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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十六章 選ばれし者たち

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35 グレーのあの子はだあれ?




もう一つの驚き。


それはアンタレスの一部業界で大きな話題になる。


連合国共通医師試験の春にステップ1がある。この夏までにステップ2を一気に合格した者がいた。最終は年末のステップ3だ。話題になったのは、元は薬学科卒で薬剤師の資格も取っている編入生あったからだ。


そう、響である。



しかも鍼灸の技術も持っていて、その国家試験にも合格してしまった。漢方文化の衰えていない西北アジアでは国家資格を持っている東医師に学んで助手をしてきた分も、疎に試験に受かれば大学や専門に相当する単位にして貰える。中学からの分も含めると響は条件を満たしているので、そのまま専門科卒業試験を受けて卒業も得てしまったのだ。実際響は、子供の時から東医師の指導を受けていたので、一般の専門学校生より本質な部分で詳しい。


薬剤師から医師を目指す者は少なくはないが、その中で成績がダントツだったのだ。全体では平均より少し上程度だが編入1年目では今年のトップ、一部専門では全体トップで小論文並みの回答もあった。


一旦、西アジアで取った鍼灸資格持ちで共通医師試験東医学を通過すれば、ほぼ世界中の東医学のある病院で働ける。




そして皆が驚いたのは、響が最初から共通医師試験を受けたことだ。


この試験はレベルが高く、天才、秀才以上といわれる人でなければ普通直接受けない。一般的には、最初に自国で医師になって病院で経験を積んでから受ける人が殆どだ。医師になるつもりがなかった人が受けるような試験ではないのだ。響的には、アジアより試験の時期が都合よかったというのもある。


なお、人体ニューロスに関わり施術までする者は、元々医師かこの試験に平均点以上で合格していなければならない。SR社の博士たちはだいたいこの資格を持っていて、ミザルは他業種の人間としては、最年少トップ成績を持っている。


響がインターンをしていた倉鍵の総合病院でも響の合格は話題になり、医師会はにぎわっていた。統一アジア資格を受けると思っていたのに、響は連合国資格を目指してしまったのだ。




ベガス総合病院でもお祝いムードになっていたが、年末のステップ3の最終試験が残っているし響はバテていた。


「……お祝い?まだ合格してないよ?」

家のベッドで伏せたまま電話越しに話す響。


『でも合格したステップ2までは次の試験で落ちても消えないんでしょ?実質半分は合格確定じゃん!しかも鍼灸師も合格したんでしょ?』

ファイが言うが、響は死にそうだ。ステップ1、2の合格は翌年より3年間は維持される。それにしても、話した覚えがないのにみんなが知っているのはなぜ。


「ダメ。ステップ3まで合格しなかったら免許はないし。合格じゃないよ。」

『だからー。鍼灸師受かったし!』

「………いい。しばらく寝る………。インターンも連休貰った………。寝る、ずっと寝る………。」

『ああーーー!!響さん!寝ていいけどお祝いはしよ!!』

「しない……。全部受かったら………」

『じゃあ身内だけ!私とリーブラとライとルオイたちだけ!あとムギ?』


あまりに朦朧として、変なことを口走る。

「それに………私行かなきゃ………」

『どこに?一緒に行くよ?』

「それに、ルオイたちには会わないよ………」

『なんで?』

「………」

『何か嫌な事でもあった?』

「…会いたくない………」

『………どうしたの?』

「…………」

『響さん?』

「……………」

『響さーん??』

「………………」


寝てしまったらしい。ファイは何度も呼びながら心配になってくる。

「ミーラ。ファイだよ。響さん寝ちゃったから温度管理しておいてね。電気とか付いてたら切ってあげて。ブラインドもお願いね。」

『分かりました。』

響のAIにお願いをして電話を切る。


その日は響を休ませて、次の日仕事が終わってからファイは響のマンションに向かった。




***




「響さん?」

ソファーの上でもそっと目を開けると、誰かが呼ぶ声がする。

「………起きたの?」

「…………。」


響のマンションは響以外では、チコとファイが鍵を持っている。


ファイが呼び鈴を鳴らして入って来ても寝ていた響は、やっとフワフワした顔で起き上がった。

「はれ?ファあい?」

「やっと起きた………。」

「んん?今何時?」

「昨日電話してからもう24時間経ってるよ。」

「……………」

「もう次の日だよ。入らせてもらったから。」

「うそっ!」

ガバっと上半身を起こす。


響が起きるまで自分の仕事をしていたファイは手を休めた。外着で着替えないままの響がソファーで目をパチパチして驚いている。

「ごめんね。ベッドに連れて行ってあげたかったけど、私には無理だった。」

「………ううん。いいの……このソファー大きいし……。」

「タラゼドがいたらよかったのにね。」


「……タラゼドさんの話はしないで…。」

いきなり怒りそうな響にびっくりする。

「なんで?」

「…告白は撤回します………」

「え?なんで?みんなに知られて恥ずかしいの?今更だよ。」

「違います!大事なお仕事ができたの!」

「…??」

ファイは意味が分からない。

「またどっか行っちゃうの?」

「違います。」

これ以上、行く行く詐欺はしたくない。


「もしかして、タラゼドなんか選ばなくても、ハイスペックを選べる立場という旨みに気が付いちゃった?」

そう、響は選べる立場なのだ。タラゼドなど所詮大房。モテモテ響を持て余すであろう。

「ちょ!タラゼドなんかとか言わないで!ひどい!」


「二股とかする気?」

口で出来ている女、ファイは適当なことを言う。

「は?何てこと言うの?!仕事だって言ってるでしょ?」


「リーオが来るから?」

「へ?リーオさん?」

お見合いアーンド告白された相手である。

「リーオ来るよ。ベガスに。知らないの?」

「………へ?」

青くなる。


「あれ?もしかして自分のために来るって期待しちゃった?ベガスの文化事業を手伝いに来るんだよ。出張だよ。」

「はあ?」

一気に疲れが押し寄せる。

「リーオさんとはきちんと話して終わらせています。」

「いいよ、いいよ。あっちは四支誠(よんしせい)を文化事業の街にしていくって。オープニングとかさえ避けて、南海や他の地域にいれば会うことはないよ。病院に籠ってたらいいよ。」


「………それともあの子?」

まだ問い詰めるファイ。


「あの子?」

「太郎君。」

「タロウ?」

「ほら。黒い子。目も髪も黒くて、細くて響さんのこと『キリン、キリン』って言う子。」

「!」

一瞬固まってしまう。シェダルは細くはないが、ごつい人たちに囲まれているのでそう見えるのか。



「なんでファイが知ってるの?」

「大房で見たじゃん。みんな知ってるよ。」

「えええ?!なんで??」

大房、春のダンス祭りで人間を人形のように扱って、超絶ひんしゅくを買いまくっていたのだ。忘れるわけがない。

「あ!」


「あんなことしてみんなが忘れると思う?」

今までシェダルの周りにいる人間は、あまり容姿に関心がないため気が付かないが、シェダルは顔を隠していてもやや目立つ。周りにいたメンバーが既に目立つためシェダルは埋もれていたが、一般人の中にいれば世離れしていて、浮き立つ雰囲気と見た目だ。

「信じられない…。みんな忘れて………」

響は、これまたなぜと頭を抱える。


「彼?」

つかさずファイが聞く。

「何が?」


「天秤に掛けてるの。」

「………?」

意味が分からないが、少し考えてタラゼドと選び困っていると思われたと分かり、全力否定をする。

「あ!違う!それは違う!!ファイは私を何だと思ってるの??」


「彼は誰?」


「へ?」

「彼は何なの?」

それは言えない。

「ウヌクとも仲がいいよね?ファクトとも。」

「…………。」

「なんで黙ってるの?」

「……あのね。彼はね、いろいろあって預かってる子なの。身内にも言えません。」


「………。」

今度はファイが黙る。

「花子さんもいるんだって?」

「………。」

シリウスである。なぜそこまで………と思うが、初期はウヌクに口止めしていなかったので、ファクトの親戚だと広まったのかもしれない。


そしてファイが言い出す。

「私、太郎君気になる。」

「………?」

またもや分からない顔をする響。分かるわけがない。気になる?

「え?」

「太郎君好みだわ。紹介して。」

「はあ?!」


「大房もベガスも脳筋が多いからさ………ああいう少し繊細さのある人が好き。」

「へ?」

もう、「は?」とか「へ?」しか言えない。


シェダルはある意味一番テキトウな男である。脳筋とは少し違うが最も力ずくな男でもあった。法律も常識も教養も関係ない。ファクトやウヌクとは違う意味で根本的な部分がテキトウだ。繊細でない………とは言い切れないが、基本繊細ではない。


「あの人に惚れたから、もう他に恋人は作れない………」

「え?ファイ?彼は………」

東アジアの保護下にいるとは仕事上言えない。

「彼はダメ!!」

保護されているとはいえ、環境も彼自身も死亡ルート一直線の男である。本人狙い撃ちでギュグニーに襲撃もされている。気が気でない響先生。大事なファイを危険ルートに入れるわけにはいかない。


「向こうが響さんのことを好きだから?」

「違います!」

「なんで?響さんが好きだから?」

「違うってば!!」

「やっぱり天秤に掛けたいんだ。」

「ファイ!!」


ファイの好みのタイプではあるが、恋愛したいわけではない。だいたいあの男、清々しいほどに響に粘着していた。そんな男お断りである。


ただ、響に探りを入れるためにそう言ってみたファイであった。



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