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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十九章 内部にこそ不満

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70 どこもかしこも相性が悪い



現在のアーツGチームは、主に体調問題などあり通常メニューをしないチーム。

ジッキーはそのリーダーだ。


「リギル……、あ、響さん…。」

サルガスは響に一礼するとジッキーにリギルを任せてランアスに詰め寄る。


「なんで河漢の病院に行かなかったんだ。」

「だって、こっちがキレイで広いし。先生まともそうじゃん?広くて人が多いから目立たないし。」

「移住地域の指定病院は、他の地域の先生も入ってるし河漢でも十分いいところだ。もぐりもいない。」

河漢には、人生何があったのか職場や医師免許など失った者が勝手に診療所を開いていることがよくある。不法滞在者の面倒も見ているのだろう。



馬鹿にした顔で人を見るランスアに硬直しているリギルを見ると、ジッキーが許せない思いになる。

「お前だろ!変なことしてるのは!」

まだ若いのか、そのままの思いをランスアにぶつけようとした。


「待て、一旦リギルは診察に。ランスアは俺と話そう。」

サルガスが言うが、ジッキーはあの日のランスアのいい加減さを見ているので、何かしたのかと詰め寄ろうとする。

「サルガスさん、待って下さい!俺が話をしたい!これからもこんなことをされたら困る!」

「こんなこと?」

ランスアはとぼける。

「なんかまた言ったんだろ?!」

「え?10万ちょうだいとしか…。5万でもいいけど。だって、お兄ちゃんが困ってるんだよ?兄弟愛じゃん?」

「~っ。」

毒親ならぬ毒兄である。

「こんな家族、接触が許されていることがあり得ない!」

「……」

渦中にいながら動かないリギルにも頭にくる。


「リギルもさ、こんな兄貴になに従ってんだよ。もう大人だろ?」

「?!」

これはまずいと思う響とサルガス。


それは家族、個別に状況が異なり、簡単に触れられない部分だ。リギルはやっと部屋の、実家の敷居を外に向けてまたいだばかり。ずっと母親以外の人間とも接触がなかったのに、どうにか一歩を踏み出したのだ。そして、お金を渡さないという約束は守った。

それは、誰かには当たり前でも、誰かには難しいことだった。


ジッキーにリギルを任せて、ランスアを連れていこうとしたのに厄介なことになった。今までのCDチームと2、3弾のメンバーはケンカを避けたがるような柔らかい面々が多かったのに、今回のリーダーは気が強かったのだ。


「分かった。とりあえず病院は出よう。」

「響先生、一旦リギルの診察任せられますか?後で付き添い誰か他の者を呼びますから。」

「分かりました。」

女性メンバーを呼んだらリギルが余計に緊張する。学校や外部出勤のメンバーは呼びにくい。一旦響は看護師を一人呼んでリギルと共に診察室に向かった。



そして……、外に連れ出した時点で、ランスアに食ってかかったジッキーとで揉め事に発展したのであった。




***




「…すみません。」


その後、リーダーミーティングで頭を下げるサルガス。


ランスアを大人しくさせるどころか、Gチームのジッキーとリギルの関係まで悪化してしまった。

ランスアとジッキーは言い合いで済んだが、その日のケンカは最近あった他のケンカ以上に関係性をこじらせてしまった。


あんな家族……あんな兄弟。それにまともに反応できないリギルにもジッキーは切れてしまう。ネットでは威勢がいいし、ラムダやファクトには文句も言えるのに、ランスアには何も言えない。それを指摘されたリギルもまた自室の引きこもりに戻ってしまった。彼女の訳がないのに響を彼女か?と言われたのも屈辱的だった。

馬鹿にされた上……せっかく比較的安心できる関係になったミツファ先生にも毛嫌いされたら…。いや、気持ち悪がられたであろう。みんなも嘲笑っていそうだ。


小学生の頃、女子が引きつった顔をしていた風景を思い出す。何もしていないのに、突然好きな子がどうこうという会話の的にされ、わざわざみんなの前でさらし者にされたこともあった。


もともと禁止ではあるが、自分のサイトのトークも更新しなくなり、配信者リッキーのトークルームも読者の一方通行になっている。





「…どうしようもないけど……どうしましょうかね。」

サラサがため息がちだ。


「今回のメンバー。中央区のそれなりの学校や家庭の家の者も多いし、もっと大人しいかと思ったらかなり性格が強いな……。」

親が安定企業や公務員の家の者も多い。自身も学生時代から、それなりの会社に勤めていたり公務員や自営業の者もいる。これまでもみんな気が強かったが、それともまた状況が違った。


アンタレスのエリートたちと接触のあるエリスたちは、多少はこの状況を覚悟していたが、外面に表れる部分がこんなにも強いのは少し想定外である。



そして同時に、なぜアンタレスの中央ではベガスや河漢を動かせなかったのかもなんとなく分かった……

というのか、再確認した思いだ。



なんというか、余裕がない。


そう。彼らには余裕がないのだ。

お金もある、安定した家もある。学校もいい学校。過去にボランティアにも多々参加している。常識のある社会環境。金持ちから中間層までいる。



でも………

そこに当てはまらない者を受け入れる心の余裕がなかった。


自分が生きて来た以外の環境、人、人生、節度、マナーに対する許容がない。

今自分が生きている社会、時代が一番で、最も正しい常識だと思っている。


国差別も人種差別もしないし、お年寄りにも子供にも優しい。


でも、なぜかいつも切羽詰まっている。




「………。」

少し上を眺めて考えるエリス。


「分かるな。自分もそうだったから。」

「…………」

「自分はそこまでルールにうるさくなかったし、社会のルールなど破りまくっていたが…まあ似たものはあった。」

アーツの中で唯一エリスの昔話を聞いたウヌクだけが納得していた。


何せ、リベラル派で好き勝手する予備軍のエリスだったのだ。暴力行使はしない平和系だったらしいが、それはいつでも暴力に転嫁する可能性を秘めている。

エリスがリベラル派教会から行き着くところにまでに行ったら恐ろしすぎる。サダルに並ぶラスボスになりそうだ。右派サダルと左派エリス。どちらも敵にしたくない。


神様、エリスをこっちに引っ張ってくれてありがとうと心底思う。

神様も必死であったことだろう。

奥様もありがとう。




「でも、我々の時代より少し子供だな。性格が強くても所詮守られた環境の中での強さだったということだ。真面目に塾も行ったんだろうな。そうでなくても、学校も真面目に行って。行きたくなければそれなりの対応もしてもらえ、社会のルールをきちんと守って来たんだろう。いいことじゃないか。アウトローが流行る時代でもないし。」

けなしているのか褒めているのかよく分からない。


「………。」

リーダー職からは一旦引いているが、ここに参加しているタウは何とも言えない。今まで必死でも自由に動けたアーツの世界が一気に狭まった気分だ。

その気分は、河漢へのやる気を失わせる気がする。非常に息苦しい。


自由過ぎる河漢を、ただの正攻法で動かしていけるのか。



「それに……」

エリスは少し空気を変える。


チコやサラサ、数人が目を合わせた。

「……他にも問題がある………。

扱いにくい人間が関わってきてきたな。彼らと非常に相性が悪い。」

ランスアの事だろう。


「……この話は、その内個別にしよう。」



一旦この場は解散になった。



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