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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十六章 選ばれし者たち

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37 和を成す、エネルギーの変換



その頃、新しい河漢メンバーは教官からの座学が終わった所だった。



様々な免許を取得してからの暴力や犯罪は、罪が加重されたりさらに重罪になったりする。河漢チームに関しては、『傾国防止マニュアル』などは先に指導をしていた。


そして、だいたい同じ武術を習っていた者を同じクラスで固めて必要な指導をしていく。血の気の多い者などはカウスクラスがいる所に放り込んでしまった。なお、南海アーツ同様格闘経験が無い者も一定の指導はしてく。



座学以外で全員共通している指導は、流気道や和気道など自分の内性を見つめられるものを徹底的に指導していくことだ。それをまとめて和道といい、東洋、とくに東邦中心に発展した心身統一や和合一体の武道だ。

5チームに別れ、ファクトの師匠ジュニアも講師に入る。武道の信義や礼節の面もあるが、内省をすることを知らないとサイコスや霊性を学ばせても、力にコントロールされたり変な方に引っ張られたりするからだ。


力に溺れやすい傾向を抑える力も付けていく。



それに加えサラサに、

「筋肉集団も、武装集団も、世紀末集団も作る気はありません。結果そうなったら皆さんに責任として彼らが問題を起こさないように一生面倒見てもらいます。」

とかなり嫌な約束をさせられている。大人のしかも男どもの面倒を死ぬまで見るなんてごめんである。奴らをまっとうにさせるしかない。




ファクトたちが入るのは一旦河漢Bチーム。

この前のチャンプたちの下のクラスだ。河漢では空手、ボクシング、キックボクシングが一般層に人気である。


「どうも。そういう訳で実践の講師でナライと申します。主に和道とサイコスの指導に入ります。」

ナライまだ20代前半で線は細いが、東方拳法の使い手だ。サイコスや霊性など内面的な安定を必要とするものは、東方武術や和道をしていた者が圧倒的にコントロール性がいい。


「私はファクトと言います。助手です。」

ファクトに続き、リゲルも挨拶をする。タラゼドは最終的に違うチームに入るが、アーツで正規指導側に入ったことがないので一旦ここで慣らす。他に数人ユラス軍人が入っているが、彼らはただ見ているだけだ。タラゼドも取り敢えず端で見ていて、河漢メンバーからすると何の人なのか分からず、監視人か?という感じだ。

ローやクルバトたちも見学で入っていた。




「おいおい。大丈夫なん?ここ。」

「坊っちゃんたちが頑張ってくれるの?」

「やべっ、中学校?」

河漢メンバーがあれこれ言い出す。大房はまだ軍人や警官を恐れる風があったが、数人の軍服の人間がいるのに河漢はさらに何も考えていないのか。


「お前ら何か指導できんの?」

「そもそも和道系って戦う訳じゃないだろ。なに?気功でもすんの?ハーって!」

楽しそうに笑って、完全に舐めている。やはり二十歳前はまだ青臭いのか。リゲルも薄ピンク頭のせいで軟弱に見えるのか。


「ここがAチームでないからって雑に指導員を入れたわけじゃないからな。いずれにしてもこの指導は全員する。まあ、導入は違うがある部分気功も似たものがある。」

相手は冗談で言ったのだろうが、ナライは真面目に答えておく。

河漢民の大部分が綿やスポーツ用の化繊Tシャツなど着ていて、太い筋肉質の腕が見える。腹を蹴っても弾かれそうだ。Aクラス違うの?とビビってしまうラムダ。




「まあいい。ここで何がしたいか教える。本当は信義礼節から教えたいが無理だろうな。誰でもいい。かかって来い。」

口だけでなくナライが手で煽ると、「マジかよ」とバカにした感じでナライより10センチは背が高そうな男が立ち上がった。ナライは身長175以下、Aチーム男子では細身だ。



「どこからでもいい。来い。」

というので、「はっ」と笑いを漏らしてからナライの前まで歩いて行き、いきなりパンチを入れる。


が、ナライは簡単に拳と腕を受け流し、男をザンっと床に落とす。

「うはっ!」


イテッ!というまで少し落とし込み、次を呼ぶ。

「次!」

「?!!」

「マジか?俺が行く!」

と言って向かった3人が、その後同じことになった。

「は?なんでだ?」

タラゼドやユラス兵も少し「おおっ!」という感じで注目した。タラゼドも多少は和道が分かる。事務所でココアを飲んだムギも入って来て後ろの隅っこにいた。マスクをして帽子をかぶり、背の高いユラス兵の横にいるので、置物のようである。



「次、ファクト行け。」

ナライが言うと、フォーミングアップしていたファクトが軽量グローブをはめて直ぐに前に出た。構えは空手とボクシングの中間で両方腕は上げている。

ボクシング系ならいけるか?と、相手もグローブを付けて出てきた。


そして、

「よろしくな。」

と、ファクトに打ち込んだ。


しかしファクトはきれいに()ける。そして、ストレートを打ち込んで来た時に、その腕を抱き流してそのまま腕をひねり床に押さえ込んだ。

「うあぅ!」

捻られて痛がっているので腕を離す。

「和道系って、攻撃力ないんじゃないのか?!」

「落とし込んだだけで、攻撃はしていない。」

ファクトが言うと、周りは無言で驚いていた。


「天道を中心に自分と、そして相手の内性も見つめるんだ。それから万象の(ことわり)に任せる。」

真面目な顔でファクトが話しているので、ムギも少しびっくりする。ファクトの目が真剣だ。内性とは人や物質、理、物の存在理由などの、内的な性質のことである。ただムギとしては、ちょっと寒い。ファクトが言うとアニメのマネかと思ってしまう。


「分かっただろ。今ここにいるのは、ローにも勝てない。」

ナライの言葉に、俺?という顔でローが目を上げた。

現在、紫系グレー頭のバカそうな男ローにも勝てないと言われて、河漢民は唖然とした。ローは一見アホだが性格はいい。性格がいいとは、自身だけに縛られず他者を受け入れる力を持っているということだ。本人は自覚していないが、自分と相手を見つめる内性を持ち合わせている。


「マジかよ…。」

格闘家としては上位に見えないメンバーに押さえ込まれて新規メンバーは驚くしかない。


「ファクト、今俺より強いんじゃないか?」

タラゼドもボソッと漏らした。何せタラゼドは正社員になってから1日30分から1時間前後のトレーニングしかしていないし、あまりに仕事詰めの時は15分ほどジムなどに行くだけで、仕事食う寝るだけの日も多い。


ファクトは日々道場に通い、新しいことを詰め込みまくっている。




***




その後河漢民は大人しくなり、相手を倒す目的と全く違う観点のナライの和道の話を非常によく聞いた。


「いいか。自己顕示欲と力だけの能力はいつか精神的にも体的にも身を亡ぼす。

河漢だけにいれば若い今だけ突っ走る刹那な人生、それでいいと思うかもしれないが、新しい価値が自分の中に生まれれば、人生に全く違う選択肢が生まれてくる。出会う人が変われば、自分の人生観が全部ひっくり返るような時が来る。」


彼らは一定の期間と基準をクリアすれば、その内スラム河漢だけでなく、河漢の新生地域にも派遣されるのだ。


ナライのそんな話を聞きながら、さすが先鋭第3弾メンバーと思うファクトやローたち。バイト最中や無職や暇で遊びついでにベガス来た大房第1弾とは、全く持って精神性が違った。


ファクトたちがこの講義をしたら、「悪いことはしていけません。規則は守りましょう。」「自身を向上させるために格闘映画や漫画を見て学んで下さい。」「適当なことをしてバレたら、ネットで叩かれて人生摘みます。今後の人生、河漢のアウトローしかありません。気を付けてください」とこのくらいの話しかできないであろう。





事務所に戻ったムギは、先の様子に驚いていた。


「すごいねー!ファクト!」

純粋になにやら驚いていので、チコも聞き入る。

「すごかったんだよ!」

ムギに褒められて事務所で少し照れるファクト。


「強かったのか?」

Aチームに行っていたイオニアが聞く。

「まあ強かったけどね、それ以上にすごいのはね、ファクトが真剣に講師をしていたの!!」

「………。」

え?お給料も入るから当然じゃん?とみんな思う。


「それって、俺が真面目にやってないみたいだな……。学校の教育実習も日曜学校もすこぶる真面目なんだけど。」

「ムギの中でファクトは相当適当な男なんだな……。」

「だって、いつもテキトウに生きてるし!」

まあ、その通りだとみんな思う。


「あのな、俺だってやるべき時はきちんとする!河漢とか下手したら事故や犯罪も起こるだろ。チコやエリスさんが許可した人や仕事をダメにしたくない。」

一応ファクトも命が行きかうギリギリの現場に何度かいたことがあるのだ。二度とあんな思いをしたくない。


「ファクト………」

朝まで怒っていたのに、もうファクトに感動しているチコである。

チョロいな……とみんな呆れている。



そこで、ガイシャスはこの前の話を反復する。


「私たちの目的は、アンタレスのエネルギーの方向性を変えることでもある。


強さを争って戦うのもいいが、前言ったように最終的に人間の力やエネルギーは人を生かすためのものだ。大房もだが、とくに河漢は人間の価値が見えない者が多い。」


河漢は全体的な霊性が低いため、命の光が見えない。そういうものが見えたらどんな物質より輝く存在を知れるし、むやみに人を傷付けたりすることができなくなる。


ガイシャスはナオスとオミクロンのハーフだ。ユラス民族国家は世界で唯一、近代化しながらも前衛に寄らず世俗化しなかった民族であり、その中でもオミクロンはとくにその傾向が強かった。ナオス族は人口が多い中で右傾向が強すぎ、それゆえに派閥が分かれ内戦を引き起こしたが、オミクロンは中道で安定している。



「力や精神の向かう方向性を変えて行け。それだけで河漢自体が変わっていく。


人が変わらないければ、世界は今までと同じことを繰り返すだけだ。また何千年も…。


ベガスは最初から安定性のある者や一定基準の移民を受け入れているが、世界全体では未だ河漢のような人や場所の方が多い。世界が変わる縮小モデルをここで作るんだ。」


ガイシャスは静かに言った。




ここで出る和道や和気道は、物語の創作です。実際にはありません。

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