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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十七章 トカゲは舞う

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45 複雑な子



「ふがっ。」

あっという間にマットに沈められる河漢メンバー。


当然だが、教官から一通り型を習っても、チコに触れることさえできない。

あの、賭け場のチャンプ。サダルと対戦したあのマルシクでさえ一蹴りでチコにやられる。


「…。」

呆然としてしまうが、チコの周りにいる面子に対しても、おそらく河漢メンバーには蹴りの1つも入れられないかもしれない。なにせ、世界最強軍の1つであるユラス軍の中枢たちである。現在はナオス国家ダーオの中央軍だが、出身はオミクロン軍の者も多い。オミクロン軍の個々の実力は、ユラス軍と共に世界に並ぶトップ三強の東アジア軍やウェストリューシア、4番手イーストリューシア軍より飛びぬけている。

そんな人たちはもっとヤバい場所に勤務をしてほしいとアーツは思うのだが、他に人を送っているからご心配なくといつも言われるのだ。それに、まずアンタレスをきっかり固めると。



「あの、チコさん。ただやってしまったら、何の訓練にもならないんすけど。」

イオニアが正論を言う。

「締め技をしたかったらしいので、締め技以前の問題だと一旦知ってほしいからな。」

「………」

癒し系王子が実は最も死に近い存在だと知り、戦慄する一同。締める前に殺される。



河漢にギュグニーが入ったことは一般人でも知っていた。

基本的には警報が来た時点で回避一択だが、それでも対面してしまう場合もある。その時に、イオニアやローのように、少しでも武術を持っていたら危険を避けられることもある。そして、河漢住民と衝突が起こった場合もだ。

今回霊性のいい者はこっちに引っ張ったが、現場にはそうでない者もたくさんいて、中には最初から反発している者たちもいた。彼らをぶちのめすのではなく、自衛をしながら押さえ込む方法を教えなければならない。


「あの……チコ先生がここでの最強ですか?」

負けつつもそういう話に余念がないメンバー。


「………。」

チコは少し考えて、今日の護衛フェクダに聞く。

「どう思う?」

「…どうでしょう。総合したらチコ様とは限らないかもしれません。」

「うおおおお!!!!スゲー。まだ上がいるのか!!」

「チコ様のように()()()()()()()奴もいますし。条件によります。」

はっきり言えばチコは甘い。みんな知らないが、容赦なく人をボコるという点ではサダルの方がひどい。正道教に改宗していなければ、粛清もいいところであっただろう。実際、ユラスを変える時にかなりの事をしている。

そして変態カウスもいるし、アーツがまだ知らない人や、本性を出していないヤバい人たちはまだまだいるのだ。



チコが振る。

「ミコラル。ここはイオニアとベイジイたちに任せて、イユーニたちと現場に行くぞ。」

「はっ。」

「えっ!!ウチの教官紅一点を持って行かないで下さい!!」

たとえチャンプを打ちのめしたミコラルであっても、女子がいるのといないのでは雰囲気が全然違うのである。他の女性は違うチームに入っていた。ここにはABCチームがいるのだが、やる気満々のABチームに比べてCチームは「この訓練がてら殺されるのでは……」という雰囲気に押されている。


この項目の後に防具などプロテクター関係の講習があり、しばらく仕事でご無沙汰していたタラゼドが復習を兼ねて参加しろと言われ、有給消化をしてフロアに入って来た。

「お、タラゼド。後はよろしくな。」

「あ、はい。いってらっしゃい。」


「………。」

ABチーム以外は見たことのないゴツイ男が入って来て、げんなり感がハンパない河漢Cチームであった。




***




「…………。」

開いた口が塞がらないとはこのこと、

………を、現在体現しているのは教室にいるファクト。



「初めまして。SR社より派遣されたシリウスと申します。」

ニコニコ顔でファクトのいる藤湾大に現れたのは、紛れもないシリウスであった。


「今日は皆さんの授業をご一緒させていただきます!今度の式典に関して、皆さんがどんな授業をしているのか体験したいです。よろしくお願いいたします!」

「………。」

同じ選択授業をしているリゲルも言葉がないが、教室中には歓声が湧いた。


緑の花子さんではなく、久々のオリジナルだ。

あの子供っぽさや我が儘さが抜けて、何もかもがしおらしく、強く、そして美しい。


しかも、信じられないことに太郎君花子さんと三人でお祝いの焼き肉をした日に、ファクトが買ってあげた服を着ている。太郎君の服だけ買いまくっていたら拗ねたので、花子さんにもダボダボトレーナーとスキニーパンツを買ってあげたのだ。という訳で、珍しくストリート系シリウスである。そういえば、チコの時もそうだったなーと思う、それ以外のパターンが分からない男女交際経験なしの男子学生。


「…怖っ!あれ、俺が買った服!シリウスじゃなくて花子さんにプレゼントしたのに!」

「…。」

リゲルが哀れみの目で見ている。


「はい!シリウスさん!」

「まあ!心星くんですね。何でしょう?」

質問をするファクトを、嬉しそうに迷いなく当てるシリウス。


「シリウスさんの核はシステムのデータですよね?ここに来なくてもデータでも送ったら、他の仕事にさらに精を出せるのではないでしょうか?」

そんなものデータでよいと強調する。

「……………。」

ここに存在することをいきなり否定されて目が点になっている。


「でも、データでは私も皆さんもリアルタイムの、そして肉感のあるやり取りはできません。今まさにそうです。後からデータを貰ったからといって、それがなんでしょう。皆さんも、大切な人に写真や動画で会ったからこそ、会いたい、直接抱きしめたいと思うでしょ?」

そう言って美しく微笑む。こわ!

データでいいし。脳内処理、データなんでしょ?

「なら、ここでなくともニューロス関係の言語やシステム関係のエンジニア専攻に行った方が………」

「システムだけ構築しても意味がありません。そこにどんな思いが入っているかです。教育科は最適ですよ。」

「…………」



感覚もデータ処理のくせに?

それこそデジタルドラッグのように心地よい優しい気分でも流し込めばいい。


と思うが、他の人以上に今のシリウスの言葉に含みを感じ、みんなの前でやり込められては困ると何も言わずに座る。

この頃、緑の花子さんを見慣れてしまったせいか、黒髪を煌めかせるシリウスは非常に大人に見えた。


同じく授業を共にするニッカも、このあからさまなアプローチは何だと二人を見ていた。

「ファクトはシリウスに個人的に好かれているの?」

「は?シリウスは平等の象徴だろ?そんな訳ないっ。」

ムキになる。

「平等を尊ぶ人も、自分の特別はいると思うよ?」

「………アンドロイドにそれはやめてくれ…。」




シリウスは今、かなり動きが自由になっている。


ストッパーだったミザルが、妊娠をしてからすっかり丸くなってしまった。

ホルモンの力、恐るべしと思わざる負えない。丸くなったというか、実際はファクトに気を回せなくなってしまったのだ。お腹も膨らんできて子供が降りてきやすいのか、まだそこまで大きくないように見えるのに非常にゆっくり歩いている。今、研究所は自分だけが引導していかなくてもいいという安心感もあるのだろう。


普通、二人目から勝手が分かってきて育児に手を抜くのだが、ファクトの時は研究との二足の草鞋で、どんな準備をしたのか育児をしたのか、必死だったことしか覚えていない。そのためか、育児書を見ながらやたらあれこれ揃えていた。ファクトは大味の子だったので、繊細な子だったら大変だと服も全部オーガニックコットンだ。


ファクトにも最初は丁寧だったのだが、土の上や道端に寝転ぶ、直ぐ全身汚す、勝手に脱いでめちゃくちゃに着替える、トイレでも何でも入って水浴びをしてしまうと大変な子だったので、いつの間にかこだわりはなくなっていたのだ。





授業が終わって生徒たちに囲まれているシリウスを横に、ファクトはス~っと教室を抜けようとする。


「あ、心星くんですよね?少し待っていてください。」

なのに、シリウスの同行スタッフに止められた。


「あ、いや。これから昼飯なのでボリーニャをゲットしないといけなんです。すぐ売り切れるから。」

ボリーニャはチーズのコロッケだ。

「え?ボリーニャ?好きなの?」

いきなりタメ口のスタッフ。

「え?お兄さんも?あの衣がカリッとして中はモチモチなのにフワとしたチーズとジャガイモのマッシュが最高です!」

「俺はそこ辺り出身だから…。」

「マジっすか?!」

「でも、それはボリーニャとはちょっと違うんだな…。丸くないだろ。」

「半月型です。何にしてもあの辺のコロッケは最高ですよね!あれ、食わず嫌いするファイやリギルもうまいって。俺、ちょっとしたコロッケの伝道師です。」

「おお、友よ!うちは母が作ってくれるよ!」

「えーっ、食いたいです!」


と、盛り上がってしまったところを止められる。

「心星くん!」

シリウスである。

「…………。」




***




コロッケやフランスパンのサンドイッチを抱えて、ベランダのテーブルに座るシリウスとファクト。


そして少し固まっているニッカ。

「……………。」

ファクトまた後でね、と去って行こうとするニッカも連れてきてしまった。一応スタッフもいるがシリウスと二人きりはイヤである。



そして、一方シリウスは目の前にいる女性にも関心を示す。

「……」

シリウスには分かる。目の前のニッカという子。たまたまファクトが連れてきた子に………



ギュグニーの匂いがする。


あの、懐かしい匂い。



優しく笑いながらシリウスは二人に話しかけた。

「お友達?」

「……。」

シリウスとファクトで会話をすると思ったのに、ファクトが話さないのでニッカが慌てて答えた。

「はい!そうです。」

「ユラス人?」

少し淡い髪色、薄褐色肌のニッカをモンゴロイドのユラス大陸北東民族だと思う者は少ないであろう。ナオス族の特徴を備えている。

「あ、いえ。孤児で………ユラス大陸ではあるけれどイソラの出です。」

イソラはニッカの養子先でほとんど草原の国だ。実際の出身は、ギュグニー内のナオスの血が濃く出た複雑な混血の子だろうが。


「私と一緒だね。」


「…………一緒?」

シリウスは何でもない顔で、ニッカによく分からない返しをした。




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