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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十九章 内部にこそ不満

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63 お姉さんのお部屋は?



「で、ランスア。ここに何しに来たんだ?」


このどうしようもなさそうな男に、チコは淡々と聞く。


「え?あなた方のせいで住まいをなくしたんですけど。家を下さい。」

「は?何の話だ?」

「母が家を出て一人暮らしを始めたんです。それで帰るところがなくて困って…」

「……。」

「何も言ってくれないんですか?」

「で?」


「あなたたちが弟を追い出したせいで、母は1Kに移ってしまったんですよ!!!」

「で?なんで家をあげなきゃいけないんだ。家族が減れば小さい家に移ってもいいだろ?」

「俺がいるのに??」

これ以上引きこもり部屋を作らせないためであろう。

「親と1Kに住むのか?」


「そこしかないっしょ?そんでウチに彼女が来たら、追い出されたんす!ただの女友達なのに!」

「……。」

母親の1Kの家に、彼女を連れ込むなどありえないと思う皆さん。お母さん、かわいそうに。


「ただの友達が来ただけで追い出されるのか?」

「人のソファーでいちゃつくなとか!単に腰揉んでただけなのに!!」

ライミーが純粋そうな陽烏の耳を塞ぐ。


「それは追い出されて当然じゃ…。消毒すらしたい。」

ランスアにも飲み物を持ってきたファイが思わず言ってしまうが、目が合って逃げる。

「お母さん、みじめすぎる……。」

ナンパ4人組ですら母親に同情している。



「ランスア!」

そこに河漢から来たのは、ものすごく焦っているローであった。こんな真剣な顔のローを見るのはみんな初めてだ。

「……あれ?誰?なんで俺の事知ってんの?男とか覚えてないんだけど。」

兄に対してこの言い草。

「お前来んなよ!」

「………。っ?まさか兄貴?!」

同じ家に住んでいたはずなのにこの三人はどうなっていたのかと、みんな疑問でしかない。


そしてもう一人、焦るウヌク。

「響さんいないよね?!響さん守らないと!ファクト、お前また変なの連れて来んなよ!!」

「え?なんで変な人は俺担当?」

心の底からやめてほしい。



「まあ、兄貴の部屋でもいいんだけど。」

「断る!」

いつも能天気なローが今日は逞しい。


「あの……あなた仕事してるんですよね?自分で働いて家を借りたらどうですか?」

先の名刺を思い出してカウスが横から言ってみた。カウスも一応アーツの責任者だ。言う権利はある。いや、人として言う権利がある。


「…え……。働いたら負けじゃないですか?」

「はい?」

「こんな仕事で自分の魂を売れます?女性から金を巻き上げるんですよ?たまに男もいるけど。」

「………。」

みんな「いや、働けよ」と思う。

接待のあるラウンジやクラブは、別に楽しく話せばいいだけで体を売る仕事ではない。店によってはその延長もあるし、あまりいい仕事とも言えないが。


この時代は霊歴が残るので、まともな人間や上級霊層の人間はあまり軽率な行動はしないのだ。それ以前に霊性の高い人間は仕事や処理事情がない限り、そういう場にはほとんど行かない。霊性の高い人間にあけすけに見られるので、夫婦以外と仲睦まじくするメリットのない時代であった。



「ヒモも実質女性から巻き上げているんじゃないですか?」

ラムダが真面目に質問してしまう。

「違うよ。女の子が俺の事面倒見なきゃとか言うし。ウィンウィン!」

何がウィンウィンなのか。


「ヒモってなんですか?」

「陽烏ちゃんはそんな事知らないくていいよ。」

出てくる言葉がもうどれもしょうもない。


デバイスを見ながらチコがホログラムを開いた。

「寮付きの仕事紹介しようか?」

「え?イヤです。メカやAIがこんなにある時代になぜ人が働くんですか?人類バカなんですか?リギルと同じ部屋で生き残ります。洗濯物くらい畳みますから。」

「…っ?!」

ビビってしまうかわいそうなリギル。

「行政や教会とか何か支援はないのか?」

「この前の彼女に連れていかれたんだけど、どこもダメだって言われて。ケチだよな。」

彼女に捨てられて来たのか。いや、ちゃんと女性も分別して出してくれているけれど。


「ここは一定の審査が通らないと住めない。よってランスアは無理だ。」

「え~?チコちゃん。そこはチコちゃんの力量で何とかならないの~?ここの社長じゃないの?」

「お前、その図体で働かないとかクソなのか?ヒマじゃないのか?恥ずかしくないのか?」

「チコちゃん結構攻めますね。ヒマだから洗濯畳んでるじゃないですか~。」

真正のアホだとみんな思う。それとも大房民はみんなこうなのか。


ランスアはそこでジーとチコを見つめた。

「チコちゃん。」

「………。」

「お姉さんですよね?」

「は?お前の姉じゃない。」

「そうでなくて女性でいいですよね?」

「そうだが?」

「チコお姉様のお宅とかは?」

普通は男性の家に行くのではないかと言いたいが、おそらく言うだけ無駄であろう。


「なんてことを!!恥を知りなさい!!!」

遂に陽烏が激オコである。美女陽烏がいるのに、陽烏は範疇外らしい。

「いい加減にしろ!」

ローも焦っている。

「ロー、いい。話を聞こう。こいつが家に帰れなくなったのは私の責任でもある。

なあ、今まで女性の家にいたならそこに行けばいいだろ?」


「そう!それでこいつ、あっちこっち居座ってたんだよ!!」

叫ぶライミーにみんな納得した。ライミーは付き合った経験がないらしいので、身内が被害にあったのか。

「しかも、そこに知らない女連れ込むとかある????」

居座っていた家に他の女性を連れ込んだということか。ここでは磔に値する行為である。

「え?俺は知ってる子だよ?てか、もう大房には当てがないんだけど。でも大房楽だし。女の子優しいじゃん?」

いつ行っても入れてくれる子に今彼がいるらしい。


こいつ上級すぎると思うナンパ4人組。



「大丈夫、だいじょーぶ。チコちゃんは俺のタイプじゃないから、寝て食ってゲームして洗濯畳む以外しないから。」

洗濯を畳む以外の家事はできないのか。

第4弾どころか、ユラス人もドン引きしている。


「…私は既婚者だ。」

「え?マジ?!!じゃあやめる。既婚者とかには関わりたくない。

……ってか、旦那いるの???誰??」

「おい、ランスア、マジいい加減に…」

ローが止めに入るがカウスが答えた。


「あそこにいる方です。黒い長髪の。」

「……どこ?」

入口付近の席で無表情の男がめんどそうに見ているで、思わずチコに身を乗り出して耳打ちする。

「うおっ!あの黒い方?スペック高いっすね!怖っ。めっちゃ対照夫婦じゃないっすか!色的に。」

何せ黒髪とブロンドだ。暗黒と光が差す様な淡色。


「議長。奥様の危機ですよ。」

ファイがコソッと言うがサダルは無視である。そういってサダルの近くの席に座るのでファイも強者であった。誰もあんな席座りたくない。



「安心してくだーい。奥様には何もしませんよー。」

バカなのでランスアは入口に向かってグッドサインした。無知過ぎて何も怖れていない。


「てか、チコちゃんも~」


「俺を越える顔面ハイスペックなのに色気がないんだよね~。モテないでしょ?」

色気のないように生きてきたので、そんなものあるはずがないし必要もない。


「なんつうの?色がないつうか………」

勝手に評価して、遠くにいる旦那を見てまた何か考えている。

「…。」


「分かった!」

そんなランスアに、もうチコは反応するのも億劫だ。

「旦那もめっちゃハイスペックそうなのに、なんかこの二人に色気を感じないと思ったら、相性悪いんですね!!」

「?!!」

ビビりまくるのはユラス人。


バゴ!

「い゛っ!!」

遂にサラサがファイルで思いっきり頭を叩いた。リギルは既に硬直している。

「何するんですか!!」


割って入ったローは弟を制した。

「お前、知らない夫婦に失礼過ぎるだろ!!」

「今もう出会ってるだろ?チコちゃんとはお・と・も・だ・ち!」

「お前……」

「それに違う!夫婦仲の話ではない!『色気』の話だ!」

「は?」

『色気』の話とは何か。そこんとこは聞いておきたい大房民。


「………なんというか…。漂うものというか…。………個々で見るとなかなかなんだけど……」

偉そうに顔を上げる。


「二人合わさると…『全てが打ち消される』?」

ひどいことを言っている。

「?!!」


「マイナス掛けるマイナスはプラスの法則?!!」

ダブルフェニックスが生んだトンビこと、十四光ファクトが思わず叫んでしまう。

「こんな瞬時に!?すごい洞察力ですね!採用しましょう!!」

ついでに叫ぶカウスもファイルでぶたれる。何採用だ。


「分かった。河漢ならいくらでも住まいがある。河漢に行け。」

ついにチコが判決を下した。

「河漢?スラムじゃないですか?」

「スラムだけじゃない。ちゃんとした住居がある。」

半保護施設か社宅だ。

「へ~。かわいい子いる?」

「女性に手を出した瞬間、抹殺されるぞ。」

アドバイスする河漢メンバー。


「ランスアが来るのはイヤです。」

と河漢担当のローも耐えられなくなる。

「えー。好きだった子取っちゃったのまだ怒ってんの?付き合う前だったからいーじゃん。」

「………」

「最低すぎる。」

もう『アーツの限界点』だったかモアですら信じられない顔をしていた。さすがにそういうのを兄弟と絡めたくない。知人友人すら嫌だ。

自分たちはまだまともだったと自覚する。そう、イオニアやウヌクやモアがまともに見えるのだ。

「あなたたち、変なことで安心しないでよ。まとめてしょーもないから!反面教師にしなさい!!」

サラサが怒ってローを慰めた。


あいつのせいで母がとんでもなく苦労したのだ。ローでも悩むことがあるのかと、心底同情しかない。




「サルガス、こいつ見れるか?」

「俺がですか?」

正直嫌だが、大房含む生活圏にこの男がいる以上問題を起こしそうである。現在ロディアは親戚の家にいて見る家族もいない。

「しばらくアーツの仕事は減らすから、ここでのルールを叩きこんでほしい。ローとは別にするように。女子やリギルにも近付けさせるな。」

「……分かった。」

「それからガイシャス。メレナにバイルガルを付けさせろ。教育はメレナに。うるさかったらジーモニに。」

チコがどんどん指示を出す。まさか、戦闘系でもない男にユラス軍を使うとは。なぜ。


「勉強ですか?仕事の次に嫌いなんですけど。」

「住まいを提供する以上必須です。あと、せめてチコさんには『さん』の敬称を。」

サラサが睨むと、ランスアは素直に言うことを聞いた。家がなければ困るのだ。

「っ!分かりました!チコ様ですね!チコ様!!

あ、リギル君、連絡先と送金お願いね~!」

そしてアセンブルスたちにどこかに連行されて行く。



「シャウラ。金、送らせるなよ。」

第4弾リーダーのシャウラがサルガスに頷いた。


「チコさん!」

ライミーが怒っているのでチコは、

「ライミー。ベガス構築と河漢事業の元で好き勝手した奴は、幾つか権利剥奪してムショにぶち込めるから。」

と訳の分からない方法で安心させ立ち上がった。



「あ!」

去ろうとしたチコは思い出したように振り返る。

「河漢はあいつ以上に話の通じない奴が多いからな。」

と、第4弾に言ってのけたのであった。

第4弾は戦慄する。


言葉のキャッチボールができて、人の話を聞くだけ幾分マシなのである。




「リギル!」

「リギル大丈夫?!」

「リギル君?!」

みんなリギルに駆け寄るが、こちらはキャパオーバーでまだ固まっていた。


「ロー?ロー?!大丈夫か??」

「あんなの面倒見きれたら、天界最上級に昇天できる…。」

ローに至っては現実を振り切り、悟りの境地に入ってしまった。



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