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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十五章 ユラスの瞳

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30/124

29 7秒って長い



「………」



角度を変えて、7秒ほど重なった唇。


シンとする周りと、何だと騒めいている会場。



そして、そっと唇を離す。

「また。」

「あ、はい。」


「行こう。」

「……はいっ。」

側近メイジス一行も、珍しくちょっと動揺している。



何でもカウントするメイジスは7秒を脳内で測っているも、誰もが思った。

なんか、いつまで続くんだろう。1分ぐらいしてなかった?気まずすぎて、体感時間1分。


言ってしまったシグマは一応付け加えておく。

「あ、いえ。そこまで望んでは……。」

みんなを見渡すと、タウやイオニア、サルガスたちも無言になっているが、河漢民が騒めいているので喧騒の中をサダルは去っていった。



「………。」

チコは呆気にとられ、そしてサダルが去った方を見ながら、彼の触れた自分の唇を触った。

「…?……??」

完全に混乱している。


アーツはいつも夫婦やカップルの熱々ぶりを見せつけるユラス人にだいぶ慣れてきたのに、なぜかこの二人だとどうしていいのか分からなくなってしまう。キスなど大房でも鬱陶しいほど見ているし、自分もしてきたのに鋼の心臓、アーツ陽キャの名を返上したいくらい言葉がない。シグマなのに。



「……へ?!」

やっと声を出すチコ。事情を知らない新規駐在メンバーは議長ご夫妻は仲がいいと朗らかに見ていたのに、会場の違和感に気が付き少し戸惑っている。ガイシャスは、部下に説明がしにくい。


「…………。」

こうなっているアーツやユラス人をよそに、


おおおおおおーーーーーー!!!!!!!!!

と、とりあえず盛り上がる新規河漢民であった。意味はない。ただ楽しいだけである。今ならもれなくなんでも楽しい。



「…………」

「チコ様。大丈夫ですか?」

パイラルが心配する。

「あ、ああ。」


「……あの二人って、まさか初キッス?」

かわいく聞いてみるシグマ。言っていて恥ずかしい。

「…そんなことはないだろ……。」

と信じたい。だとしたら笑いにもならない。


「???」

まだ、状況が呑み込めない感じのチコがやっと意味に気が付く。

「……あ!あいつか!!」

「……あの子ですね…多分。」

パイラルも分かった。あのしょうもない人のせいであろう。





そこでガイシャスがマイク越しに仕切った。

「一旦静かにしろ。」

今回はなぜか河漢民も素直に静かになり、中央フロアができていた会場を簡単に元に戻し席に着いた。


「イオニア。この後は?」

「あ、はい。」

イオニアが、今後の簡単な説明をして、最後に、もう一度ガイシャスに振った。

「ならここにいる全員に言う。挨拶からここまでの経緯で、ここに残りたいものは残れ。そうでないものは今会場を去ってもいい。」

「…………。」

「これから3か月。まずここで一定の勉強と訓練をしてもらうし、規則は守ってもらう。行政に関わることには給料も出す。決めた者は契約書など進めていく。そして、3日猶予を与える。今決めかねている者も、今日から3日後の午後9時までは待っている。」

そう言うと、会場が騒めいた。


会場には東アジアの人間もいたので、何か一言あるか聞いたが締めていいとのこと。

「では質問があれば、周りのスタッフに聞いてくれ。解散。」


そして、河漢の説明会は終了した。




***




アーツ河漢はほとんどがその場で契約に至った。


実際は新規の大房民なども一部こちらに入っていて、そちらは全員決定。

ただ今回は今までの河漢と違い、3カ月は酒はもちろん性関係も切ってもらう。これまでは河漢に関しては黙認してきた部分もあったが今回は厳しく行く。禁煙室は設けるが大麻等も禁止。見つかり次第退所処分になる。




そして南海に戻って、両アーツのことを総合して話し合うため既存アーツは事務局横の大会議室に一同集まっていた。


河漢のイユーニたちも来ている。こちらのミーティングに参加するのは初めてで、こんな所なのかと驚いていた。女性や子供も多く雰囲気が全然違う。子供たちが、

「こんばんはー!」

と挨拶をしてくれるので、彼らも楽しそうだった。



「え?そんなことがあったんすか?」

「見たかった……。」

三分戦。しかも新規ユラス兵やサダルまで出てきたと知って、こちらで仕事をしていたシャウラやタチアナ、ナシュパーたちが悔しがっていた。

「映像は?」

「ユラス兵が撮ってたけど。」

許可されていなければ河漢や会議、試用期間などは撮影禁止である。

「あとで観させてもらおう。」


「それにしても、あんな奴ら入れて大丈夫なんですか?」

南海アーツメンバーたちがイオニアや教官たちに聞く。

「大丈夫だ。全員霊視していて、繋がっている背景がいい者を選んでいる。言葉も汚いし問題を起こす者もいるかもしれないが、変わる時には変わるタイプだろう。」

「地下リングは?足を洗った元受刑者ならともかく、現役はダメっしょ?」

「もう、数か月前からこっちも動いているからな。一旦警察で処理は受けさせた。しばらく服役していた物もいるし釈放金を払っているのもいる。」


河漢は大きな犯罪だけでなく、小さな犯罪も非常に多い。少しの事なら警察が放置するし、人が死んでいても、殺人でも書類の処理ぐらいにしか警察が動かないことはよくあることだった。

ただ今回は、行政事業の根幹にも使っていく人材を育てる。賭け場など複数の人が周知のような犯罪は曖昧にはできないので、皆が神経質になるのも当たり前だった。



「まあでも、第1弾、2弾と河漢を動かして………けっこう手ごたえはあったからな。」

チコが考えて言う。

イユーニをはじめ、30人ほどは南海メンバーと変わりない働きができるし、その他の多くが現在専門学校に通い、中高大学卒業を目指している者もちらほら出てきた。大学は河漢内にはないので、許可を貰えば藤湾大に通える。



手ごたえはある。


出来るものから変えていくが、河漢は難しいものも同時に行きたい。


なぜなら20万人以上の移住や生活水準改善計画がある。先鋭を育てる反面、平均も変えていかねばならない。そのためには、問題児たちにも動いてもらわなければならないのだ。

アーツ河漢にも起こるだろう多種多様のイレギュラー事態に、個々が対処していく力を付ける必要もある。


そう、もう河漢はサウスリューシア流で行こうという判断になったのだ。


多少現行で問題がある者も入れていく。こちらも訓練をしているしユラス軍までいるのだ。どうせならユラス軍を思いっきり使ってしまおうという魂胆だ。

荒治療である。


女性や子供の多い南海には混ぜないが、これからもっと大変になっていくだろう。とにかく人手も指導者もいる。



「この子と……この子。シグマのチームに入れよう。」

なぜ、女性は大人男子や物までも「この子」というのだ…と、疑問に思いながらもガイシャスの提案を聞くメンバー。みんなではないが、サラサもVEGAの事務の子もソアもそうだし、ガイシャスは事務面だけなぜかそうなる。ただしこの前、銃にまで「この子にはもう少し頑張ってもらわないと…」と言っていた。

女性は物までお子様呼びをするのだ。河漢にはないOL観あふれる世界に河漢民が戸惑っている。


「サビルはこっちのチームな。」

チコが名簿からスライドしながら付け足す。ただ、不思議なことに、今河漢を仕切ってるユラス側はなぜか中心が女性だ。


チコに、ガイシャス。ぱっと見では、河漢を仕切る恐ろしい教官には見えない。最終的には男性の方が格段に多いが、格闘集団を作るわけにはいかないので、女性の力もいるとエリスに言われたのだ。女性や子供もいる現場が多いので、女性スタッフも増やしたい。


「……そういえばチコさん。今度ちゃんと自己紹介してくださいね。新規メンバーに。」

「は?正式にそっちの教官に入れたらするぞ。今はあくまで顧問だからな。」

そう言うチコにシグマが変な顔をする。

「あ?シグマ、何なんだ?」

「そうじゃなくても、ユラス代表として議長夫人として、女番長として自己紹介お願いします。」

「別にもうアーツの代表じゃないからいいだろ。議長夫人とか関係ないし。」


他にも役職持ちはたくさんいるのだ。なぜそこまでとチコは不思議に思う。



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