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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十三章 緑の瞳
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4 魂が輝くから



そこに、カウスが仕事をしないので、フェクダがやって来た。


「映ってますね。バイクや監視カメラにも。確認してください。」

映像を見せられると、先のジョーイやみんな、そして隠れるようにいる花子さんも見える。

「これが、先の話のジョーイですか?」

「はい。……で、こっちが緑野花子さん。」

「………あっちの車にいる機体ですね。」

花子さんはリゲルの近くで大人しく座っている。



「…………。」

一方、この人は放心していた。

「………大丈夫か?イオニア。」

イユーニたちが呆けているイオニアに心配そうに声を掛けた。蒼白な顔をしている。

「………アンドロイドでもキツイ…。轢いてしまった……。」

人間型の人間のように喋り動く体を蹴り、バイクで轢いた。正直気分が良くない。

「顔色が悪いぞ。横になるか?」

「いい………。」



「ファクトは大丈夫なんか?」

全くもって平気そうなファクトは、ユラス軍が水しかくれないので、リゲルの車にファクトが常備搭載しているスナック菓子を食べていた。

「平気だけど。」

なにせ、高速道路で響を襲うキチガイのようなモーゼスを見ている。あの時点で、既にファクトの中にアンドロイド、キチガイという極論が出来上がっている。なにせ、ファクトから見ればシリウスもおかしい。


なぜ、博愛、人類愛の政府どころか連合国共同開発の中心アンドロイドか自分に構って来るのだ。世界を構っていればいいのに。超違和感ありありだ。



「お前、人の心があるのか?これ、相手が大事な人とかに真似てきたら終わりだろ……」

イオニアはファクトに問う。生存、死んだ人間関わらず実在の人物に似せた機体を作ることは国際法で禁止されている。ただ、それでもそういうことをする人間はいるのだが、まず表には出ない。そんな層もベージンのターゲットだろう。裕福層に多いのだ。


「………。人間とニューロスは見えている霊性が違うから……」

ファクトには人と人間の違いが見える。そもそもアンドロイドには霊性がないのだから。


なお、本人と憑りついた霊魂も違う。

生きている人間の霊性は頭のてっぺんのから出る霊線によって、自分と同じ姿の霊魂と体とで繋がっている。霊性の方は例えば整形手術をしても元の姿と変わらない。けれど、だんだん心の表れが出てくる。つまり、実物の見た目と霊性は表れにおいて比例しない。美人が美人とも限らないし、精神性の輝きが霊性そのものの輝くとなる。



「…そうか……。それでも見た目は同じ人間なのに………。」

「イオニアって、そういうこと割り切れるタイプだと思ってた…。」

少し意外でファクトは驚く。イオニア自身もそんな自分に困惑していた。前はもっと割り切った性格だったのは確かだ。


「……轢いたし…蹴っただろ。俺。」

「まあね…」

「…響さん蹴ったの思い出して、身震いがする………。」

「………響さん?」

あの時を思い出してしまったのか。

「それにあの機体…響さんに似てただろ……。」

「…似てた?」

似てはいない。


「……あ!」

少し考えて気が付く。前髪を切りそろえた長い髪。そういえば、髪を切る前の響に髪型は少し似ていた。響と違ってオンザ眉毛だったけれど。髪も瞳の色も違うので、気が付かなかった。

イオニアはよっぽど響を忘れられないのか。別れても次、みたいなタイプだったのに、ファクト目線から見ても辛すぎる。切ない。


「それにさ……ヒューマノイドでなくてサイボーグの可能性だってあるんだぞ。どこかで本物と間違える可能性もあるし。攻撃できるか?銃向けられるか?」

人間の可能性もあるのに。

「サイボーグだったり……見知った人に似せてくるのは困るよね……。」

それはファクトでも思う。


国際法で出来ないことを、今、ベージン社はそれすら変えようとしていのだ。死んだ人に会いたい、そばにいてほしい気持ちはあまりにも強い時がある。


「…………。」

そんな経験がないから、ファクトには分からない。


でも……、

「大切だった人が、アンドロイドの中に宿るわけじゃないんだ…。」

ファクトはそう感じる。


実際のところ、人間に近い物にほど彷徨っている霊魂が憑りつきやすい。だから人形などに霊がいる場合はある。でも、それは他人の場合が多い。かわいい愛娘に似せても、おじさんの霊がその環境に依存して憑いている場合もある。


偏った愛の現れは、亡くなった本人ではなく願った者の類似者を引き寄せる。

望んだ人が必ずしもそこにいるわけではない。



死んだ後の世界にも法則があるのだ。


背負ってきた歴史と、生きていた時の行いによって死後の世界が決まる。

そして思想、思考的傾向によって、似た分類の世界に流れていく。死後の世界は精神が支配するからだ。


世界観が狭かったり頭が硬ければ、他者が介入できず、他者の世界にも行けず、死んでも生きていた時の自分の世界を延々と回り続ける。依存していた環境分しか世界を見ることはできないこともあるのだ。



ただ、人によっては人生に選択もなく、そうとしか生きられなかった場合もある。


生まれてすぐ死んでしまった。生まれた時から病弱。

ほぼ自由のない環境。逆境。与えられなかった人格性。暴力の中や戦時中に生まれた。

そういう霊性も、何かしらの形で()()()()()を知る必要がある。様々な法則の中で、それを見付けていくのだ。



神の世界には、必ず秩序があり、それに準じて魂も洗練されて行かなくてはならない。秩序と法則の無い世界では、宇宙も人間も形も意識も保てない。


この地で無償の愛を受け成長し、教育を受け、社会と秩序を学び、愛を知り、子供から大人になっていくように。霊性や魂にも、完成までの成長が必要なのだ。


『精神性の中にない世界』には行けないのだから。


後は、悠久なる時間の流れの中で、誰かが全ての世界線を変えてくれるまで、じっと、じっと待つしかない。




「………。」

「イオニア…。」


何でも割り切って考えそうなほど、大房で見てきたイオニアはあっけらかんとして強く見えた。青白い顔でどっと疲れているイオニアを見てファクトは戸惑う。

「気持ちに引っ掛かることはさ、カウスさんやエリス牧師とか、誰か言いやすい人でもいいから相談した方がいいよ……。」

そういうことが積み重なって、後で取り返しのつかなくなる場合もあるから。



ただ、正道教の中で信頼できる大人に囲まれ、よい教育や牧師たちに恵まれ、幼少期から精神性、内性をさらけ出せる生き方や訓練をしてきたファクトと、霊性の閉じた環境で生きてきた大房近辺民は違う。


本来の正道教は聖典に準じ、第三者的な視点から自分を分析し、自分の何が自身の人生を難しくしているかを学んでいる。


そしてとくに男性は、そういう部分の心の成長が鈍い。しかも大房。

大房にも正道教教会が多数あり、新教も本来は神性教育をするが、過去の反対運動で独自な成長をした教会が多く、その地盤が育たずに新時代前の価値観のままである場合が多い。


心の内を人に話すなんてしたこともなかったし、そもそも自分の気持ちと向き合うという考えすらこれまでしてこなかったのだ。信頼し合うはずの家族や夫婦関係すら壊れている家庭が多く、それでいい、そんなものだという価値観で定着している。人生初動の大半を占める青年期までに共有を学ぶのではなく、自分の世界を固めることに時間を作って来た。


そんな中で、むしろたくさんの盾を作って生きてきたのだから。




***




あのジョーイというアンドロイドは捕獲できなかった。


そして、河漢管轄が尋問する前に、緑野花子さんはすっかりジャンク屋の倉庫に眠っていた時の、ただの人形に戻っていた。


幸い電源はそのままで動くは動くが、今の時代ではマニアしか好まなそうな単純行動のただの旧型アンドロイドだ。会話はできるが、人間や状況を察しようという感じではなく、単純なプログラム通りの受け答えをする。これでも人間性は高く、旧時代では先端機器だったが。

一見流暢に話し、河漢の艾葉(がいよう)にいた時と変わりないように見えるが、リゲルにもその微妙な違和感は分かった。少なくとも、多少おかしくてもファクトの名前を呼んでいた時までは『シリウス』だった。


なのに、解析してもシリウスが入っていたという痕跡もない。



「出し抜かれたな…。」

河漢事務所まで来た一同。

ユラス軍のサイテックス部隊がそうぼやいていた。

SR社はシリウスを知って歩かせているのか。それとも知らないのか。東アジアには、まだ緑の花子さんにシリウスが入っていたとは言っていない。ファクトたちはこれを切り札にするか、報告するかは一旦ベガス側か誰かに相談することにした。



そして持ち主である、ジャンク屋のジャミナイも呼ばれてやって来た。

「おい!ファクト!何でもっと早く、ウチの倉庫が荒らされていると俺に言わんのだ!!ウチの倉庫はシリウスのおもちゃ箱じゃない!!」

「あの倉庫、放置してたジャミナイが悪いんじゃん。たまには整理断捨離しなよ。」

「お前が言うか??」

「しー!それに、その名前で叫ばないでよ。みんなが花子さんの中身を知ってるわけじゃないから!」

「うるせーな。」


河漢民より見た目がぶっ飛んでいるジャミナイに、河漢チームや軍まで引いている。

オレンジ髪の長めの坊主に、緑の逆モヒカン。リゲルやタラゼド以上の三白眼で世紀末漫画の悪役雑魚である。ヤンキー漫画なら中ボスぐらいは行けるだろう。話し方も悪く、頭も悪そうだが、ジャンク屋で悠々自適に暮らせるくらいの脳はある。歩いているだけで職質抜きで速攻逮捕されそうだ。

ただ、うなぎを奢ってもらう時、高校生に全額支払わせないポリシーくらいはある。カツアゲもしない。


前にシリウスとモーゼスがジャンク屋に侵入したを知っているので、ジャミナイに今回の件は隠していない。むしろ、ジャミナイの視点で解析しろとサイテックスに頼まれ、ノートの前で格闘していた。旧システムは単純だが、改造も多く込み入って整頓されておらずジャンク屋の方が詳しかったりする。



ムギは学校にいる時と違って、非常に冷静に河漢や軍関係者と何か話していた。


出没鬼のさぼり魔ウヌクは、出歩いている時ムギを見かけることがある。でも今のムギは、学校内でシステムも友達も勉強も何も分からないとオドオドしている姿と全く違っていた。


ムギがとてもカッコよく見えて、ただそれだけでもなくて、非常に混乱していた。



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