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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第五十章 四支誠

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81 違う立ち位置



シェダルはここでは変な存在だった。


目立つのか、隠れてしまうのか分からない。

少し後ろに座っているので、照明の光から外れると闇の中に同調してしまう。


けれど、光が少し当たると「誰?」と見たくなる。

背は低くもないがそこまで高くもなく、一見目立つ体格でもない。



「太郎君は感想ある?ダンスの。」

「ダンスってそのステージの上で踊ってたのの事?」

「そう。そのダンス。」

ダンスや踊りは理解している。


「…よく分からない。」

実のところ、みんなから見ると太郎君はよく分からない存在だが、太郎の方はもっと今の状況がよく分からなかった。

大房に行った時は響の霊性ばかり追いかけてダンスなど気にもしなかったし、実物のバレエなど初めて観たので何を言えばいいのかよく分からない。見たものの感想?見たら何か言うのか?

一緒に見たのに、何を説明しろというのか。


人が生きること以外の意図で『動く』という感性自体が分からない。ダンスは映像や資料で見たことはあるがそれが目の前にある上に、意見を聞かれてもどう反応していいのか分からなかった。

『報告』でなく『感想』『意見』をするということ自体が迷宮であった。


「そっか。」

少しがっかりするスタッフ一同だが、太郎君が初めてのお使い並みに世の中を知らないことなど、ここの誰も知らないのだ。とくにシェダルは諜報役でもなく普段は一般の作戦にも出られず、誘導されて『しろ』と言われたことをすぐ実行していただけだ。


東アジア機関ではよくしゃべったが、ここはよく分からない人だらけだ。



けれど、みんなリーオに聞いている。

「彼、どこかのスタジオや劇団じゃなくて?ダンサー?」

「学生さんみたい。舞台やダンスとかではないみたいだよ。ここにはそれ関係で来たわけじゃないみたい。」

「背筋や動きが凄くきれいなんだよね。ならスポーツとか…武道関係かな?」

一見だらしないようでも、ダンスをしている人間には太郎君の姿勢が普通でないことは分かっていた。実は軍隊仕込みなのだが、シェダルはそれを隠す(すべ)も教えてもらっていない。



そして、そこに入って来たのは…アート教室から抜けて来た二人。

中央でみんなが話している間に、中に知り合いがいると入れてもらったファクトたちであった。


「太郎…!」

「…っ」

振り返ると、ウヌクとファクトだ。


「ウヌク!」

太郎君が少し安心した顔をする。


あれ?ファクト?と、リーオやファイたちが振り向き、そしてリーオはウヌクという名にも気が付いた。

「…ウヌク?」

思わず反応する。響がやたら呼んでいた名前である。


そこで総監督が言う。

「20分休憩に入ろう!」




またここでも挨拶が始まった。ウヌクは自分が南海の教会学校の先生をしている延長で、四支誠の園児児童プロジェクトの監督役を任されていると説明する。ウヌクは河漢に四支誠と忙しいのである。怪我ために、今はほとんど四支誠に入っている。

ファクトは単に学生で助手ということにされた。


ウヌクはあの焼き肉屋騒動の頃はまだアーツにいなかったので、リーオとの面識もなかった。



ウヌクとファクトは東アジアからシェダルに会うことを許され、また少しの時間の共有もお願いされている。けれど、お互いの連絡先は交換しておらず、何かあれば間に東アジアを挟むよう言われている。今回はロビーで護衛アンドロイドのファイナーを見付けてここまで案内してもらったのだ。

可哀そうなことに何度か事件に遭遇させられているファイナーは、もう数度、顔や機能を変えられていた。


そしてここで要らぬことを言うのは、一番まともなはずのリーオ。何の事情も知らないので聞いてしまう。


「…えっと…。ウヌクさんはミツファ響さんの知り合いで?」

「?!」


はーーー?!

リーオ、アホなん?!

と、ビビってしまうファイ&今その名前はまずい!!と同じくビビるファクト。ファクトは、手話で一生懸命『その名前、ダメ!』と響さんアウトサインを出すがリーオに分かるわけがない。


「え?私は最近響さんの護衛騎士に就任しました。」

ウヌクも真面目な顔でくだらないことを言ってのける。

「護衛?騎士?」

「知らないの?響さん騎士が好きだって有名だよ。最後は竜騎士らしい。」


バジ!とウヌクに一撃が入る。

「あほかよ!!」

ファイは思わずウヌクの背中を叩く。頭を叩いてやりたかったが背が高過ぎて届かないので仕方ない。

「俺病み上がりなんだけど?!」

「なら響さんを困らせることを言うのはやめなさい。せめて私たちの間だけにして…。後でいくらでも聞くから……。あの太郎もいるんだよ?」


小声で言うファイの見る先には、「麒麟、麒麟」と響に懐いていた危険人物がいた。


そうだ、そうのなのだ。

ウヌクだけではない。麒麟大好きな太郎もいるのである。



数メートル先で、当人太郎が何か悟ったのか嫌そうな顔でウヌクたちを見ている。

「………。」


何せ先出会ったばかりの男がミツファ響の名前を出すし、自分がヤバいことをしただろう触れてほしくない話もウヌクが出す。当時の記憶はないがないがウヌクの複数個所骨折も、響に暴行未遂をしたことと怪我を負わせたこともきちんと聞かされているのだ。



リーオの方はミラ藤湾での襲撃を思い出していた。不安がよぎる。

しかし、少し老年に差し掛かった演出の男性が声を掛けてきた。

「あの、彼は?」

太郎のことだ。


「彼は見学者です。」

ウヌクは咄嗟に答える。なんで太郎がこんなところにいるのかと思うが、注目される前に早く外に出した方がいい。

「本当は私たちが彼に四支誠を見学させるはずだったんです。お世話になりました。行こうか。」

太郎をここから出そうとするが。演出家に止められた。

「君たちも何かの劇団とかじゃなくて?」

「……?……あ!」

ファクトは気が付く。彼らは自分たちが何かの団員と勘違いしているのだろう。ファクトも最初にチコたち怪しい集団に出会った時、傭兵集団か劇団員と勘違いしていた。


「君、いくつ?」

太郎は演出家に聞かれる。

「…さあ…。26?27くらい?」

さらに太郎はウヌクに聞くのでウヌクも困る。


「え?10代かと……。」

驚いている演出家。

「あ、すみません。彼は体が弱くてこれまであまり家から出られず……日にも当たらず………。太郎、行こう!」

ファクトがそう言うのに、太郎君は本当に困った人であった。

「あ、そうだ。そういう話だったよな。」

そういう設定で合わせる話だったのに、そういえば病弱だったみたいなことを自ら言っている。団員の何人かが笑っていた。



演出家がさらに太郎君に声を掛けた。

「君、ちょっとそこのステージ上ってみてよ。」

「……え?なんで?」

太郎は怪訝な顔をした。

「ステージの上から見ると、またそこからとは違う世界が見えるよ!」

「………。」


「彼、演劇の演出や写真家でもあるんだ。」

演出家のことをリーオがファクトたちに教えてくれた。

「あの、太郎君は見るだけにしてください…。」

気が気でないファクト。人の記憶になるべく残したくないのに写真とか心臓が止まりそうだ。

「OK、OK!じゃあ、何もしない!」


ダメだろとウヌクも止めようとするが、少しだけ太郎は上ってみたかった。

「…少し上って見ていい?」



そこから違う世界が見えるなら。



●蛍惑組と焼肉屋の話

『ZEROミッシングリンクⅡ』52 敵陣と焼肉屋

https://ncode.syosetu.com/n8525hg/54


●ミラ藤湾での襲撃

『ZEROミッシングリンクⅡ』53 アーツへの襲撃

https://ncode.syosetu.com/n8525hg/55


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