38 第4弾。選ばれし者たち
一方、ベガスのアーツ南海第4弾はシャウラと第2弾リーダーの一人、ナシュパーが率いる。
第3弾のハイバオは総務だ。
こちらもけっこう層が濃い。
まず、前時代から大房と因縁の地と言われる、底辺学校の常若が入っている。
しかし常若は街の復興に向けて2世代に渡り尽力した結果、ファンキー大房と違いガチのオラオラ系からどういう訳か現在の孫たちはカフェ系に路線変更。ストリート系の大房よりもツッパリ系だったのにと誰もが思う。しかも、オシャレカフェ系イケメンを見るために、セレブ倉鍵女子やオシャレ女子の聖地日暈女子たちですらお茶を飲みに来るという…。
サルガスたちは常若にあまり関心はないが、最後に番を張っていた父親世代たちはやたら対抗心が強い。
それゆえに常若男子はオシャレ系になっても、「雰囲気イケメンのくせに」と大房に揶揄されている。
どちらが勝っているのかは主観によるであろう。ちなみに大房は常若を「雰囲気イケメン」と格下げしているが、自分たちを「悪くはない系、好きな人は好き系男子」と暗に自覚し、「雰囲気イケメンよりはまだ男として受け入れられる」と意味の分からない自評を下している。
が、今回。誰の選択なのか、地顔なのか整形なのかメイクなのか、俳優やアイドルにもいそうな男も認める常若ガチイケメンがいてアーツ界隈はにぎわっていた。誰が、こんな余計な男をアーツに入れたのか。一応空手の黒帯らしい。
「かっこいー!」
と盛り上がるファイに、
「ガチイケメンはクソをしない設定はないからな。ウンチもすれば下痢もする。」
と、ちょっと悔しい大房民であった。現実を弁えたファイは萌えと世を完全区別するタイプなので、
「だから?」
と男子たちを煽っていた。自分にしか見せない面があった方が萌えるし。
それからアンタレスのミッション系、昴星女子。
令嬢たちがたくさん通い、わざわざ男子たちがその門や壁の前を歩いて行くというウワサのお嬢様学校。しかし、現実は校内の駐車場まで車で入ってしまうので、言うほど女子の姿は見れないのだが、そんな伝説を持つ昴星からは………
キックボクシングのミューティアに始まり、
また格闘系が来てしまうという定番が出来上がりつつある。
昴星はとにかく一定の教養と外交感覚が身に付いており、また霊性もきれいで頭もいいため非常に重宝されている。ミューティアの話によると美少女系もいるが校則が厳しいしガチのお嬢様が多いため、どちらかと言えば質素で素朴、世から見れば垢抜けない雰囲気だという。
そういえば、響の蛍惑ペトルも、制服のスカートは膝下丈、校内は派手なメイクは禁止で日焼け止めをして眉を整える程度、リップも薄色か無色しか着けられないと言っていた。
そして今回、またもや来てしまった。
何の呪いか因果なのか。
ヴァーゴ祖父がせっかく文系を選んだのに、またアーツに来てしまった大房アストロアーツ飲食店店長。
ジジェである。スポーツ系格闘系しか来ないと思っていたアーツベガスなのに、どうして来てしまうのか。
また店長選びに困ってしまう。というより、何しに来たのか。
「経理及び企画は任せて下さい。大学から大手でインターンをしていました。」
と言われた時には、有能な男も店長にしてはいけないとみんな思った。ただ、そんな男がなぜアストロアーツで店長などしていたのか。本当は使えないのではないか。
有能なくせに、あのいまいち垢抜けないアストロアーツを洗練したお店にも、今時女子の好きなオシャレカフェに改装することもなかったという。別に歴代店長ともお店とも繋がりがなく、これまでの積み重ねの情もない男なのに。
響はいないと一応言っておいてはある。
さらに、今回の目玉。
それこそなぜなのか。エリート中のエリート街道を突っ走っていた2名。
倉鍵医大から細菌学の研究員、東アジア大学から工学部の男子が来てしまったのである。同じ科やゼミから数人は藤湾大の方に行ったらしいが、ぜひ君にもそうしてもらいたい。
「本当に来たのか………。」
と、アーツどころか藤湾大やVEGAの事務局員、ベガスやユラス一同が驚いている。アホなのか。
「なぜ来てしまったのか…。」
サダルすら困惑していた。もちろんみんな止めた。エリスは直に両大学に行き、学長と共に説得すらした。ベガス構築に関わるにしても、せめて藤湾大のチームに入った方がいいと。ニューロス研究や宇宙関連にも関われるレベルの者たちである。
しかし彼らは同じことを言う。そう、陽烏と。
「長い人生の半年くらいいいじゃないですか。」と。
「別に科の中でトップでもないし、寄り道しても構いません。」
2人ともハイプレイシアでコミュニケーション能力も仕事をするにも問題はない。科の中でトップでなくとも、この両大学に入れるだけで既にアジア、もしくは世界の上位クラスである。しかも工学科とか、せっかく評価が上がったアーツなのに、東アジアに叱られてしまうではないか。
チコはさらに説得する。
「君が満足できることは何も提供できない。そのまま大学に残った方がいい。もう大学で講義できるレベルだろ?普通にいいところでインターンをしてほしい。」
工学科3年首席だった男は藤湾大の方に行ったことだけが救いである。
変に彼らの将来をダメにしても困るので、正直に言っておく。なんかものすごい信念をもって始まったように思えるけれど、アーツの出だしは『人が集まっちゃったから、生活厳しくして筋トレさせとこ。勝手に出て行くだろう…』程度で始まった集まりだから……と打ち明けてしまった。ちなみに、医大生にはミツファ先生は今はただの受験生で生徒だよ。アーツの賛助会員で活動メンバーではない、とも加えておいた。
本当に何しに来るんだ。
親に恨まれそうだから、普通にエンジニアや博士を目指してくれと直球のゼオナスである。
それでも来たいというので、放置するかもよ?と再三言って参加を許した。
ちなみに、その友人たちも数人付いて来てしまった。友達連れてくんなとツッコみたい。
もう、学校に恨まれるレベルである。
ということは………陽烏もいる。
相変わらず陽烏は一人だ。今回はそれなりの美男美女系がいるのだが、それでも少し人間離れした風貌の陽烏には近づきがたいオーラがあるのか。
半講師、半メンバーとして参加してしまったKY学生シャムが見かねて話しかけるも、陽烏は明るい。
そして………今回、孤独陽烏に加えて、既存アーツの心配事。
この前までガチ引きこもりであったリギルである。
最近やっと斜め懸垂が死にそうな顔で3回できるようになったレベルである。猫背矯正ギブスも始めた。
最初の説明会で全く動かないリギルを会場後方から見守る、ファクトをはじめとする妄想CDチーム。ジリもラムダも気が気でない。陽キャ………妄想チームが勝手に認定する陽キャたちとリギルはうまくやっていけるのか。
自分たちと同様、地味な見た目もいるが、さすが関門を通り抜けた選ばれし者たち第4弾。周りと交流する能力はあるらしい。第1弾で「陽キャこえー、来んな」と思いながら、同じ地味系の者とも最初は話さなかった自分たちとは違う。なにか余裕を感じられる。
アーツに憩いの空間がなくなっていくようでさみしい。
そんな中、既にリギルは完全フリーズ状態だ。周囲の女子の方が背も高いし、知り合いが誰もいないため石になっていた。
「おれ、保護者として参加できないかな…。」
ファクト、第4弾に入りたい。
「そうだよね……。これで何もできなくて、世の中怨んでまたすっごい配信者になったらどうしよう…。」
「ここで何もできない分、動画はパワーアップしそうだよな。」
「いい加減大房がいっぱいいたからこれまでやって来れたけど、この雰囲気だったら絶対自分参加できない。」
「まず、ここに選ばれないであろう。」
しかし、動いたのは意外にも陽烏であった。
「………」
キョロッと周りを見る姿さえ可憐な陽烏は、リギルを見付けると立ち上がってその席の近くに向かう。
「…あの。ベガスの総合病院の別棟にいませんでしたか?」
「…………」
リギルがそーと顔を上げると、そこにCGグラフィックで作ったのかというような、クリーム色の髪と薄褐色肌の女性がいてさらに固まっている。
「…っ。」
「あの……。すみません。病院とかプライベートのある場所での話をして。東医科にいらっしゃったので、もしかしてミツファ先生をご存じかなって…。」
ミツファ先生とは響のことだ。
「あ、はい…。担当医の………助手を……され……て……います……。」
「そうなんだ!私、医療デザイン科の参宿陽烏と申します。デザインの中でも………環境デザインです。」
「……は、はあ…。」
「ミツファ先生の講習を聞いて私も東医科の勉強を始めたんです!」
「…………。」
聞いているのかいないのか。リギルは時々固まっている。
その様子を見ながら、陽烏と響にそんな接点があったのかと妄想チームが驚いていた。考えて見れば、同じ敷地内である。
「私、ミツファ先生に陶器温灸もしてもらったんです!」
「………」
黙ってしまったリギルにも、あれこれ話しかけている。リギルは認識していないが、リギルをそれなりに知るシャムもやって来て3人になったので、妄想チームは少し安堵した。勝手に喋ってくれそうな2人である。
これで世を怨むまい。多分。




