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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十九章 内部にこそ不満

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66 キファVS石籠



一定の経験や技量を持ったアーツ第4弾は、2週間ほどの内部研修を済ませ、一部既に現場に出ていた。



しかし、アーツとして今までのようにいかなくなったのは、大房や武道系、ストリート系のメンバーばかりではなくなったということである。


第3弾までは比較的緩い文化で、性格が強い面々、もしくはそれを抱擁するようなメンバーが中核に集まっていた。そして個人プレー型が多く、他人がどういう性格だろうがあまり気にしない。ほどほどに言いたいこともいい、ほどほどに反発もし、ほどほどに相手の我儘も文句も聞く。スルーもうまい。多少の人の過ちも責める……が責めない。自分も大したことはないと知っているから。


そして、現場の事情はある程度個々で考え個々で処理していく。



例えば、第1弾はほぼ大房民で底辺学校卒も多し。ここに来るまで霊性のことさえピンとこなかった者が多い。

反面、高学歴も多い第2、3弾はそれを分かって、自分たちがカバーするところを自然と見極め、技能や身体系に優れている第1弾のバランスを保ってくれる兄貴姉御肌の者が多かった。


何せ彼らは、最初から志が違った。行き当たりばったり寄せ集め団体、まだ批判真っただ中だった移民ベガス計画。ベガス側もまとまっておらず、具体的見通しもハッキリしないことが多い。ネットやマスコミでぼろくそ、宗教的で紛争のイメージが強いユラス人に関わる環境。


そんなところに自ら飛び込んで来たメンバーたちなので、意思も精神性も覚悟も非常に強かったのだ。


実は第3弾までの正メンバー150名ほどに、諸事情以外でアーツを抜けた者はいない。

かなり理不尽な扱いを受けたし、大怪我をした者もいるのに、現在ベガスや河漢を離れている者も籍はそのままだ。



第1弾の中だけで言えば、サルガスが全く毛色の違うメンバーをまとめ、キファやファクトたちのような好き勝手するメンバーをタウやイオニアが操縦し、サルガスたちがいっぱいになっていたらベイドやソア、イータが間に入ってくれる。目立たないがタチアナやクルバトのような、平均型もあまり文句を言わず緩和剤になってくれ、トレーニングに追いつけない者もヴァーゴやリゲルが面倒を見てくれる。


もともと何人かが昔からの顔なじみというのもあり、個人主義メンバーながらもなんとなくフォローできる環境が整っていたのだ。大房民はなんだかんだいって()うるさく、人との距離が近いというのもあるだろう。

人間捨ててる?みたいなランアスのような人物も周りにたくさんいたので、多少おかしいくらいではあまり動揺もしない。


そして体育会系が全体的に多かったので、筋さえ通っていれば先輩の態度が悪くても平気。上下関係も平気、キツイ世界にも慣れていた。



けれど第4弾は、範囲を広げて倉鍵や天暈などの高等教育を受け、普通にすくすく育って来た面子もぼちぼちいる。理不尽なことはなく、子供であれ存在を良く認めてもらい教育から設備まで整えられた環境で生きてきた者が多い。


2、3弾にいたような、世の中や人生に疑問を抱いて「自分たった一人でもいい。ドブさらいからの本当に草の根からでもいい。成果がでないこともあるだろう。移民や河漢問題に取り組みたい」とここに来た者でなく、既に結果が出始め評価される場所に、評価される意義ある仕事をしたくて来たのだ。

もちろん無意味な事でない、それがアンタレスや誰かのためになることだからと確信を感じたからではあったが、第1弾とぶつかることになってしまう。


年齢的には彼らはそこまで変わらない。





河漢の第16仮設集合住宅にアーツの声が響く。


「なんで勝手に特例を認めたんですか!」

「は?あのじじいうるさいからいいじゃん。特例って、大げさな。」

「じじいって…。彼のような人は一旦事務所できちんと話し合うべきだろ?」

「いいよ。一人に構ってる時間ないし。特例じゃなくて効率上げだよ。」


揉めているのは、キファと4弾の若手メンバー数人。


原因は、あるじいさんがスラムの仮設保健センターで、湿布やグミなどたくさんほしいと言ったことだ。

体が悪くて何度も病院に行けないので一括でたくさんくれと。医療部外品は処方箋や許可などいらない、ただの配布品もある。

グミやビタミンタブレットは子供が注射した時のご褒美や、面会相談した人へのちょっとした粗品だ。様々な石鹸類、ボディークリームや応急箱など河漢家庭や個人に無料で配布されるものもあり、それがたくさんほしいとよく言いに来る。いろんな言い訳を使うが、今日は近所の動けない人に配るらしい。


動けない人には訪問員が定期的に訪れているし、みんな嘘と知っている。あのおじいさんの個室にいつの物なのか栄養ドリンクや乾パンがゴミと一緒にたくさん放置してあるのも知っている。飲んですらいないのだ。


あまりにしつこいので、キファは時々じいさんのカバンにガサっと備品を入れてしまったのだ。



「あのおじいさんに便乗して自分もほしい、自分には何でくれないんだ?ってこの前詰め寄られたんですよ?」

「グミごときでくだらない。そういう時はあのじいさんの家にいっぱいあるから貰ってこいって言っておけばいいんだよ。」

あのじいさんがあげるわけがないし、あの家からは誰もほしくないだろう。

「それかあのおじいさんの家に行った時に、回収してまたじいさんに配る。」

「……。」

呆れた顔をする第4弾。

「配布品は食べ物も数年持つ物だから、開封してなければじいさんちのでいいよ。ほしい人はじいさんと交渉しなって言っとけ。」

「そんなもし健康被害があったらどうするんだ?!」

「ねーよ。全部期限以上だし。変質したら困る薬や湿布系以外は、中確認して食えばいいだろ。余分に欲しい人間にあれこれかまうなよ。1家庭1個の物はあげてないし。」


「それがいろんな揉め事になるんだよ!」

「税金使ってるのにこの状態か?」

キファに食ってかかっているのは、明環第一高校出身の石籠(いづら)という男子と同じチームのメンバー。明環第一はアンタレスで一番の進学校である。保健センター機能は配布品を含めて税金で賄っているのだ。


「あちこちで万引きが起こってる河漢で今更何言ってんだよ?サービスの配布品は河漢の税金だからいいよ。」

「何言ってるんだ!いいわけない。」

「じいさんの面倒見てるんだ。河漢も文句言えないだろ。」

「アンタレスの税金も回してるだろ?」

「アンタレスのやりたくない仕事やってんだから、アンタレスも文句ないだろ?」

この言い草、信じられない。



キファはあのおじいさんに関しては何もかもがめんどくさいのだ。アーツが河漢に入った当初からそういう人で、人のいいローやタチアナや他のメンバーもよく絡まれている。キファは既に数回ぶつかって、今となってはあんな感じだ。行政の保健員も面倒なので放置。むしろ、アーツが構ってくれているのでホッとしていることだろう。

ちなみに万引き癖のある者は、霊性に表れるので誰がそうか分かる。その病癖すら治療する気の無い者はベガスには移住できない。


やたらエネルギーがあって突っかかって来る中年年配よりは、グミをあげて仕事が進むならそれでいいのだ。あのおじいさんは百歳をこえていて足腰が悪く走ることもできず、それ以外の問題もないし誰も構いたくない。



「俺らの仕事は、指定地域の住民をこの地区に移すことと住居の確定だから。あと、人材のピックアップ。行政が放っていることは放っておけばいいし、イヤなら警察にでも連れていけよ。お前らの言う通り税金だしな。」

実は既に警察にも突き出しているが、警察も動かない。何せ河漢だから。

第一、勝手に備品を持って行ったわけでもないので犯罪にもならないのだ。人が死んでも動かないのだから、こんなじいさん一人に動くわけがない。



「………」

何度かアーツ大房民と同じやり取りをしているが、何かが壊れる石籠。石籠もあちこちの河漢民にあれこれ詰められ正直まいっていた。


「………こんなところでこんなふうに仕事ができるわけがないだろ…。」

「…あ?バカなの?こんなところでこんな仕事をするのが俺らの仕事なんだよ。嫌なら中央区で公務員でもしてろよ。それとも優良企業でも行けば?企業努力するから環境もいいかもよ?」

「はぁ?」


他のメンバーたちもキファの言い方に頭にくる。

「………そういう問題じゃないだろ?」




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