73 銀河のような学区
強固とも最新とも言えない。
でも、チコたちは出来る限りの土台を作った。
その上で、『運気を掴む』ことが全てに繋がるのだ。
その時点でチコは、面白そうだと寄って来てくれた蛍惑人から、経済クラブに赴き一気に火をつけた。
蛍惑は西アジア北側だが、仏教のシルクロードとも言われる特殊な役割を歴史的に担っている。過去、仏僧が北を渡ってアジア東方に行き、儒教など様々混ざりながら戻って来るルートでその中間に蛍惑という仏教都市をつくったのだ。アンタレスもその通り道の近くだ。
前時代の初期までは大陸南方が強かったが、新時代に大陸北が頭角を現す。
蛍惑人は東と西アジア、そしてユラスとヴェネレに関わり移民関係にも詳しかった。この百年ほどに少数民族も様々な文化と関り、西アジア人も新たな開拓の道が欲しかったのだ。
発展が遅れた内陸部。彼らはいつまでも先進地域だけに引導を取られたくない。
……対立したいわけではない。せめて並びたい。そう思っている意欲的な若者たちを蛍惑人や西アジアの経済クラブはどんどん紹介してきたのだ。
それからは、商人でもあり伝手も多い西アジアにも間接的に人材発掘を託した。人種宗教、地勢関係なく移民成功例を作るべき、学校建設に興味を持っている有識者を集中させた。
彼らは負けたままの経済も巻き返したかったし、ユラス人だけでなく各大陸の特性をよく知っていた。既にサダルはいなかったが、ユラス国内で小意地になっているユラス教保守派より、中道派のユラス青年が付いているチコに未来を読み取ったのだ。チコよりも先に、財閥ザルニアス家やシュアト大二世世代の一部がサダル派に流れていることも知っていた。
そして………
今の藤湾が広がるのである。
現在は、ベガス住民以外からも多く学生を募っている。
今、この数年で一気に拡大してきた藤湾大をこれから分割していくのだ。あまり人のいない、支えきれない分野を整理統合もしていく。中にはアンタレスにあるものはそちらに吸収させたり統合もする。
医大、看護大、農業大一部はここに残り、工学科は南海のベガス研究施設付近に。
教育関係の学校はミラの他、他所に二分する。
そして、『四支誠』には芸術学校連を作る。四支誠は街中だが小さな溪谷もあり、旧芸術関係施設が点在していた。大学生として卒業したい者は、一般学科は藤湾に通うことになる。プロダクトデザインや建築建設関連は、分野によって藤湾に残ったり工学科の付近に移る。
義務教育はプレイシアたちのいる特別クラスと、普通クラス、補助クラスも分け、基本高校までは専門以外は各自治体の学校に統合させて行くことになる。補助クラスは大学枠からは抜く。
別の学校枠になる分野ものもあるが、今まで通り許可が下りていれば、一部を除いて小中高大学関わらず学年、学校間を行き来できる。
最も注目されている一つは、文化国際コミュニケーション科、地域デザイン科。
VEGAのような仕事をしたい人たちがその基礎を学ぶ場だ。他と違うのは、既に他の分野で勉強や活躍などしてきた者が非常に多く、学びながら現場に出られる。各地に学校、公共施設、インフラ建設をしていくノウハウも学び実際に作っていく。
格闘術までは学ばないが、アーツ試用期間のハイスッペク版だ。
なお、普通の大学試験もあるのが、アーツとの違いである。
現在、カーフたちを中心に、それらのおよその展開図を発表している。
「で………なんでこっちにいるの?」
それなのに、見た目だけはやたらにいいダークエルフ、レサト君は会議中央に混ざらず妄想チームの間に沈み込んで座っている。
「そうだよ。レサト、あっち行けよ。」
こいつもその立役者ではないのか。
「…恥ずかしいだろ……。」
絶対に恥ずかしそうではない。隠れているという姿勢以外、態度は威風堂々としている。
「クソしてくるとか言って教室出るのは恥ずかしくないのに、みんなの前で発表するのは恥ずかしいの?ほんとクソだね。」
ソラが嫌味を言う。
「………ソラさんこそいつそんな恥ずかしい言葉を覚えたんですか?あと、黙っていてくれません?せめて「うんこ」と。」
普段は無口で返さないのに、レサトは嫌味で言い返す。ここで伸び伸びしていたいのだ。
「………て言うかさ……。カーフ君本当に大人になっちゃったね…。」
なぜかファイは胸が詰まる。
「大きくなったな……。人の子って早いね…。」
ラムダは共感するが、何一つファイの世話にはなっていないし、下手をすれば存在も認識されていないのだが、親の思いで見つめる女子。
「ここ見て!すげーよ。調理専門学校分校とか一部大房に来るんだって。」
ソイドが思わず資料を見せた。
「ほんとだ!なんで?大房そう遠くはないけど、ベガスでいいのにね。土地も設備もあるし、ベガスはリノベーション後はめっちゃきれいだし。」
「また駄々こねたんじゃない?大房議員や商店街のおっさんたち。」
学校を有するのではなく、既に調理師免許のあるものを対象に異文化料理など教えるらしい。
「それ料理教室じゃん?」
「取り敢えずそれくらいしかできなかったんだよ。何せ大房だから……。」
「でも、ここ見て。このページ。仔羊一頭をスパイシーにとか本格的だよ?」
少なくともアンタレスの家庭料理ではない。
「こっち、カフェ経営、バリスタ試験教育とかもある。」
資料を指す。
「……ベガス関係なくて、普通に『大房で専門教育』でよくない?」
それは禁句である。
「こっちはベガスにも来てくれるんだって。」
資料を見ながらラムダが興奮する。
「何が?」
「大房の講師が。」
「え?!」
それはいいのかどうなのか。
「姉妹都市?!提携事業?!」
意味が分からない。同じアンタレス市内で姉妹都市になったらしい。姉妹区域か。
とにかく若者たちを持って行かれたので、大房のおじさんたちがまさに怒っているのである。姉妹都市も何もみんなアンタレス市内だ。
「まあ、悔しいんだろうからそれくらい許してあげたら?」
「大房に四大とか大学ないしね………」
あるのは会計や介護士などの専門学校や簡単な事務や経理くらいだ。
さすがに大房との提携大学はないが、現在藤湾の生徒やアーツ、VEGAのスタッフたちが大房の小中高等学校の課外授業も担当していて好評である。逆に小規模舞台の音響やダンスなどの指導に大房民が来ていて、舞台装置も中高生には搬入から設備までプロ仕様で教えている。
一応大房も役立っているのである。




