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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十三章 緑の瞳
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2 高原の戦士




「お前、何が目的だ?内部荒しか?」



ここは巨大スラム河漢の艾葉(がいよう)


その少しだけ深い地下吹き抜けの瓦礫の道で、ムギが牽制するように、ミルクティー色の髪の長いアンドロイドに声を掛けた。


「…………。」

とぼけた顔の美しいアンドロイドは「はて?」という顔をする。わざとなのか、性格のプログラムからなのか分からない。


「目的?荒らし?!」

ウヌクがビビる。他のメンバーも、ザッと構えた。


「……?」

しかし、ボーとした顔でアンドロイドは考えている。

「お前、ライトじゃないだろ?」

「…………」

アンドロイドが、スーとムギの方を見る。目の奥を光らせて。

「何なんだ?」


これはヤバいと思うファクト。無理に相手を刺激しなくてもいいのに。今までの経験だと、モーゼス系は結構(げき)しやすい。

「ムギ。何言ってるの?ライトだよ。」

ファクトは「悟れ!」とサインを出しながら心で言うが、悟れのサインは妄想チーム限定。ムギは気は付かない。それにいくら訓練を積んでいるメンバーでも、こっちは昔の機体の緑の花子さんと人間メンバーしかいないのだ。もし、相手がSクラス機体だったら………正直敵わないどころか怪我人が出る。



ムギはアンドロイドが隠れているファクトの後ろを指して指示する。

「アンドロイド。一緒に行こう。」

ファクトはムギが大人しく引き下がったことにホッとする。武器でも打ち込むのかと思った。


でも、アンドロイドは初めて意思を持ったように意見を言った。

「嫌です。」

驚くメンバー。


「ねえ?」

アンドロイドは肩を支えるふりをして、近くにいたイオニアの首筋をこっそり撫でた。

「…っ。」

「そこにいる、緑の人形のように、私も皆さんと一緒に居たいの。」

「?!」

緑の花子さんも、自分の名前を出されたことに、一瞬「おっ?」という感じで反応した。緑の花子さんは、大好きファクトの服の裾をしっかり握っていた。こいつ…、という顔で呆れるムギ。


「とにかくこの緑の花子さんも、あなたも私に着いて来て。」

ムギはユラス軍から東アジアに引き渡すつもりだ。

「え?私も?!」

がっかりの緑の花子さん。

「当たり前だろ!」

なぜ危険な正体不明のアンドロイドを2機も連れて歩かねばならんのだ、と怒るがムギはその思いを外に出さないように我慢する。


「イオニア!どうするんだ?」

「え?」

なぜか動揺しているイオニアにイユーニが聞く。イオニアはアーツ河漢の総リーダー、イユーニは河漢民側のリーダーである。


その時、アンドロイドがしっとりした口調で声を掛けた。

「イオニアさん?」

「?!」

アンドロイドが不安そうなので、イオニアがその目を見つめると、白茶色の目に吸い込まれそうな黒が生まれた。

「私、ジョーイと言います……。」

「…!」


「イオニア、指示は?!」

「………。」

イユーニが何か感じ取ってそのアンドロイドの前まで来た。

「イオニアの横を離れるんだ。」


そして、そのアンドロイドの手を取って引っ張る。

「行こう。仕事に同行はできない。」

「離してください!」

「ダメだ。住民のプライベートに関わる。」

あまりに引かないので、イユーニが強くその手を引く。


すると、ザッ!とイユーニの体が回転した。

「つっ!」

「?!」


アンドロイドが思わずイユーニを地面に伏せたのだ。


「イユーニ!!」

地面に押さえつけられたイユーニにみんなが呼ぶ。


「?!」

さすがに真横のイオニアが反応するが、見た目が女性のせいかアンドロイドと分かっていても咄嗟の反応ができない。ジョーイの肩を引っ張ってイユーニを解放しようとする。

「やめろ!」


が、ジョーイと名乗ったアンドロイドは、サッとイオニアに向き直る。

「ひどい!乱暴にされたら誰だって驚きますわ!どうして私はダメで、あの緑の人形はいいんですの?」

「…え?」

「私が、あなたの横にいるのはダメなの?!」

イオニアは答えられないし変なことを言われるので戸惑っていると、少しだけ事情を知るウヌクが答えた。

「この緑の花子さんは、昔から知っている機体だから。ダチの範囲だ!」

ウヌクも正直よく分からないが、おそらく大房観光の花子さん系列であろう。だとしたらSR社関係。まだマシだ。


コクコク頷く花子さんにジョーイは突っ掛かる。

「……あなたシリアルがないじゃないですか!おかしいですわ!!」

超クラシックの上に、用あらばジャンク屋で部品にされそうだったので緑の花子さんにはシリアルナンバーがない。実際にはシリアルはあるが、現在社会のシリアルとは連動していないのでSR社で掘り起こしが必要になる。


しかし緑野花子さん。

機体が子供のせいか元のプログラムのせいか、それにつられてか実に子供な反応をしてしまう。

「べー!」

と、ジョーイに舌を出したのだ。子供といっても身長150センはありそうでファイくらいだ。

「いっ?!」

シリウスらしくない花子さんにファクトは驚く。しかも、自分に良くしてくれるファクトの服の裾をさらに引き寄せて、見せつけて煽る。

「私にはファクトお兄ちゃんがいますもの!人間に愛されているんです!」


「シリウス?」

子供っぽい行動に、思わずその名を言ってしまうファクト。

「?!」

小声だが、近くにいたウヌクには聞こえた。


シリウスのプログラムを支えるには、この機体では足りなさすぎるのか。会話ほどなら問題がないが、高機能アンドロイドを前に機能拡張をしてバグってしまったのかとファクトが不安になった。



そしてやはりベージン社。

その煽りに反応していきなり、花子さんの盾になっているファクトに向かって攻撃を仕掛けた。

「いっ!」

咄嗟に動き、ファクトは花子さんを庇いながら攻撃をきれいに受け流す。

ベージン社のB級以上なら、人間に危害を与えないヒューマンセーブはあるとは思うが……。もしかしてギュグニーから直接来た密輸機の可能性もある。西アジア、ユラス合同軍の検問や監視と別に侵入した機体があったら……。


一応全員軽量プロテクターを付けてはいるが、強い打撃は危ない。あくまでいざという時用だ。それに服の下以外は生身だ。

そして、後ろにいた花子さんに攻撃を仕掛けようとするので、それに気が付いたムギがドン!と重量ハンドガンをジョーイに撃ち込んだ。

「?!」

「いいいっ!!」

驚く全員。一瞬ジョーイの足元が揺らぎ、間髪入れずにムギはハーネスを放った。ジョーイの体にワイヤーが巻き付くが、ジョーイも咄嗟に腕を開き縛られないようにする。ファクトはその隙に花子さんをリゲルに託した。



「ムギ!ちょと待て!!」

こんな至近距離にいるのにハーネスとか、こっちが巻かれる!と、ファクトが怒る。

「だからガンで離しただろ。」

少し足元がふらついただけで、全然離れていない。少女の動きの良さに唖然とするイユーニたち。様々な角度に人がいるのに、尾のあるハーネスを正確にヒットさせている。


「ノロい!撃て!」

誰も反応できないので、ムギはもう一発ハンドガンを撃ち込んだ。

「マジか。」

動きの速いニューロスを狙うと味方に当たりそうで、アーツメンバーは銃を撃てない。

「お前ら逃げろ!」

ムギがみんなに叫ぶ。

「人のいない方に逃げろ!」

他人を巻き込めない。


ジョーイは緩んだハーネスを動けるまで外すと、今度はムギに攻撃を仕掛ける。ジョーイは武器は持っていないようだ。

入れてくる蹴りをムギはきれいにかわし相手を引き付ける。でも一発でも受けたらおしまいだ。

「ムギ!」

「大丈夫だ!行け!!」

イオニアたちがムギを置いて行けないとその場から動けずにいるが、怪我で役に立たないウヌクが叫んだ。

「イオニア!俺の二の舞になる気か!行くぞ!!」

「でも…!」


ファクトが叫ぶ。

「イオニア!イユーニ!俺が残る!行ってくれ…!!!」

リゲルが花子さんを無理やり車に詰め込んだ。イユーニもショートショックを構えたままイオニアを引っ張った。


それにしてもと、ニューロスに対抗するムギを見つめてしまう一同。本当に動きがキレイだ。

ウヌクもチビッ子が実戦では想像以上に動きが良く、何かごついのを下げてはいるが、まさかウエストにあったのはショートショックだけでなくハンドガンにあったことに驚きボーと見てしまう。



あの、河漢の裏道で初めて見た戦闘より洗練されている。


あの時もすごかったが。



「何なんだ…あの子は。」

イユーニたちが放心している。チコたちが買っている人物とはこういうものか……とイオニアは納得した。



●最初に見たムギの戦闘

『ZEROミッシングリンク』89 屈辱と洗礼のウヌク

https://ncode.syosetu.com/n8525hg/91



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