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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十七章 トカゲは舞う

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49 思念の向こう側にいるのはあなた?



「…………。」


「何も言わないんだな。」

毛布にくるまって、ソファーから黙って窓を見ているシェダルに、シャプレーは言った。


「………じゃあ聞いてもいいのか?お前はなんで何もない顔をしているんだ?」

先ほど起きたシェダルが突拍子もないことを聞く。

「お前の親さ………」

「っ!待ってくれ!」

東アジアの上官のような年配の男が指示を出すと、他の男性職員が席を外す。


それをなんともない顔で見ているシャプレー。

こちらに来ているスピカとその長官以外が出て行くと、長官は疲れた顔で頷く。

「言っていいの?

あのさ、お前の親さ。」

「…………」


「お前のこと、売ったんだろ?」


先の「親さ…」で言われることを予測したのかシャプレーは驚かないが、上官はゲッソリした顔をしていた。


「……おい。失礼な言葉はやめるんだ。」

「知らね。でも、ギュグニーのクソどもが言ってたからさ。しかも、お前の父親も相当らしいけど、そうじゃなくて母親に売られたんだってな。SR社内は腐ってるって言ったぞ。」

「………。」


シャプレーは何の動揺もなく、座る姿勢をシェダルに向けて言った。

「言い方は間違っているが………、まあ売ったとも言うのか?

でも、同意の上だ。」

「………。」


驚きながらも少しおもしろそうな顔になるシェダル。

「ふーん。それでお前、被験体なんだ。」

上官は焦った顔で見ている。

「シャプレー君。すまない。」

「いえ、佐藤長官のせいではありませんし。」


そして、またシェダルに問う。

「今まで話さなかったのになぜ今?」

「社長もDPサイコス持ってんだろ?」

「……そうらしいな。使いこなせないが。」


「なんか被験体になってあれもこれも手に入れたら、世界を牛耳る力でも手に入ると思った?俺はいくつか結構イケそうな力があったけれど、世界どころかアンタレスでもただの保護対象にしかなれなれなかったんだけど。

保護対象者だよ?笑えるよな。」

「そうだな。不満か?」

「全然。昔より気軽だし、別に世界どうとか俺はないし。どんなに力があっても、バカは利用されて終わりだって知ったし。利用されないようにだけしたいとは思う。

でも、社長は頭いいからアジアくらいは牛耳れそうだな……。」


シェダルが嫌味や相手を試すために話しているのか、ただの興味本心なのか分からない。

ただ、今までのシェダルの感じだと、悪気はないのかもしれない。何も考えていないだけで。



「俺もさ、もう少し普通になりたいんだ。」


「………。そうなのか?十分普通だと思うが。」

「いろんな人に変だって言われる。そういう顔もされるし。社長はなんでうまくやっていけるの?クソみたいな奴も見分けてるだろ?」

「まあそうだな。私はほとんどここで育ってきたし、都市のことはよく弁えている。

ギュグニーの常識はここでは通じないことも多い。………まず、そこまで心を明け透けに話さないな。それに人には気を遣う。」


「…………。」

その意味は分かるが、シェダルには加減が分からない。

ファクトたちには人と話をたくさんした方が、世の中の勉強になると言われた。そもそも「気を遣う」とは?心を話さないとは?ギュグニーなど本心を話せば破滅する場所だ。ギュグニーの方がよっぽど危険ではないのかと言われるが、シェダルとしては東アジアの方が複雑に感じる。


「ここで生きたいのか?」

「……別に。」


シェダルはまた窓の方を見る。シャプレーに顔を向けないまま、話しかけているのか独り言なのか分からないような感じでつぶやく。


「………自分はここで生きられるのか?」


一応答えておく。

「…少し工夫はいるが………きっとな。」



意味があるのかないのか分からない話を終えた二人を、ホッとするように長官は見ていた。




***




SR社のいつも行かない支社の会議室で、響とシャプレーたちは会う。


「どうだ?」


「そうですね。迷いがない性格ですね。だからビルドを描けるのだと思います。

でも、シェダルはこれからも何かの時に狙われる可能性がある…。」

考えながら響は話していく。


「私がいなくてもビルドを描ける段階に入ったら、少し危険な層に入って慣らす必要があります。

想定外や()()()自身への対応力など。


ただ、言葉の通り、自身も危険になります。

悪意のある物や歪んだ趣味嗜好の濃い者はその先には行けません。()()()に引きずられます。

自分の()()に飲まれることもありますし。」


「ミイラがミイラ取りになるということだな。」

「最悪、身の破滅か。」

周りの責任者たちも響に確認しながら進める。

「はい。私もどうしてもの時しか行かないし、なぜそれをしてはいけないか、なぜそれが倫理に外れるのかを、心だけでなく理論と精神性、霊性で分かっていない人間には危険です。」

「………。」


倫理観…シェダルに果たしてどれだけあるのか。


助かっているのは、親のせいであんな環境で育っても性に嫌悪感があり、悪い女癖はないことだ。あのチコに似た顔でそこら中に手を出されても困るが、むしろ白すぎて心配になる。


でもこれは、アジアを裏切ったミコライの性質でもある。彼は被験者に可能な限りの潔癖を望んだ。ミクライ自信が潔癖で完璧主義。歪んだ男女や肉体関係を持つと霊性がぶれ、被験体に影響を及ぼすことを知っていたからだ。

他の博士はそこまでではなかったが、彼らも完成形の可能性のある被験者にはそう対処したはずだ。




「響さんが彼の面倒を見てくれたらいいのにな…。」

しれっとした顔で固そうな顔の中年の東アジアの人間が言う。からかっている感じでなく真顔だ。

「………。」

響は微妙に困ってしまう。


「おいおい。響さんに失礼だろ。セクハラにもなるぞ。」

他の責任者が言うが、誰も反論はしない。


「………真面目な話だ。響さんはフリーなのか?」


「え?………」


フリーでないのに、自分に好意のある人間の心の担当になるなどありえるのか。

「………。他に…気になっている人はいます…。なんとなく………一応。」

全体ではないが一部の人には、タラゼドのことやその関係を話してはいる。


基本隠し事はしない。

そういう曖昧な思いが心理層で揺れや穴になる場合があるからだ。今回はとくに相手がシェダル。タラゼドと結婚も婚約もしていない関係だからこそ隙がある。シェダルにとって、似た心理層の思念にとっては、その隙間に入りやすいのだ。普段は仕事と自分の気持ちや諸事情はきっぱり分けられるが、微妙な相手だ。

なので、言いたくないのに言ってしまった…。


「そうなのか。残念だな。まあ、気が向いたらシェダルをよろしく頼むよ。」

「…うちの孫に紹介したいくらいだ。」

「孫は同い年なのに精神性が全然違う…。見習ってほしいな。」

響の担当した仕事のリストを見て驚いている者もいる。20代の一般女性がする仕事ではない。

「おい、やめろ。今度ウチの仕事に来にくくなるだろ。」

「そうだぞ。蛍惑のお嬢様だ。まず親が許すわけがない。」


「………。」

響は言われたい放題で固まってしまう。

「響さん。ごめんなさい。みんな世話焼きで………。言っておきます。」

黙ってしまう響に女性職員が助け舟を出していた。牧師資格のある者も多いので、どうしてもそういう話になってしまうのだ。



なのにシャプレーも言ってしまう。

「貰ってもらえれば………。そうなれば、話は早いがな…。」

シェダルのことであろう。何せ、子犬みたいに響について行くのだ。


なまじ嫌いになれない相手なので響も困る。心理層ではなく、直接いろいろ言われてしまうとは。

「はは…。」

と、響は困った顔をした。



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