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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十五章 ユラスの瞳

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32 手首で輝く宇宙



ジル・オミクロン。


オミクロン族の族長ではないか!



説明もせずに連れてくるとは。ファクトがワズンを見ると何ともない顔で笑っている。

「私はカウスさんとも友人です!」

「…そうなのか?」

ジルが驚いているのでワズンが説明してくれる。

「彼らは仕事の一部が重なるんです。ベガス構築ですね。チコとも仕事をしますし、カウスからもいろいろ習っています。」

「ほー。ならカウスに言っておいてくれ。一度会いに来いと!!」

「あ、はい。」

なぜかちょっと怒っているようだ。そう言えば、カウスは一族から逃げまくっていた。


「ワズン!」

そこでワズンに飛びついてきたのは幼さが残る少女。

「シューイ!大きくなったな…。」

「ワズン!またここに来るの?」

「少しだけ仕事だよ。」

「ずっといて!お嫁さんになってあげる!私もう、バイクで回転もできるようになったんだよ!大人だよ?」

「それはすごいな。でも気を付けてくれ。」

「うん!」


ポカーンと見ているファクトはワズンと目が合う。

「ワズンさん、売れてよかったね。でもチコの時もだけど未成年は……。うおっ!」

シューイと言う女の子を抱えたままのワズンに蹴られた。


その少し後ろに、他の女の子や男の子もニコニコしながら立っていた。彼らはユラス語で何か言っている。ファクトたちと目が合うと何人かは恥ずかしそうに礼をし、その後ろから中年の女性も出てきた。

「ワズン!」

「ご夫人、お久しぶりです。」

「元気でよかったわ。あなたもようこそ。はじめまして。ジル・オミクロンの妻でイルーアといいます。」

「心星ファクトと申します。お会いできて光栄です。」

両手で握手をする。

「お食事は?」

「食べて来ましたので。」

「軽い夜食でもどうぞ。」


そう言って、みんなで大きなリビングに移って行った。




***




オミクロン家では、なぜかファクトの話になり、婚約者はいないのか。いないなら紹介しようとそんな話ばかりになる。


「末っ子が一昨日ベガスに赴任したんだ。24だ。どうだ?」

「……姉さん女房ですね…。」

それ以外言うことが分からない。オミクロンの族長一家とか、生存ルートが見えない。


ワズンは途中から子供と遊んで逃げていたが、ユラスや一部ヴェネレの地域ではとにかく結婚をさせたがるということは改めて分かった。鬱陶しくて仕方なくても、東アジア人は結婚しにくいので、これくらいの方がいいだろうということはベガスで学んでいる。


あの後さらに婚活おじさんと婚活オバさんがヒートして、数人がお付き合いアンド結婚したのだ。ベガスよりも大房でどよめきが起こっている。


性格はいいが、今時女子が好きそうではない容姿やセンスのジリや高田君は、なぜかバツイチの女性に見初められ、結婚前提で付き合い始めてしまった。ほどほどの顔の好みで付き合って、人前ではいい夫、怒る働かない動かない拘束する、妻を貶めるなどしょうもない男に芯から疲れ切った離婚後、気の利くジリたちは非常にポイントが高かったそうな。


やっとサルガスやタラゼドから学ぶ、どうでもいい話しも聞いてくれ、優しく気の利く男はモテるという原理に気が付いたらしい男性2人と、顔だけではどうにもならなかったと身をもって感じた女性2人である。1回目の結婚だったらうまくいかないどころか、ジリたちも出会いすらなかったかもしれない。


ファクトはそんなジリや高田君の性格や容姿も好きなのである。




夜は駐屯に行く予定だったが、夫人が客間を用意してくれたのでファクトはオミクロン邸に一泊することにした。



正直ファクトは、あの星空の下で寝たいとも思った。


そこならユラスの声が聞こえて来そうだったから。



掴みたい、あの星たち。



でもサソリや蛇、訳の分からない昆虫もどきがたくさんいるので危険だという。ただ、カウスやワズンはよく野営していたそうな。






「へー。じゃあ、向こうでチコ様の直下で動いてるんだ…。すごい……。」


多分彼らの想像する直下の仕事とはだいぶ違うし、今チコは顧問であるが師弟なのでそれでよいだろう。


今日は孫たちがたくさんいるらしく、今ファクトはカウスの伯父たちの息子の子供5人と同じ部屋にいた。ベッドでなく裸足の部屋に簡単なマットや布団を適当に敷いている。公邸にもこんな部屋があるとは、こういうところがユラスはアジアっぽい。ユラス人は西洋に寄らずに『アジアの西洋人』とも『東のヴェネレ人』とも言われている。


ワズンは大人同士でいろいろ話したいため、ファクトは子供たちに引っ張られてこちらに来てしまった。



「なんていうか、直下っていうか番長だからね………チコは。子分は番長に従わないと…。」

「バンチョウ?」

「学校で番張ってる人。頂点。絶対的権威。」

「『バンをはる』?軍隊でもないのに、よく分からないけどそんなのがあるんだね……。東アジアはもっと個人主義だと思ってたよ。」

ワクワクして聞いている小学生にテキトウなことを言うファクトである。なお。1人は高校か大学生と思っていたら中学生。もう1人は高校生と思っていたら小学生であった。見た目だけでなく性格も大人っぽい。小学生の頃に、個人主義とか大して考えたこともなかったファクトである。


「ご両親と同じ道は進まないの?」

「あんまり関心ないかな。」

「僕はニューロス関係に進みたいけれど。」

「そうなんだ。」

「今度アンタレスに行ったら、SR社案内してよ!」

「………俺、そんなに行かないんだけど、もし来たら知っている人に伝えるよ。」

「ほんと?!」



その時、トントンとノックする音がする。


『………おにいちゃーん。ちょっとだけドアを開けてもいい?』

ユラスは男女が厳格だ。家族以外がいる場合、男性と決められている部屋には女性は入らない。ユラス語でファクトには分からないが女の子が来たようだ。

『おじい様の家で、海外のお客様がいる時は共通語で話せって言われているだろ?できない奴は来るな。』

『そうだよ。子供はもう寝ろよ。』

『ファクトお兄様に会いたいのー。』

何を言い合っているのか分からないが、ファクトの名前が出てきたのでドアを開ける。


するとそこには幼稚園か低学年というような女の子が2人いて、ファクトに何かを差し出した。

『お兄ちゃん、貰って。』

「貰ってだって。手を出して。」

後ろから誰かが教えてくれる。手を出すと2人がそれぞれ手首に何か付けてくれた。



それは小さなブレスレットだった。


『安全のお守り……。』

小さな両手でファクトの大きな手をを抱えて嬉しそうに見る。小学生の兄がそれはお守りだよ、と教えてくれた。


『宇宙や惑星を模してビーズを並べるの。これは太陽系。ずっと、ずっと循環するの。

ずっと…。宇宙もミクロも越えて…私たちはずっと世界を彩るんだよ。』


そう言って少女は何かを祈る。


『ずーと、ずーとおじいさんまで長生きしてね。ステキな人と出会って、たくさん家族を抱いて……幸せになってね………』


最後の方は訳してもらえたのかは分からない。途中から通訳の声が小さくなる。



ファクトは知らなかったが、子供たちの父や兄姉も何人か亡くなっていた。


『……ありがとう。』

ファクトは少女にユラス語で答えた。



『それから、こっちはチコ様に。』

雰囲気が変わって、今度は袋に入った何かをくれる。チコという名がでてきたので多分チコにあげてということだろう。

『これもブレスレットだよ。』

「分かった。ちょっと待ってて。」

ファクトは自分のカバンを持って来て、セカンドリビングまで出て中を探る。ついて来た女の子たちと小さい男子ズが興味津々だ。

「あった!」


子供たちが注目する中、出てきたのはプラスチックビーズの腕輪。

「これ。ベガスの子たちが作ったのだけど。」


日曜学校でウヌクたちと作ったものだ。

オミクロンの子たちがくれたのは本格的な石や金属を使ったビーズの腕輪だったが、ファクトの出した物はピンクや紫、黄色や青、緑のいかにも子供が付ける物。しかも星やウサギ、花。丸でもやたらキラキラしているビーズもある。

貰って3日くらいは学校でも着けていたが、少し小さいしさすがにこれをずっとというわけにはいかないので、カバンの奥で眠っていた。


『わあ!キレイ!』

5つあったので、両腕にはめてあげると非常に喜んでいる。

「ありがとう……」

共通語で嬉しそうお礼をした。もう1つはこの中では一番小さいだろう男の子にはめてあげたら、やたらテンション高く跳ね回っていた。

『ベガス行きたい!ベガス!』

『チコ様にも会いたい!まだ会ったことないよ。』

『私、大きくなったらチコ様のお手伝いをするの!』


「ちなみに、ベガスでカッコいい人は、カウスおじさんだから。」

「カウスおじさん?チコ様は?」

「カウスって誰?」

「チコもいいけど、かっこよさはカウスおじさんが一番!チコが頼っている人だから。」

「すごーい!」

親族から逃げ回っているので、子供たちに存在を認識されていないらしい。

「君たちの親戚のおじさんだよ。覚えておいてね。カウスおじさんが一番カッコいい!」

カウスに恩を売っておくファクトであった。いなくても媚を売っておくのである。これで少しは族長家系に会った時、カウスも顔が立つであろう。



その後、やっと子供たちが寝てから、ファクトは中高生のメンバーに連れられてなぜか地下にある射撃場に行き、持ってきたショートショックも加え深夜まで撃ち方を習っていたのであった。




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