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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十三章 緑の瞳
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3 その子の光



微妙に距離を取り、ムギはアンドロイドを撒く。

ヒューマンセーブが働いているため、ムギは非戦闘員の様相も出しながら対する。武器を持っているのに、戦闘員にも見えない風貌。あらゆることが鈍るのを想定しているのだ。


なかなか動きがつかめず、ジョーイはこの少女はめんどくさいと分かり、逃げようとする面子に標的を変えようとしたその際に、ムギにジョーイの軽い一発が入った。


少しひるんだムギにもう一発………というところで、

ジョーイはダンっ!と地面に叩きつけられ、

「うガッ!」

と唸り、河漢の埃が舞う。


今度はニューロスに全く容赦しないファクトだった。

「悪い。」

一応謝るが、もう一発蹴りを入れる。でも、ジョーイは軸が揺らいだだけだ。


ムギはファクトに反応せず、間髪入れずにショートショックを撃つ。

同時にファクトは一点を定めて、ジョーイに思いっきりサイコスを撃ち込んだ。


バジ!

と光が走り、全てがくらみジョーイが倒れ込んだ。


「!!?」



「ひでー。容赦ない。」

みんなそう思いながらバイクをや車を走らせ少し遠くに止めた。

正直、アンドロイドは人間に似すぎて攻撃するには気が引ける。もしかしてサイボーグだったら……とも思ってしまう。だとしたら人間だ。もし間違えてしまったら……。



「ひどい!ファクトひどい!アンドロイドだからって女性にひどい!!」

今度はリゲルの車から、花子さんが怒っていた。

「ファクトは私にも同じことをするんだわ!」

「………。」

やっぱりバグったかと、リゲルは花子さんを同情した目で見た。どう考えてもシリウスぽくない頭の悪さだ。



「……この程度ならSじゃないのかな…?」

ファクトがヒューマンタイプ機械専用の拘束帯を取りにバイクに行く。ムギは首部分に銃を向けたまま、一旦人間用の物をジョーイの腕に付けようとした。


だが、急にジョーイは動き出した。

「っ!」

ダン!とさらにショートショックを撃つムギ。


けれど撃たれた衝撃を受け止めたまま、ジョーイはムギに向かって乗りかかり手を出す。ムギは抵抗するが両腕を地面に押さえ込む形で擦り付けられた。手が折れるかと思うが、ジョーイは乗りかかったままそれを離し、今度はバッっとムギの首元に手を出す。

「くっ!」


その細い首元を掴む前に………


ファクトがジョーイの頭に横蹴りを出した。

ドズッとジョーイが横向きに崩れるが、一気にファクトに襲い掛かる。駿足で間に合わないと思った時だ。



ファクトの中に「伏せろ!!」と、声がする。


バッと低姿勢になったとたんに……

バイクでターンしてきたイオニアが急速度浮遊走行し、そのままジョーイの上半身をはねた。

「うお!!!」

驚くファクト。ジョーイの体も叩きつけられる。


ブレーキを掛け、ファクトたちの方を見るイオニア。

「大丈夫か?!」

「止まるな!そのまま走れ!」

ファクトが離れるように促す。


そう、恐ろしいことにそれでもジョーイは動き出す。



しかし、突如ジョーイは空を見た。

「………。」

そして、曲がった首を少しだけ不安定に揺らし、ムギやイオニアの方を見て、今度はザンっと飛び上がった。


ジョーイはいくつかある地下構造のつっかけ部分に足を弾ませながら、地上に逃げたのだ。

「あ、待て!この!!」

ムギが怒る。

「追うか?!」

イオニアが聞くが、ファクトが止めた。

「ダメだ!」

「でも………」


「住民のいる所に行く可能性は?」

イオニアが確認するが、ファクトは後ろの方向を指して言った。

「大丈夫だ。軍が来てる。」

「?!」

気が付くとあちこちに点々と軍の姿が見え、ユラス軍の知った顔がこっちに向かってきていた。




***




「はあ…。ユラス軍きらいだ………。」

ファクトは軍の用意してくれた椅子に座ってため息をつく。


「何が嫌いですか。いつも問題の渦中にいる人が。」

カウスがまたファクトがいると呆れた。

「違う!問題を先読みして、助っ人してんだ!

それに、特警は事情聴取が長引くとハンバーガーセットとか買ってくれるのに、ユラスは身内だと思って水しかくれない…。」

「………。」

そんな理由かと、みんなも呆れる。

「まだ我々が来て、15分しか経っていませんよ。」

「ここのどこに、バーガー屋があるんだ…。」

シャッター通りどころか廃墟である。しかもワラビー暴走現場のすぐそこだ。


ここに来たのはカウス。

実は、『モーゼス・ライト』ではないと気が付いた時点でムギは念のため通報。イユーニを伏せた時点で緊急を出し、河漢のメンバーからも近くの軍に緊急が入っていた。


「遅い!!遅すぎる!!」

ムギが今度はカウスに怒っている。

「7分で来ましたよ?」

「最初の通報で動いてよ!そしたらもっと早い!」

「『前村』さんの近辺は今、最低限の警備しか残していないですから…。」


「……ムギちゃん…。あの腕を伏せられた時点で血の気が引いたよ…。」

イオニアはあれでUターンしたのだ。

遠くでも角度のせいか少し見えた。両腕が抑えられているのを。

「そうだぞチビッ子。下手したら殺されてたぞ。ファクトがいなかったらどうするつもりだったんだ。」

ウヌクが珍しく真顔で言う。

「大丈夫。多分ヒューマンセーブが働いているし……、それに足。」

ムギは自分のモモを叩く。

「……足?」


「脳派連動型で、武器装備してきた!」

「?!」

「は??!」

激震の一同。

脳波連動って、機械系にダメージがいくのはレーザー?ショック系??

「え?いつも??」

「まさか。こんなところに来るからだよ。」

さすがのムギも普段はここまでしない。なにせ、2丁もガン系を持っていたのだ。普段からそんなもの着けているわけない。


「まあ、怪我しないとは限らないけど………。」

最後に何気なく小声で付け足す。あんな至近距離で電気系を放ったら自分も危ないだろう。足では打ち込む角度もままならない。

「………。」


それを聞き逃さない、ウヌク先生。


「おい。チビッ子!お前、命を何だと思ってんだ??怪我とか、…死んだらどうすんだ??」

「………私の勝手だ。」

「勝手とかいう問題じゃない。ここで死なれたらこっちも迷惑する!河漢事業に関わるからな!!」

「……だから、そうはならないよう頑張ってるし。」

しれッと言うので、ウヌクはイラつく。



ここで、この二人の認識の違いに気が付いたのはファクトと少し遠くで見ているカウスたちだけだ。

ムギは既に、このアンタレスだけを見ていない。


そして、時間の流れも違う。ムギは体感でアジアとユラス、そしてその間のアジアライン数千年の歴史を見ていた。ここで止まるわけにはいかないのだ。



「それに、おい!」

遂にウヌクが(いか)り出した。

「手!……腕!」

ウヌクは駆け寄ってムギの両手を取る。

「血だろ?これ!!」

みんな一斉に注目する。ムギは網状の黒い手袋をして、服は黒や濃紺だ。それで気が付かなかったが、ムギの地面に擦られた手の甲と腕に血が付いていた。


「大丈夫だよ。大した量じゃないし、もう乾いてる。ここで血を流したところで別に襲う獣もいないし。破傷風の注射もしている。」

「…………」

もう、ウヌクは呆れるしかない。なぜ、「危ない、引っ込んでろ」というだけの話が通じないのだ。破傷風だけが感染症ではない。ただの女子高生なのに。自分たちより役に立つが、心臓に悪い。


イオニアは響が以前言っていた話を思い出す。

ムギは自分で牛も(なめ)せるのだ。なのでさばくこともできるであろう。馬も乗れるし狩りもできる。そして戦争移民。都会人である大房民とは根本的に思考が違うのだ。


「…………。」

ウヌクは言葉がなくなる。


それでも迷いなく、凛としているムギが美しい。






一旦、場が落ち着きウヌクはムギに忠告する。



「とにかくチビッ子!お前は学校に行け!河漢に来るな!」

「今、学校行く時間じゃないもん。」

「ソイドが心配してたぞ。三角比も関数も分からないんだろ?自習してろ!」

「したところで分からないし。」

マンツーマンで教えてもらっても分からないのだから、自習で分かるわけがない。初めから高校課程を投げ捨てているムギにウヌクはイラつく。


「……あの、痴話げんかはそこまででいいですか?」

そこに割りこむ、いつもの如く余計なことを言うカウス。

「は?痴話ゲンカじゃない!」

そんなカウスは放置すればいいのに、ウヌクは赤くなって否定する。


「………。」

カウスが「また来たか。この流れ」と、無表情なのにどこかしら神経を逆なでる顔でウヌクをのぞき込む。

「何すか?カウスさん。その顔は?」

「いや、何でもないです。ウヌクでも小学生みたいなことを言われて、慌てることがあるんですね。」

「……人間だからあるに決まっている!あ、違う!そうじゃない!怪我するかもしれなかったのに!!」

「はあ…。やはりこのパターンがやって来た…。」

「何すか?!」


水を飲みながらファクトはそれを見ている。ウヌクがムギとカウスに巻かれているとは。




お読みいただきありがとうございます!

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