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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第五十章 四支誠

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79 自由な太郎君



線が細くファクトより少しだけ低い背丈の太郎君は、背筋がキレイだ。


「ファクト?親戚だけど?」

「そうなんだ!私、彼の友人のリーバス・リーオと申します。」

太郎君は、リーオがファクトの知り合いだと安心したのか、少し気を抜いて「何?」という感じだ。挨拶するふうでもない。微妙な位置にいる知り合いそうな横の二人にも、リーオは一応頭を下げた。アンドロイド2機も笑顔で礼を返す。


初めて見る3人はオーケストラ関係には見えない。そうするとそれ以外の利用者か。アンタレス市内よりベガスの施設の方が、ホールやレッスン場を格安で貸してもらえるので、最近人の出入りが一気に多くなったのだ。


「あの、何かダンスでも?」

「ダンス?」

ダンスは知っているが、シェダルは言われる意味の分からない。自分がダンスをするという発想自体がなかった。

「…あ、大房の人じゃなくて?」

「あー!この人は多分、普通の人です。」

ファイはびっくりして割り込む。社会人か学生かも知らないので、思わず「普通の人」とよく分からない説明をしてしまった。もしかしてランスアのようなプー太郎系か。それとも、やはり危険人物か。


「学生さん?」

「学生?」

「ダンスとか何か美術系の勉強とかしてるの?」

太郎がタメ口なので、リーオも少し口調を崩した。

「勉強はしてるぞ。」

美術ではないが、今、徹底的に東アジアからあらゆることを学ばされている。ただ、習っても会話術は上達していない。


そんな会話風景をほのぼの見るラムダと、いいんかな?とドキドキ眺めるファイ。

こいつ絶対にヤバい人だと思うのに。

「……。」

ベガスで暮らして問題あり過ぎな人たちに囲まれ、変な感知能力が育ってしまった上に、SR社の第3ラボにも出入り。勘のいいファイは気が付く。太郎と少し離れた所にいる奴ら、まさしく訓練された護衛かアンドロイドであろう。しかも太郎はプーにしてもただのプーではない。危険な方のプーだ。



「太郎君、一緒に舞台観る?」

「……?ぶたい?ステージ?」

「そう!」

警戒していた顔が完全になくなる。舞台裏は、見るとおもしろいよとファクトが言っていたものだ。


ウヌクもファクトも来ないなーと考える太郎君。

「行く。」

「よし!」

リーオは楽しそうだが、ファイは「うわっ。ヤバ!やっぱこいつおかしい系だ…。」と思う。初対面の大人に大人が「行く」とか言うか?しかも、横のアンドロイドに「いい?」と聞いて、「少しなら」とか言われている。こんなん、世間知らずのおぼっちゃまか、おかしい系だろと。下手したら太郎がアンドロイドだ。



太郎君としては、人との距離感が分からずにいた。


リーオは警戒を解いてもいい人物だとは分かる。少し目立つが、雰囲気だけで自分とは違う一般人だとも分かる。でも、リーオに素性は晒せない。

ファクトたちはもっと人と話した方がいいと言うが、多くの人に世間とは距離を置けとも言われている。ただ分かるのは、ボロが出るから余計なことは話さない方がよいということだ。


「中ホールの方。知っている劇団だから観に行こうか。」

リーオが歩き出したので立ち上がってついて行くと、太郎のお友達の1人が変な距離感でついてくる。

めっちゃビンゴじゃん、と思うファイ。監視か護衛確定である。設定された任務か性格か、シリウスやカペラほどのコミュニケーション機能がないのか。一時釈放や現場検証に同行する重罪人みたいな見た感じだが、リーオには護衛が必要なおぼっちゃまということにしておこうと、ファイの中で設定が決まる。



「ファイちゃん、ラムダ君、元気だった?」

「はい!」

「私は忙しくて死にそう…。」

ハハハと、リーオが笑っている。太郎は不機嫌には見えないが無表情だ。

「太郎君は何の勉強をしてるの?」

「大学卒業だけでもしておけと言われた。」

「何科?」

「…()()()?知らないけど、やれと言われたことをしている。」

「…そうなんだ。」

ここでは言えないが、一般人が知らない世界の情勢も習っている。



アンタレスに住みたいなら、「誰が悪い人か分からないままではいけない。誰がこうこう裏の顔を持っていて、こいつにはおいしい話をされても、飴を出されても付いて行ってはならない…」という……一見子供に教えるような………でも内容が濃すぎる話も勉強している。

子供どころか、大人も一般警察も聴いてはないらない、下手をすると一国どころか大陸がひっくり返る話などしている。

シェダルの知識は明らかにギュグニーや北方国寄りからの情報であったため、一つ一つ教えていくしかなかった。


正直シェダルは自分の生活が守られればどうでもよかったが、シェダルのような立ち位置の人間がここに住むなら全部知っておかないとダメだと言われる。何かショックな話を出された時に、気持ちが揺るがない世界に対する多面性を持ってもらうのだ。


シェダルもどこの政権でもこだわりがないので、気分が悪くなければ、自分の知っていることも全部話している。


殺されようが、今更だ。知っていることはもう話してしまった。


きっと東アジアからシェダルに教えられる情報も一部なのだろうが、昔のラボにいた頃と違うのはとにかくいろんな関係者に会い、とにかく接触を好まれる。みんな結構話し好きで、これは他の人に言わないでねと無駄話もよくしてくれた。




そして、自由民主主義を脅かされるのは困るし他人の権利を阻害するのは阻止させてもらうが、一通り学んだうえで、


『最後の良し悪しは自分で判断してくれ』


と言われることだ。




どちらも押しつけのようなことはされるが、

これは今までいた環境と決定的に違うことだった。



最後の選択はシェダルがするのだ。


自分のいた場所がギュグニーだったのかは知らないが、少なくとも元の場所では言葉一つで文字通り首がふっ飛ぶどころか、下手をしたら家族集落が根こそぎなくなっているような所であった。





リーオたちと広い通路をどんどん進む。


「ここにいたっていうことは…、音楽や美術?ヘルプ?」

リーオは太郎に聞いてみる。運営側ではないだろう。そうでなければ工事や工務店関係だがそうも見えない。

「………」

「それとも誰かの付き添い?」

「…、」

考えるシェダル。

「知らない。でも模様が好きだ…。」

「模様?」

おもしろそうな子だなと、リーオはもっと聞きたかったが、ホールに着いたので一同は右の出入り口から中に入った。




重いけれどスーと動くドアを開けると、そこには高い天井のオープンステージのスラスト型があった。


自由に動かせる劇場で、現在は前方から客席の真ん中までステージを作っている型だ。


一見無機質なのに、明るいステージの上には光の空気が漂う。

数人の女性が舞台で自由に練習し、何人かは客席で指導や打ち合わせをしていた。


暗い周囲と明るい舞台。

このステージはとくに陰陽の差がハッキリする証明が使われていた。



「わあ!」

と、素直ラムダが思わず声を出してしまいそうになるが、練習中だと息を飲み込んだ。ファイがよしよししてあげている。


「バレエのコンテンポラリー?」

少し見物してからファイが静かにリーオに聞いた。

「よく分かったね。」

コンテンポラリーバレエはバレエに近い自由形ダンスだ。言葉を知っていたことにリーオは驚く。

「一応舞台ドレス衣装も作ってるからね。よく伸びる服を注文される。縫い目のないのとか。」


何せファイはオタク。好きなものはとことん追求するため、好きだったアイドルがしていた舞台、芸能関係は全て掌握済みである。普段はバンドの追っかけだが、アイドルにも数人推しがいる。

「ここは、ほとんどクラシックから来ているメンバーだよ。」

「ふーん。だから動きがブレてないんだ。」



しかし、一人だけステージでなく壁や天井を見ているのは太郎君。

音響をキレイに響かせる仕様の壁や、照明がたくさん下がった天井を眺めじっとしている。


ただ立ってるだけなのに顔もはっきり見えないのに、太郎の周りも空気が違った。




このフロアの中と、先までいた外の空気観の違いにシェダルは思わず全体を見回す。


空間割りと照明で、ステージと客席の世界が分かれているのに、一体化もしている不思議な世界。


木目の壁があるのに、照明のせいか音楽のせいか。

視覚的に今この空間は非常に無機質で……

でも熱くもありも冷たさも感じる。



シェダルは麒麟のサイコスを思い出す。


あの、幾何学的なのか自由曲線なのか分からない波模様。



五色の全て。




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