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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十五章 ユラスの瞳

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26 河漢VSユラス



彼女は強い、弱いとか強いとかいうレベルではなかった。


周りの男性に比べれば、細く見える女性。



シュンッ!とキックの後フックが一発入って、既にチャンプはぶっ倒れていた。

ミコラルという女性は最初にその場から踏み出し、それから一歩しか動いていなかった。その一歩はキックで側頭部に入っている。


全体がシンとし、河漢の審判役が、


「ウィナー、ユラス!!」


と言うと、会場が

うわあああああああーーーーーーーー!!!!!

と沸いた。


相手の油断あってこそだろうが、それでもたった二発で撃沈。おそらく、最初の一撃がキレイに入ったからだろう。レスキューが駆け寄りメットを外してチャンプの状態を見ている。

うおおおおおおーーーーーーーー!!!!!!!

と沈まらない会場。



そしてガイシャスが言う。

「次、シルバス!」

名前まで全体には聞こえないが、また女性が出てくるのでさらに会場が湧く。今度の女性は少し体格がいい。


異様な雰囲気にサルガスやタウたちも放心だ。

「いいのか?これ、放置して。」

「ハハ……」

河漢のイユーニも笑うしかない。あまりこういう環境に来ないゼオナスは完全に引いている。


「誰が出る?」

「俺が行く。」

そこで河漢側から出てきたのは、その友人らしい男。こちらは、先の男よりはさらに体が大きい。今度は最初から油断しないでかかるだろう。

「女性だから顔面は遠慮してやってくれ。こっちもやめとくから。」

そうガイシャスが言って、相手がOKすると始まる。



が、こちらも予想外に早く決着がつく。

勝者ユラスである。


うわああああああーーーーーーーー!!!!!!!


会場は大盛り上がり。

まず、スピードが違った。そして、想像上以上にシルバスのキックが重い。何度か蹴りを入れて、場外な席にぶっ飛ばした。


「ユラス軍こえーな。」

河漢の既存メンバーもビビっている。女性にもこれだけパワー系がいるとは。しかもここは本陣でない他国への派遣員だ。それでも、ガチのアウトローとガチの軍人ではガチのユラス軍の方が強かった。

しかし、誰も知らない顔だ。

「でも、ユラス軍……見たことない面子だけど…。」

「新規の第2陣だ。」

サルガスは一応河漢入植の事情を聞いている。ガイシャスたちの次の陣だ。


「じゃあ最後。これで勝てたらお前たちの要求を飲もう。何かあるか?」

「………」

楽しそうに考えて1人の男が言った。

「じゃあ、もし勝ったら今後の教官は全員女で。」



ワーーーーーーー!!!!!

男が言うと、会場中が大喝采に包まれ、それをその男自ら楽しそうに静めた。

これだけきれいに負けても、まだそんなことを言うのかとアーツさえ呆れる。



「分かった。では、お前らから挑戦者を出せ。」

「………。」

既にもう説明会ではない。時間は測っていないが、完全に三分戦状態である。

「え?そんな安請けいしてもいいんですか?万が一向こうが勝ったら……」

こんな成り行きで始まったことに、そんな約束。タウが信じられない顔で見ている。

「カウスさんかチコさん行ったら?」

「それこそ禁じ手だろ。」

アセンブルスがサラッというので、ユラス。悪乗りしているのか……とアーツは心配になって来る。

「まあ、負けたら私が教官に入ればいい。」

チコが真顔で言った。



「俺が出る。」

河漢側からはこれまでで一番筋肉の締まった男が出てきた。180越えるか越えないか程の背で、無駄に太くなくバランスがいい。


「お、きれいな体してんな。肉付きもいい。」

チコが言うので、みんな反応してしまう。チコでもそんな風に思うのか。

「最初のと違う賭け場のチャンプです。」

アセンブルスが説明する。

「ほー。」

ちなみに一定の規則を守れば、アンタレスでは賭け試合は許されている。


「………。」

こっちは誰を出すか考えていると、また最初の女性が手を上げた。

「少佐、私が行きます。」

ミコラルである。


そのままフロアに出てしまうミコラル。

「おいっ。大丈夫なのか?」

イオニアが止めようとするが、ミコラルはガイシャスに許可を求めた。

「…いいだろう。行け。」


うおおおおおーーーーーーー!!!!!!

姉ちゃーーん!!いけーー!!!!!!

と、また歓声が上がる。

「動物園かよ。」

タウが呆れるが、ローやシグマは楽しくなって、一緒に歓声を送っていた。



「あの女、軽そうなのにキックがえぐいぞ。」

「大丈夫だ。こっちもスピードはある。」

「最初から油断すんなよ。」

河漢側が何か話している。試合慣れしているのか、セコンドや選手など河漢はすぐにチームを作っていた。


全体を眺めるチコ。ついでにイオニアも眺めておく。

「………何すか?」

「お前………」

「……?」

チコは少し考えて、思っていたこととは別の言葉を切り出した。

「試合出るか?」

「は?格闘技専門の男どもに対峙できるわけないっしょ。嫌っス。」

「今なら、十分行けると思いますけど。」

隣りからアセンブルスが言う。

「……マジっすか?」

「Aチームなら行けるだろ。怪我はするかもしれないが。」

「……嫌です……」




そして試合が始まる。ミコラルはやはり無表情のままスタートした。

だが、今度は構える。


「レディー……GO!!」


少しお互いに見合い、ミコラルの型を定めたチャンプが一気に来た。

が、ミコラルは相手のパンチを右で受け、左でその打ってきた腕に一発入れる。ミコラルの両腕に挟まれるようにチャンプの腕がきしむ。


そして、見えないほどの動きだった。チャンプが次を仕掛けるよりずっと早く、ミコラルが右で横蹴りを入れる。そしてもう一発蹴りを入れる。その後はパンチの連続。


これはヤバいとレフリー役が止めようとした時だった。

チャンプ膝からが崩れ、地に足を着いた。これ以上は危険だ。右に少し揺れる。



「ウィナー…ユラスーーーーーー!!!!!」


わあああああーーーーーーー!!!!!!



二人とも拳は簡易ブローグ。メットに胴部はプロテクター。足は素足に膝から甲までの簡易サポーターだけだ。

「え?これって普通の話ですよね?」

ローがちょっと信じられない顔をしている。

「いきなり魔法とか出てくるファンタジーじゃないっすよね?」

「本当に強化義体じゃないんですか?」

「足に、反則モン入れてね?」


「私の従妹です。かわいいでしょ?」

横から嬉しそうに言うのはカウスである。

「はっ?」

「上の伯父さんちの末っ子です!」

「………。」

黙る皆さん。

カウスの上の伯父さんはオミクロン族長家系である。古代から将軍の将軍の………ずっと………かは分からないが、とにかく武将だったらしい家系だ。数千年滅びることもなく体を鍛えてきた、中央大陸の豪族であった。

「…こう……、最初に躊躇なく殺れ!とアドバイスしています。男のマジ蹴りが入ったら、一発でダウンする可能性があるから、先に殺れと!」

ニコッと楽しそうなカウスを横切るウワサの従妹。



「ミコラル~!勝利祝い、何がほしい?!」

「………」

楽しそうに前に出て言うが、無視されるカウスであった。ミコラルはその後ろのチコとサダルに膝を付いて礼をした。

「議長、お久しぶりです。チコ様、はじめてお目に掛かります。ジル・オミクロンの娘、ミコラル・オミクロンです。」

「初めまして!わあ!かわいい子がまた増えた!」

チコが喜ぶので、みんな引いた目で見ている。確かに顔はスッキリしてきれいだが、総合して全くかわいくない。一発であの世を垣間見れそうだ。


「いい。ミコラル。ここは河漢アーツに仕切らせている。挨拶はまたでいい。」

「はっ。」


その様子を見ていた河漢民たちは、ミコラルが立ち上がると、

「姉ちゃんすげーーーー!!!!」

「うおーーーー!!!!!!」

と、また盛大な拍手に歓声を送った。そして、ミコラルは会場に礼をして下がる。

「ミコラル~。お兄さんを無視しないで~。」

全然相手にしてもらえない、かわいそうなカウスである。



しかしここで奇想天外な話になってしまった。


「あれって、ユラス議長じゃね。」

誰かがつぶやくと、周りが騒めき出した。チコの後ろで眼鏡を掛けたサダルに注目が集まったのだ。

「ここに来る前に動画で調べてたんだけど、長髪であんな感じだと思ったけど…。」

リギルの過去動画を見てきたのだ。彼らの下調べ、調査はその程度である。なお、ここにリギルはいない。

「………。」

サダルも自分が注目を集めていることに気が付いたらしいが、何も言わずに無視をしてまた資料を見ている。

しかし、河漢民の誰かが言ってしまった。



「ユラスぎちょー!!一試合お願いしまーーーす!!!!」


「?!」

「!!」

驚き過ぎる皆さん。


最も呼んではいけない人の名前である。




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