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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十六章 選ばれし者たち

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42 鶏は三度鳴く



「お前らは半分開拓者だ。


いいか。かなり不条理な世界も目にしていかなければならない。」



これは最初にアーツ南海が言われていたことだ。河漢でも同じように言われる。

「そういう人間につくばわなければ…従わなければならないこともある。」


この時期、河漢と南海はある程度同じ講義や講話をし、それぞれの風景が交差する。



「最初の開拓陣は常識的なまともな人間にはできない。その時代や土地ごとの常識を打ち破っていくんだからな。

飯も寝る場所もないこともあるし、それで死んでいくこともあった。それでも最初に我が家よりも、目的のための礎石を立てるんだ。

まあ、皆さんは開拓者第一陣ではないから死なないように。寝る時は寝て、飯は食え。ただし、酒は飲むなよ。この期間。」


そうですね。あなたも大分まともじゃありません、と第1弾は心の中で思う。この人たちが常識人で、普通の人たちだったら、アジア開拓など出来はしなかったであろう。しかも、既にあらゆる常識が固まったこの大都会アンタレスで。


「我々の不条理にいちいち(いか)っている奴は、後で来ればいい。

上手い飯を食いたい奴は他の場所でゆっくりすごして、ベガスが完成してからみんなと遊びにでも来い。」

開拓者やリーダー、スタッフは不条理の上にある仕事でもある。


「それが不満だったら、アンタレスが私たち移民に荒らされるのが嫌だったら、その人間と同じ実力や地位、実績のある者を連れてくるか自分がそうなれ。


まあ、無理だと分かるがな。天は全ての人間に特性をそれぞれ与えている。一人の人間にできることには限界があるし、人間には自由が与えられているから、誰もがロボットのように言うことを聞いたりはしない。努力しながら人材を取り返していくんだ。」


それは分かる。例えば河漢では大型重機やロボットがたくさん必要だ。でも、そういう会社には非常にムカつくのもいるし、ドン引きな違法行為をする者も一人や二人ではない。日雇いだからと雇用する側される側、双方に舐めているクソもいる。


でも、自分たちにその仕事が替われるわけでもなかった。


「今のアンタレスが成立した頃も、アンタレスは旧世代の人間にとって、ただイキっているだけの国政も経済も回せない若いだけの都市に思われていた。実際、アンタレスやデイスターズは元々は多民族合併都市で批判されまくっていたからな。今その当時にアンタレス市を盛り上げた多民族たちがベガス移民を批判している。歴史なんてだいたいどこも誰もが移民から始まっているんだ。

その当時の住民や移民が、賢いかそうでないかの違いだ。


でも、ここにSR社が根を張り、霊性の先端と、ニューロス研究の世界最先端ができ、デイズターズも世界に発信するエンタメ都市になっただろ。

各諸問題はともかく、今この両都市の存在そのものを批判する人がいるか?」


アンタレスは現ベガスこと、人口減によって起こった廃墟前の旧都市の失敗によっても批判された。都市を大きくしても想像以上に人が増えなかったのだ。旧都市に飲み込まれるか、旧都市を本物の廃墟にするのか。どちらの選択も大失態であったのだ。管理会社が管理できなくなる時が、都市の本当の死だと言われていた。


「……。」

みんな無言で聞いている。


「開拓していく者は、内外の不条理にあう。身内でも鼻持ちならない奴が出てくるし、話も聞かずに批判を世界に発信して喜ぶ奴もいる。不満があれば、まず上に相談しろ。とことん話し合え。我々とならケンカしてもいい。私がダメでも、ここにはたくさんの人間もいる。現在は外部要員も多い。」


「俺は喜んではいない……。」

動画配信者リギルが自分のことを言われていると思ったのか、苦虫を噛みしめる声を出す。まあ、批判を配信しながらいい気味だとは思ってはいたが。

「ひどいことしないでね…。」

と、隣のシャムが小さな声で言っておく。


それから、不満や報告したいことの窓口や上官として一覧があげられ、ベガス外部のアンタレス行政やベガス内部だけでない教会、今や外部要員として信頼もできるフォーチュンズも挙げられた。



メンバーが少し資料を眺めてからチコが付け加える。

「寝返る奴も、最初の約束を忘れる奴もいる。」


「鶏が三回鳴くんすかね。」

旧約を創世記でリタイアした河漢民が、先に読んだ短い新約を例に出してみた。人が裏切った時に鶏が三度鳴いたのだ。それは預言されていた。


「そうだ。そんな時が何度も来るぞ。人生の中で。

聴く側にも、鳴らす側にもなる。」

「怖~。」


「ヴェネレが引導してヴェネレを裏切らせたんだ。最初の3年はがんばっても……まあ、3年も頑張れなかったんだが、5年………10年、20年で疲れ切る。お前らの中にも、数年、数か月後にはベガス移民政策反対!の旗を掲げて行進しているのがいるかもな。」


実際サダル派の人間も、サダルを怨んで邪魔をしてきた者もいたし、サダルがいなくなってからはチコをアジアに追い立てた者も多かったのだ。

「え?そしたらチコ先生は俺ら怨みます?」

「…………。」

少し止まって、考えるチコ。


「別に。怨まん。」

「マジっすか!天使っすか!」

「…いや、気分かな………?」

「え?!」


「先、言っただろ。自分も鶏を鳴らす側になるかもしれないと。

………私も鳴らしたことがある。」

「………」

講義室が静まった。



あれは鶏ではなく、爆音だったけれど。


「それがなかったら、ユラスはもっと早く統一されていたかもしれないし、今ここにいない仲間たちが……生きていたかもしれない……。」

チコは、ここにないどこかを眺める。

「私でなくもっと優秀な者が残って、ユラス議長も捕虜になることもなく………」

「……」

「もっとたくさんの子供たちが…このベガスやユラスの公園を駆け回っていたかもしれない………」


「………」

誰も何も言わない。ユラス人の言う聖典のことが分からなくても、さすがにこの意味は分かった。

きっと、戦地に赴いた、現場にいた、多くの軍人たち、勇士たちが、そして多くの民たちが抱えている()()であろう。



陽烏(ようう)が、リギルの隣で涙目になっていた。

「………。」

なんとも言えなくなるリギル。



陽烏の母の家系もユラスの争いで何人か亡くなっている。

身内の中でもサダル派とユラス保守で争ったこともあった。けれど、その時サダル派は言った。


『今、国を閉じたら西アジアまでギュグニーに入られる。仲が悪くとも、アジアと東ユラスは運命共同体だ。アジアにギュグニーが入ったらユラスも潰れる。南下の国も半分は独裁政権だ。既にダーオの首都に一部に入り込んでいる。』

ユラス保守、とくに古参は自分たちの一部にギュグニーが入り込んでいるとは、その当時思ってもいなかった。敵は内側でなく、アジアと組んだ新参者たちだと譲らなかった。


陽烏親戚の中には、サダルが捕虜になったことの責任を、チコが潰れそうになるまで追い詰めた親戚たちもいた。一部の大叔父や伯父たちもそれをしたのだ。サダル派だった伯父たちが、カストル総師長が支えているチコをなぜあんなにも追い詰めたのか、小さかった陽烏には分からなかった。

目に見える理由としては、手元に何もなくなった元傭兵の異邦の女に、ユラスの何もあげたくなかったからというのもある。手切れ金だけできっぱり去れと。


陽烏から見たら、議長夫人の霊性の光は、サダルがいた頃と何も変わらなかったのに。




チコは続ける。

「自分も失態を犯す人間だし、その当時ごとにそれなりの信念の上で動いたつもりだったこともある。」

「……。」


「ただ……怨みだけは残すな。」

ニコッと顔を上げる。


「うらみと言ってもいろいろあるが………憎悪の事だ。

どんなに正しく思えても、実際正しかたっとしても、憎悪から始まったことはいつか角度を曲げる。世界の紛争や分裂の原因の大半は、痴情と憤慨、その憎悪から始まっている。お金、権威、愛情。その全てが憎悪に繋がる。たくさんの意見も出てくるし、一人では越えられないことも多い。


でも…………いつか、自身に憎悪以外の終着点を見るけるんだ。」


カラーレンズに隠れたチコの瞳の奥が光る。

「卑下もするなよ。生きているからこそ返せることもある。」

「………。」


「時には愚痴を聞いてくれる人も必要だし、甘えさせてくれる環境も必要で……。でも、自分に硬い殻だけは作るな。もし作っても、一度全ての環境を捨て自分だけになるんだ。


森だけ見てもダメだ。

縦に繋がる時代から…横に広がる全ての世界を見るんだ。」

サーと横に線を切る。


「自分と天との一門答…。天に言いたいことを言って、自分の深い、…深い内心に聞いて見ろ。」





河漢の講義。


全部話が終わってから、直ぐにチコが去ろうとすると、新河漢民が信じられないことを言っている。


「先生は本当に王子じゃないんですか?」

「は?王子?」

見た目が王子である。

「え?やっぱし姫なんですか?」

「姫?」

チコは自分が河漢で姫呼ばわりされていることを知らない。

「女性ですよね?」

「あ?今更何を言っている。声で分かるだろ。」

「マジで既婚者なんすか??」

「………。」

チコは嫌そうな顔で見る。


「相手は男性なんですか?女性なんですか?本当に先生は姫なんですか??」

「姫の訳ないだろ。」

ユラスに王族はいないので王女としての姫はいない。

周囲は河漢にもこういうKYがいるのかと、ビビるしかない。


「やっぱ王子っすか?!!」

「おおおおおーーーー!!!!」

「はぁ?何が言いたい。」

会話が微妙にずれているが、盛り上がる一同。高貴な人たちの敬称の話など、ここにいる河漢メンバーは知らないのだが、生まれは姫という立場は一応当ってはいた。バベッジ族長一族の娘なので、王女ではなくとも『姫、レディー』ではあるだろう。みんな知らないが。


「先生、じゃあ今度組みましょうよ!」

「……絶対に嫌だ。他の教官に頼め。」

「えー!!あの人たち強すぎて嫌っス!」

「……。強いからあいつらから習ってんだろ。」

「どうせ締められるなら、癒し系がいいです!この際男でも女でもいいので、先生が締めて下さい!!」

「…お前ら締められたいのか?」

「締めて下さい!!」

「…変態か?」


「変態っす!」

「先生最高です!!」

「先生。で、結局男なんですか?女なんですか?」

「ちょっと目がきついけど、ここでは癒しの範囲です!」

世紀末にバイクやジープに乗って、釘や棘だらけのこん棒を振り回していそうな風貌の人たちもいるので、女性への欲望を通り越して普通っぽい人は癒しである。

「………。」

もう答えないチコ。

チコが癒し系でないことを、この新メンバーたちは知らない。チコの明るい金髪とこの中では細い首が癒し系に見えるのだろう。チコは元指揮官らしいので、メイン戦闘員ではないと思っているのか。そもそも締め技でなく、蹴られて終わりとか思わないのか。


しつこいのでチコは呆れて承諾する。もちろん締め技などさせず、するなら一気に打ち込むつもりであった。



「………。」

アーツや一部河漢民は完全に青くなりながら引き、河漢の方に聞きに来たファクトですら、新河漢民の強引さに驚いていた。イオニアやウヌク以外に、チコを言葉で丸め込める……訳が分からなくさせる男どもがいるとは。自分たちならあんなことを言ったら叱られて、100メートル走10本させられそうだ。


これが、うまく懐柔させるということか。



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