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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十八章 止まっているのか進んでいるのか

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58 君の響きが



「ウヌク………。お前何やっている…。」


響の顔も見ずにウヌクに凄むイオニア。

「あ?見れば分かるだろ?お話し中だよ。」

響に対する時とは違い、ウヌクは愛嬌ゼロである。

「あの、イオニアさん。あの、その……ウヌクさんに私や友達のためにいろいろ迷惑を掛けて…。」

「で、ウヌクが怪我をしたの?」

そう言って、やっと響を見る。どうしていいのか分からず、ファクトも黙って見ている。


「あの……」

響がおずおずと話し出す。

「その…。ウヌクさんが怪我を小さく申告するから………」

「だから、いいってば。」

ウヌクは響を遮った。

「響先生のためじゃないから。太郎のためだから。響さんも太郎のためと思って。」

「………。」


「太郎?」

イオニアが訝し気に見た。

「あの頭のおかしかったガキか?」


え?なんでイオニアが太郎を知ってるの?と思う全員。

「え?イオニアさんもお知り合い?」

「大房のイベントで気ぃ狂ってたやつだろ?」

そうであった。大房でみんなドン引きでイオニアもあの場にいたのだ。三人は慣れているので気が狂っているというほどかと思うが、太郎君の言行は明らかに常識ある大人の行動ではないのでそうとも言える。ただガキではない。ウヌクやイオニアたちと歳は近い。


「太郎君はちょっと世間知らずなだけです!」

思わず響はかばってしまう。

「ちょっと?」

「……ちょっと…。ほら……なんていうか…。山で暮らしてたから!」

「山???」

イオニアだけでなく、男三人声を揃えてしまう。

「クマにでも育てられたのか?」

おそらく間違ってはいない。ギュグニーは山脈地帯が国の半分を占めている。


「とにかく響さん、大丈夫だから…。響さんも被害者だからさ。」

「分かりました。ウヌクさん。何かあったら言って下さいね。」

ウヌクは手を振って会場に戻っていく。


「………イオニアさんは行かないんですか?」

イオニアは響に向き直った。

「もしかしてニューロスにやられた?」

「?!」

なぜイオニアが知っているのかと驚く。

「前にニューロスが襲って来た時に、ウヌクが俺の二の前になるから逃げろとな。ニューロスにやられたんだろ?」

「………」

響は申し訳なさそうに下を向いて黙ってしまう。

「何でもいいけどさ、響さん危ないことはしないでね。」

「……はい…。」

「………」

イオニアが動かないので、顔を上げると響をじっと見ていた。

「………イオニアさん…。もしかして…まだ私の事好きです?」

「…………。」

真顔のまま答えない。


「…あのっ!あの、ごめんなさい!」

恥ずかしくて去って行こうとすると、腕を握られる。

「わっ!ごめんなさい!!これぞ意識過剰でした!」

黒歴史Ⅱか。

「………響さん…。」

「…いっ!」


「好きだよ………。」

「…………」

思わず止まってしまう。


「…諦めてるけど……。」

「…。はあ…そうですか………。」

響は力なくそう答える。


「イオニアさん、大丈夫です。イオニアさんは最初に会った時のナンパなイメージより、だいぶ……だいぶカッコいいです!これからいくらでもイケます!」

「……何が?」

今度はイオニアが戸惑っている。

「きっとモテますよ!モテ期来ます!!」

イオニアは激モテでもないが別に女性に困るタイプではない。

「………。」

「大丈夫!きっとステキな人が見付かります!」

「そうだね……。付き合うのは大丈夫だと思うけれど、結婚までは未経験だから……。見付かったらいいよね…。」

答え方が分からなくてそう言っておく。


はっきり言って一生一緒にいたい、ずっと一緒にいたいと将来図まで描いてしまったのは響が初めてである。ベガスに来るまでそんなことを考えて誰かと付き合ったこともなかった。しかも、そんな少女じみたことを考えるのが楽しいと思ってしまった。

付き合ってもいない人と将来のことを考えるなど妄想チームではないか。


妄想チームは俺の嫁に言わせるセリフや、着せるファッション、お互いの職業まで考えるというハイレベルな技を持っているが。なにせ妄想チームなのだ。



「で、太郎は何者?」

「ひっ!!そこに話を戻さないで!!」



「太郎君は俺の兄さんだよ。」

ウヌクと戻らずに壁にヤンキー座りで見ていたファクト。

「うわ!いたのっ??」

「……ファクトの兄?」

「養子の兄。まだみんなには言わないでね。」

恥ずかしい響と、はあ?という感じのイオニアである。

「……。」


イオニアはすぐに分かった。心星博士を始めとするSR社などの重鎮たちは、パイロットだった人間や被験者などを養子にしている場合が多い。金持ちのステータスなのか、それともせめてもの償いなのか。

それならばおそらく………太郎は被験体であろう。



「響さん。あいつ何してんの?」

「あいつって?」

「タラゼド。」

「っ!」

大胆な告白をしてから会っていない。


「…………。」

シェダルの件があってから響はそのことに触れたくなかった。

ただ、一度会って保留にしないととは思う。それでシェダルとの距離を疑われたら仕方のないことだ。この仕事は放棄できない。途中までサイコスを啓発して未熟のまま放置することは非常に危険だ。


「響さん。あいつが曖昧ならさ、俺もから言うから。はっきしいってムカつくし…。」

「……?!違います!」

「違うって、あのさ、マジであいつ………」


「違います!!私が曖昧なんです!」

響が強く言う。

「……響さんが?」


「……私が………曖昧なんです……」

「…。」


「でも、この仕事が終わったら…。私………私…。」

言葉が出てこない響をイオニアは落ち着ける。

「…分かった。響さん。無理に言わなくていいよ。」

「でもっ。」



同じ言葉が曖昧でも、あのアンドロイド、ジョーイと違って響には生命の響きがあった。



そして、イオニアは自分ではなく相手の中に………強い熱さと胸が締め付けられる世界が見える。イオニア自身だけではなく、響の熱が見える。


が、そこでビビる。

「…っわ!!」

「ひぇっ!!」

突然視界に入る座敷童。


通路の隅で人形のように立っているファイであった。

「どうした?ファイ。」

「どうしたも何も、響先生がらみはいつも問題だらけだから、危ないことが起こってないか見に来たの。」

ジトーと三人を見ている。

「………。」


「響さんは、太郎と浮気をするかと思ったら、イオニアとするの?」

「はっ?!!!」

目を丸くする三人。

「曖昧って、そういう話なのか??!」

さすがにイオニアがツッコんでしまう。コパーにモーションをかけられている奴ではなく、響の方に相手がいたとは。選びたい放題のこの状況に遂に目覚めてしまったのか。


ブンブン首を振る響。

「違います!仕事でいろいろあるの!!」

「……。」

さらに疑い深くファイは見る。

「ファイ!」

「だってあいつさ、響さんの犬じゃん。」

「え?!キファだけでなく??」

ファクトもいい加減な事を言ってしまう。

「いい加減にしろ。響さんを混乱させるな。」

イオニアは二人が暴走する前に止めて、響の方を真っ直ぐ向いた。



「響さん、少しでいいからさ、手を触っていい?」

「へ?」

「…俺も曖昧だからさ。でも、響さんの尊厳と………響さんに失礼のないように……。」

「はい?」

「会いたくなかったけど、やっぱり会えてよかった。」

「ふ?」


と言っているうちに響の右手を軽く握り、イオニアは少し姿勢を下げ自分の顔に持って行く。

「っ!???」

口??と思って響とファクトでアワアワしていると、イオニアは少しだけ自分の額にその手を当てた。響の手は少しだけ荒れていてほんのり温かい。

「???」


アワアワしているうちにイオニアはそっとその手を離して笑みを見せる。

「気持ち悪くない?」

「はっ?びっくりしました!」

ただただびっくりしたとしか言えない。

「よかった。忘れないでおくから。」

「え?」


「響さんも自分を見失わないでね。俺もさ、やっぱり響さんの前に恥ずかしくない自分でいたいから。できるか分かんないけど。」

「……。」

響はその手を思わず擦る。なぜイオニアがいきなりそんな(おごそ)かなことを言うのか分からないが、今回だけは、手の甲に敬意を込めて挨拶のキスをするハンドクスのつもりで受け取ることにした。


そこでファクトが自分のデバイスを見せる。

「イオニア……。『監督役のくせにどこにいる。早く連れてこい』ってサルガスから。」

「………はあ。」

イオニアはめんどくさそうにため息をついて会場に戻っていった。



「…………。」

響は何も言えずにただ見送る。



「ううっ。やっぱり私はイオニア推しだわ。切ない………、苦しい………。耐えられないっ。」

勝手に一人で憂いているファイであった。




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