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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十六章 選ばれし者たち

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41 歴史など知るわけない



「私たちは、自分がいつか聖典に描かれる一人だと認識するんだ。


真理が分からず割れた地の底に落ちて行った者や、主を蔑んで笑い飛ばした端役(はやく)になるのか、誰かを愛し、他者を敬い、時に不条理にあいながらも未来を繋いだ一点になっていくのか。


海を割った人に逆らって疫病になったり、割れた地に沈んでいった者たちがいるだろ。笑いごとでなく、お前らだ。」


「ひど!」

「まあそういうわけで、2回目に読むときは第3者視点で読んでみるといい。」


誰も何も言わない。まさに、あと数百年後の皆さんが、バカだな~と自分たちを見ていそうである。それ以前に、この分厚いのを2周目するのか。



「別に聖典を疑ってもいいんだ。本当に正当歴史が真実だったのか。でもよく世界を見ろ。何が正しく何が真理か。自分で考えることは重要だからな。自分の頭で考えることを忘れたら、どんな仕事もできない。

第1弾はしょうもない奴が多いが、読んでエリスやクリスに理不尽なことや不満な点を抗議しに行った者たちも多いらしいからな。」

「マジっすか。」

第1弾だって考えるのだ。納得しないものに付いて行きたくはない。とにかく逆らってみたいのだ。


「ベガス構築がなぜ聖典歴史に重きを置いた思想で進めているのか考えたらいい。いくらでも答えてやる。」


え?ガイシャス教官が答えてくれる?一対一でも?それはヤバいっす。と、みんな考える。


そして、皆賢い。

「絶対に、個人で聞きに行ってはなるまい。」

『傾国防止マニュアル』に触れることに関しては、考える前に条件反射で答えを出せるアーツである。



「我々が正しいということも、疑問があればまず自分で考えろ。その考えの幅は、全ての世界に広げるんだ。

そして、我々と門答しよう。」


いやいやいやいや、あなたとは無理ですと皆さん心でご遠慮した。



いつか彼らは知る。


そう言って、たくさんの自由な意見の中で、思う存分意見を言い、語り合い、時に張り合い、それでも話ができる環境や世界が、どれほど楽しく、どれほど恵まれているかということを。




「まあ、お前らなら極悪人でも、モブでも構いませんとか言いそうだがな。」

ガイシャスはふう、と一息ついた。そして、アンタレスの雰囲気がやっと分かってきた。


「まずは聖典の見方を覚えろ。辞書と似ていて字引きのようなことができる。」

「先生!辞書を使ったことがありません!」

「ジショってなんですか?地所?締めてる縄張りの事ですか?」

「…。」

そこからか……と思うが、想定内の反応である。



「じゃあまず、構造を理解しろ。『旧約』と『新約』は時代の境目で分けられている。以前の約束と、メシアが現れてからの新しい約束だ。」

表が出て、ガイシャスの声に合わせてアニメーションで進んで行く。


「お前ら歴史が全く分からないやついるか?BCとか。中世とかの世界観や言葉が分からない者は?」

講義室の半分くらいが手を挙げた。分かっているつもりの者や、聞いていない者もいるだろうから、実際はもっといるだろう。

実用電気の発明は千年ぐらい前だと思っていそうだ。ちなみに実用化電気が発明されたのは、まだ旧時代の終わり頃である。



「まあいい。後で習おう。

聖典が終わった後の聖典歴史は……旧時代を越えて………それから我々で言う前時代に続く。」


「トゥービー、コンテニューですからね!」

楽しそうなファクト。聖典の最後には『しかり、私はまた来る。』とメシアが最後に締めているので、トゥービー、コンテニューなのである。この響きが好きな、どうでもいいことにワクワクする男。なんにせよ、続きがあるのだ。楽しい。



メシアが現われた後も、神の願う平和世界ができなかったどころか、姦淫、暴力、殺害、欺瞞、独占にあふれた世界になってしまったのだから仕方がない。続くのだ。

本来今いる世界が平和にならなければ意味がないのだ。死んだあの世に天国があるなら、別にこの世などなくてもよい。この世にも何か意味があり、あの世にも何か意味があるのだ。


けれど現世の人々。自分たちは、人でも物でも見れば発情していたようなソドムやゴモラを越えてしまった。


男の国には外面的な性文化があふれ、女の国には一見控えめな内面的な性文化が蔓延する。


どちらも人は表向きにはその様を隠す。最初の男女が股を隠したように。

でもそれは、ただの紊乱となって表の世界までにじみ出てくる。



「何度か言ったが、自分は不幸でも不遇でもいいし、正義でなくともいい。悪でも構わないという観念はな、本当の愛情も本当の悲しみも知らないから言えることなんだ。


知っていたら、……二度とそんなものはいらないと思うから………。

自分からだけでなく……誰にもそんなものはいらないと…………」


善の絶対性だ。


『善の絶対性』。いい加減に生き、ひどい環境に生き、大人にも周りにも絶望しか感じていない者にとっては、あまりにバカらしい話だ。いくらかの仏教でも、人は善悪あってこそだという考え方を作り上げた世界もある。


でも違う。人類は知らないだけだ。本当の愛を知らないから。


自分も、キリストと似た者になるのだ。

だからキリストは人として生まれ、人として歩むのだ。


誰一人、許せない不遇で泣いてほしくはないから。




各自のデバイスや講義室にざーと中心世界の年表や歴史が映し出される。その時代の世界を動かした中心の国にフォーカスを当てたものだ。


「ここからここまでが旧約。」

神の()によって、神の歴史を継いでいこうと思ったが、それを限界までやり直しても最後まで越えられなかったので、新約で新たな歴史が継がれる。

ここでは一旦、血の歴史。『血族』を放棄して、人間個人の本質である神性と霊性、そして心の柔軟性において新しい世界が受け継がれる。


「ここから新約。前に立てた約束の条件を人間が果たせなかったので、新しい歴史を立てていく時代になる。」


ただし、自身の一族に込み入った事情を理解されなかったメシアは婚姻ができなかったため、神の世界はアガペと男女の正しい足場を失い、権威も失い、しばし修道の独身主義になっていくのだ。

救い主が「私の結婚は」と母に示唆しても、息子に世離れした異常性を思い、天の啓示を心の底に沈めてしまった。


母の仲介をなくし、本来の父と子は分離してしまう。


そこで、神職と「人をまとめる王族」の分離政権歴史が始まる。それは旧約、ヴェネレの先祖の王と神官の歴史の拡大版でもあった。



この前後はヴェネレ人の歴史が世界の中心になる。ロディアの母、カーティン家たちの民族歴史だ。


ただし、新約からは、一部のヴェネレ人たちが衣を洗って、他民族と共に歴史を進めていく。



一方、ユラス人は遥か昔にヴェネレと袂を分けた上、半分東に混ざってしまったため、発展した西洋の歴史に混ざれず、王も持たず、中心歴史からは省かれてきた。

鮮やかな文明も得られず、その代わり万象を精神世界に組み込みながらも、多神教にもならず、発展も遅れたが西洋より緩やかな独特の文化形態を作って来た。


そして、いつの間にかアジアと西洋世界の間に巨大なユラス文化を形成した。



「聖典は一見ものすごく長く、途方も無い読み物に見えるが、構成を知れば読みやすくなる。文書ごとの特徴や種類を知るんだ。大枠歴史の流れに沿って、たくさんの書が編集されているものだからな。

逆に言うと、聖典が分かれば、歴史観が整理されて、頭の中の歴史が一気に省略される。」


おそらく河漢や大房の歴史観は、古代近代以外全部中世。中世めっちゃ長い。東洋の戦国時代2千年くらい。もしくは4千年。黒船が来るまでずっと戦国時代。近世知らん。でもTVができた時は盛り上がった。

この全ての前は何万年も土器作ってた……という感じであろう。




でも、それでもアーツ第1弾は苦行に近い執念で聖典の全てを読んだ。


試用期間、半年以内に読み終わらなければ、素振りかパンチ、及びキック千回を一週間とチコに言われたのだ。そんな肩や膝を痛めそうなこと、絶対にしたくないので、完読するしかない。


とにかく、ユラス人やヴェネレ人と関わるなら、教会に関わるなら、仏教でも無神論でも何でもいいから完読しろと言われたのだ。聖書を読むと、書かれていない東洋歴史や仏教の本質も理解できると。



そして、アーツには言っていないが、一度完読することで、霊的な洗礼を受ける。

読む前と飛んだ後では世界が変わるのだ。



イオニアのように期間中に複数回読んで、さらに雑書まで読み込んだような強者もいるが、遅れて来た上に、年末お正月は楽しくお祝い程度の何の知識もないラムダは、完読まで最後は半泣きであった。


ただ、ファクトがうるさかったので『最後はトゥービー、コンテニュー!』はよく覚えている。

『然り、わたしはまた来る』とか言って終わるのだ。


一時期、妄想チームで『これ以上はトゥービー、コンテニュー!』『トゥービー、コンテニューだな。』『宿題はまたにトゥービー、コンテニュー』と、『トゥービー、コンテニュー』を言っておけば何でも許される風潮が広まっていた。

もちろん、サラサとチコに叱られたし、今は言うとウザがられる。



しかし、河漢といえども、さすが集まっているのは社会人。その言葉が河漢で流行ることは今のところなさそうだ。



「自分が後世の聖典歴史に、どんな名で残るのか、考えながら生きるんだな。


誰もが、今の生き方や考え方を後世の人間に見られるんだ。」



ガイシャスはその場を締めた。



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