぬ時は雑魚みたいに死ぬかもよ。」

それでも言いたいファクトであった。



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