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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十七章 トカゲは舞う

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43 太郎君のお見舞い

前回かなり修正をしました。ごめんなさい。



どこかの施設。


個室の窓辺にもたれかかって、ヘッドホンからジーと音楽を聴いているのは、このところどこにも出掛けず、すっかりグレーブラックの髪に戻ったシェダルだった。


与えられた場所以外どこにも行かないので、もう黒く染める必要もない。


勉強と必要なトレーニングをするだけだ。それでも、頭の方だけは既にアンタレスの中堅大学を卒業できるレベルだった。最初は片寄った専門技術以外、中学生までの数学と少しの科学知識しかなかったので職員たちは驚いていた。

SR社にいた頃に見ていた視覚世界も綺麗に頭の中に入っている。


そしてDPサイコスターであり、強化ニューロス。


「ハイプレイシアか?」

「トリプルどころじゃないな。」

「普通に育っていたら、ソーライズじゃないのか?」

劇的な計算力などはないが非常に吸収力があり、職員たちはおもしろい。ソーライズは、複数の能力を持ち、精神性にバランスもあり、それを問題なく生活や社会に活かせる者だ。


そう。普通に育っていたら。


シェダルには一般の社会性がなかった。大人しくしているので一見いい人に見えるが、たくさんの人を殺してきたしどこかに爆弾も抱えていた。扱いは軍人だったらしいが、実質ただの殺し屋のようなものだ。


しかも、研究に関わること以外ほとんど放置されたのだ。

普通、強化ニューロス化する人間にそんなことはしない。連合国側なら。なぜなら、それで精神弱体になり早死したり虚弱に育っても困るからだ。一人研究の中心に置けば、膨大な投資がいる。ギュグニーに渡ったであろう元SR社のミクライたちならそのくらいの知識はあるはずだ。



なら……、初めから実験体のような存在で、たまたま適性があり生き残ったのか。

それともこちらが想像するように、やはりミクライたちも自由に研究ができなかったのか。



「母親はジライフのカーマイン家でも、父親はどことも知れない周辺の混血なんだろ?バベッジの血は引いてはいないはずだ。」

ユラス人バベッジ族には、様々に秀でた能力を持つプレイシアやハイプレイシアの割合が多い。親の代も混血ではあろうが、それでもチコはバベッジが濃い。

でもシェダルは、北方系ではあるが、分からないくらいあらゆる地域の混血であった。




***




「シェダル。面会だ。」


遠隔で音楽を切られドアに顔を向けると、「よ!」と手を振る二人がいた。

ウヌクとファクトだ。シェダルは思わず、半分立ち上がる。


「兄さん、ちは!」

「元気か?シェダル。」


「…………。」

あの件があってから初めての面会だ。シェダルは驚き、そして固まってもいる。ウヌクに本名で呼ばれたのだ。


乗り出してきそうで、ファクトたちが前に進むと、シェダルはまた窓際に後退ってそのまま座り込んだ。

「…………」

「太郎。怯えるな。元気だったか話に来ただけだ。」

ウヌクが買ってきた様々な食べ物の入った袋をくれる。


少し聞こえにくいがヘッドホンは外さない。小さくてもそれで身を伏せる、自身を隠すように。


そして、ボソッとあの時の事だろう記憶を言う。

「……覚えてないんだ………。」

物凄く心臓が高鳴っていた感覚を覚えている。胸が物理的に弾けそうなほど。


そして………、響の首に触れた感触。


最後の理性だったのか、口に触れてはダメだは思った。そう思ったことしか覚えていない。




「………ごめん。」

「……?!」

謝られるとは思わず、ファクトもウヌクも驚く。


「ケガをさせたって聞いた。折れたって。」

「…ん?あ、ああ!骨ね。折れたけど、霊性を流し込んでもらってるからか直りが速い。前より丈夫にしておいてってクレスさんに頼んでおいたから、前より強くなってるかも。」

さして強くなったりはしないだろうが、これ以上怪我をしないように全体に霊性を流してはくれた。運気を上げるらしい。ついでに、時々響が来て気を遣ってくれているのでめっちゃ得した気分と言いたいが、この名は出さない方が賢明であろう。



「それにさ。太郎兄さんは俺の本当の兄さんになったんだよ。以後よろしく。」

「………?」

「知らないの?なんか説明聴いてサインとかあれこれしなかった?」

暫く考えてようやく分かったらしい。

「…お前、心星なのか?心星が名字なのか?」

「…え、そうだよ。」

「ただのファクトじゃないよ。俺は心星ファクトだよ。」

「俺はただのシェダルだったが?」

「…………」

世界にはみんなに名字があると知らなかったようである。

住民番号のある者はみんな名字がある。基本。


「よろしく。兄さん。」

「………。」

手を出しても、シェダルはその手を見るだけで反応はしない。

仕方なくベッドに乗り上げ窓際についている右手を取って両手で挨拶をすると、不可解そうな顔をしてビクッと手を引いた。


どうしていいか分からないファクトだが、虚を突かれている義兄にどうもできなさそうなので、もう一度姿勢を正しよろしくと礼をしておいた。


「太郎は黒髪じゃなかったんだな…。それが天然…か?」

シェダルが少しいやそうな顔をする。誰に似たのか分からないこの髪は嫌いだった。父親だろうか。

「………なんだっていいだろ。」

「……。」


「お前ら何しに来たんだ?」

「え?最近見かけないから様子を見に。」

「…?見かけないと見に来るのか?」

見かけない響が気になって、大房民の前に現れてしまったのに、自分の行動原理に気が付いていないのか。


「………何してたの?」

「ここにいた。」

「ここで何してたの?何か習ってるの?」

「……。」

完全に答えに戸惑っている。

「まあいい。そう責めるな。ファクト。」

「え?聞いてるだけなのに。」


「俺の事ムカつかないのか?」

シェダルが二人に問う。


「……なんで?」

「お前のことも蹴っただろ。正直、最初は死んでもいいと思ったし、その後も死なない程度に虫の息が残っているくらいでいいと思って蹴った。」

そんな事あったな……と笑えないファクト。

「指折ろうかとか言ってたもんね…。もういいよ。他の人にしないでね。」

「……俺ならそんなことされたら、後で半殺しにするか、殺すぞ。」

壁に叩きつけられてファクトも骨を折ったが、今更何を言う。その後、観光もして焼肉も食べたのに。

横でさすがのウヌクもドン引きの顔をしている。チコが義体部分とはいえ四肢を折られて死ぬ寸前だったと知ったら、仰天することだろう。

太郎君は、ギリギリの人なのだ。


「この前のことは仕方ないけどさ…でもギュグニーでも、こいつは死なすなとか指示を受けていたら死なせないだろ?ここでは連合国と人に危害を加えないと約束しているだろうから、人を攻撃しないでね。」

シェダルは命令の奴隷である。なにせずっとメンテナンスという人質を取られているし、指示を全うすることが仕事であり人生であった。

「時々従わずに殺してたけど。わざとじゃなくて、力入れ過ぎた。」

「とにかく、今は今ね。」

「………」

「………」

シェダルは分からなくて。ウヌクは呆れて黙っている。



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