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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十五章 ユラスの瞳

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30 この愛はノーカウント



シグマはチコに言いたい。

「何言ってるんですか。キスするからさっき世界が大混乱していました!」

「………?」


少し戸惑ってチコは思い出す。

「……ああ?お前らそんなんで照れるのか?子供なのか?」

「…………。」

ファーストキスではなさそうだと安心する、主に大房民。


「でも、チコさんに言われるとなんか悔しいっすね……。」

「分かる。チコさんに言われたくない。」

「多分チコさんは、キスをしたことがあっても深みを知らなさそうだ。」

「あ?まだなんか言いたいことあるのか?」

いらぬことを言い出す下町ズにチコはムカつく。


「深みって何?」

ジリが聞いてしまう。大房民だって知らない。

「いや、俺も知らん。恥を忍んでいえば昔別れた彼女に、あんたのキスではどこにもイケないと言われた。」

「かわいそうに………」

なぜかラムダが憐れむ。

「え?どこに行くの?キスで?」

ジリは何も分からない。心の純粋な大房民などいないが、女性の望む細かいとことなど分からないのである。



そしてシグマは、自己紹介をしなければならない理由を話した。

「新規河漢民や一部メンバーがあなたを男だと思っていて、大混乱していました。」

「…………」

また、少し考える。今、チコは髪をキャラメル色に染めているので、普段から姿がぼやけてはいるが、議長夫人と分からない者もいただろう。そして言わんとしていることに気が付いた。


「ん?………あ?どこをどう見たらそういうことになるんだ!」

「俺たちも何が何だか分かりませんでしたが、新規メンバーはもっと素直に勘違いしていました。見境なく女性をナンパしている生意気そうな軍人がいるのに、なぜ自分たちはナンパも禁止なのかと。」

「……お前ら本当にアホだな…。」


サダルとキスをしているのに何を言っているのか。

「いえ。混乱を招いているのはあなたたち御夫婦です。」


タウは口が過ぎるシグマを止める。

「おい。これ以上余計なことを言うな…。」

夫婦らしくないサダルとチコも問題ではある。



「それにしても、議長はキスとか何がしたかったんでしょうね!」

話を蒸し返されて、チコはイヤそうだ。

「いい夫婦の日だったとか?」

「接吻の日とか?」

「接吻って言うな。生々しい……。」

「他の人がキスするより、あの二人がするというのが恥ずかしいのはなんでだろ?」

みんながぼやいている所に現れる問題児。



「ノーカン!それはノーカン!!」

仕事が終わって駆け付けたのはファイ。


「あ、ファイ!!お前!!」

怒るチコに、もっと怒ってファイはチコの前に来る。

「『お前』って言わないで!傷付く!怖い!」

「何が傷付くだ!!ファイ、お前だろ!!だいたいノーカンってなんだっ。」

「え、ノーカウントの事ですけど?」

「貴様…。」


「まだ43回も残ってたのに、口でなら3回でいいって妥協したでしょ?それでも嫌だって言うから、アーツの前で口と口なら1回に凝縮してあげるって………」

ブリッコ気味に言う。

「……ならもうしたから終わりだな!」

うれしそうなチコ。


「絶対ダメ!せっかく()()()()()なのに河漢って…。しかも私がいない時って………意味ないじゃん!!この動画、チコさんの顔しか映ってないし!」

どうやって入手した動画なのか。サダルは頭しか写っていないし、チコも微妙に一部見えるだけだ。

「…………。」

みんな呆れている。ファイだったのか。しかもなぜそんなことが。


「お前、何がどうなったらチコはともかく……議長とそんな約束ができるんだ?」

サルガスでもそんな約束は取り付けられない。

「フン!何だっていいじゃん!せっかく夫婦仲を世間的にも取り持ってあげようとしたのに………。私、なんにもおもしろくない!!」

「…なんでファイのためにそんなことしなくちゃいけないんだ……。」

「私のためじゃない!世間の評価のためだよ!」

でも、アーツの前でするよりユラス人の前でした方が意味があるので、良かったのではないかとみんな思う。ただ、サダルやチコの元々の身内や味方が多いので効果はいかほどだか。


「チコさんって、情緒のカケラもないし!パイラルさんもそう思いません?」

「え?」

「キスしたところで、色っぽさもかわいらしさもない!リギルの動画を打ち破る夫婦愛を見せてほしいのに「は?今、蚊に刺された?」くらいの顔しかしない!ほんと楽しくない!」


「………。」

これこそ言い過ぎではないかと、周りのユラス兵たちが青くなる。議長のキスを公衆の前で「蚊に刺された」とな。

「つうか、リギル。あいつ動画消せよな。」

キファがぼやく。リギルは1つも動画を削除していない。ただ、新たな内容でいくつか更新はしている。今は休載中だが。



バン!

と、そこでファイはサルガスに書類で叩かれた。

「フゲっ!」

「お前、言葉が過ぎるぞ。人前でそういう発言はするな!」

「だって~!」

「だってじゃない!」




「待って!」


そこでいきなり奮い立つのは、素直で前向きなオタクラムダであった。

「まだ発展途上なんです!」

「………は?」


「チコ先生の愛はまだ発展途上なんです!」

「………。」


サルガスは意味が分からなくて聞いてしまう。

「え?好きになる気持ちがってこと?」


「違います!それでは不足です!チコさん自身の中での()()を愛する気持ちです!未熟なんです!!」

「?!」

ユラス大陸のトップを未熟扱いするとは。


「僕は、シリウスを思うとそれだけでドキドキします!尽くしたい………。貢ぎたい………。

もう、触れることすらおこがましい………。触れたらとけてしまいそうだ………。」

ラムダは楽しかった河漢でシリウスとお茶をした時間を思い出す。貢ぐって、ただの消費者やん、とみんな思うがそれで満足な世界があるのだろう。何せシリウスモデルの、ハイスペックノートデバイスを買っている。


「………チコさんはこれから愛を知るんです!!」


「………」

「………。」

誰も何も言わない。というか、訳が分からない。


「…これから………。そう、発展形です!!」

発展形という、新しい用語が出てくる。

「チコさん、おすすめの小説読んでおいてくださいね!女性分野も網羅していますから、いくつでもご紹介できます!先のキスの深み意味も分かります。女性小説に答えは載っています。読書して下さい!

まずは気持ちを育てて………、それから議長とお時間を取ればいいんです!」

「………。」


さすがにチコもなんだか居た堪れなくなってきた。


「チコさん、ファイト!!」

と、ナンパ大房陽キャ民と夫婦のスキンシップ濃すぎユラス人の前で、年齢イコール彼女いない歴なのに何にも躊躇せずグッドサインを送るラムダ。

シグマすら驚く強心臓である。


「あ、どうも………。」

意表を突かれた顔でそう言って、チコはちょっとトイレにと出て行ってしまった。



ラムダがこんなに強烈な奴と思わなくて、知らないところで英雄になっていたのであった。



●シリウスとお茶をした日。楽しかった。

『ZEROミッシングリンクⅢ』17 シリウスとファクト

https://ncode.syosetu.com/n4761hk/18

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