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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十五章 ユラスの瞳

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25 え?いいの?




ズドーーーーン!!!!


と、ものすごい爆音が響いた後の静寂。



そしてその間の後…なぜか

ワーーーーーーー!!!!!と拍手喝さいが起きる。


それを制してガイシャスが話し出した。

「今回ここに集まった諸君を歓迎と共に迎える。」

取り敢えず再度拍手が起こる。


「私はベガス駐在ユラス中央第三陸軍少佐ガイシャス・シンファースだ。」

会場からどよめきが起こった。ユラス陸軍は世界最強軍の1つだ。一部の人間が『中央第三陸軍』を検索している。対外的な話ではあるが、第六陸軍まではナオス国家ダーオのとくに先鋭と言われている。ただし、一般で公表されていない部隊も多々ある。


「今回、河漢の指導に入ることになった教官の一人だ。よろしく。」

既婚者で、既に子育ての一番大変な時期も過ぎてしまい、安定勤務できるガイシャスが河漢に入る。



また盛大な拍手や歓声が起こるが変な囃子はない。ノリはいいらしい。


「で、最初にするのはつまらない話だ。

これから話すことがいやなら、今、ここから出て行ってもいい。」

会場がやっと静まる。


「まずここにいる全員に言う。

人を殺す、死なせることに価値を感じるような人間になるな。」



何の話だ?とみんな瞬きする。

「お前たち、ケンカや暴力が好きな奴も多いだろ。かなりやり込んで来たものいるな………。」

ガイシャスは霊視をする。えぐい拳が横切り、誰かの歯が飛ぶ風景、顎が折れる音もする。直接の逮捕者はいないが、間接的に人が死んだケンカをしている者もいる。ケンカの後遺症で急死などだ。河漢は死んだ人間の死因を追求するような余裕はない地域だ。場合によっては知識もない。


「でもな、良心さえ捨てればそんなことは誰にでもできる。

それ以上に難しいことは分かるか?」

「……。」


「人を生かすことだ。」


まだ会場はしーんとしているが、一部鼻で笑う声も聞こえた。


「正義漢や冗談で言っているわけではない。物理的にも心理的にも人を、自分を殺すことなんで非常に簡単だ。とくに良心の薄くなった地域でずっと暮らしていればな、多くの人間がそうなる。


でも、自身の良心を守ることや、身を生かせることはその何百倍も難しい。


失ったら戻らないものもある。たくさんの技術もいるし、何年も何十年も這いつくばるような苦しみや努力がいることもある。」


ガイシャスは少しだけ下を向く。


「とくに壊してしまったものを再生するには、傷付けてしまうよりはるかにたくさんの技術も、精神も……心もいる。その技術を構築した者たちの方が、力で仕切れる者より遥かに才がある。」


そしてそっと頭を上げる。

「お前たちには人を生かす側の人間になってほしい。堕ちるより難しいことだ。」


「………」

「歴史の中で東西リューシアが、最初の自由民主主義強大国になれた理由が分かるか?そして、いち政権がまともかおかしいか、良い悪いを見分けるのは何か分かるか?

まあ、どこにでも歴史の中では虐待や虐殺があったが、彼らは敵側の人間でも優秀な者を打たなかった。とくに相手が軍人でなく攻撃性のない人間ならば、科学者、文化人、教育者の捕虜や亡命者を受け入れた。


そして捕虜の扱いだ。一般の軍人や民間人なら、捕虜の施設に入れて扱いが悪くともまず一定の人道が守られた。そうでない政権はどうすると思う?」

「………。」


「とにかく殺すんだ。しかも、優秀な人間、その地域の勇士やトップの人間を最初に。


霊性が未開な人間は、とにかく人を殺す。

間接的にも社会的にも。命の価値が可視で見えないからな。



独裁側が指導者を懐柔させ民間を引導する場合もあるが、その裏でその何十倍ものリーダー的人間が殺されている。

世界や民間に周知され扱いにくい人間は、幽閉で病死させる。民間人も捕虜なんかにしない。最初に焼き討ちや銃殺にするんだ。残すと面倒なことになるし、基本天啓宗教抹殺だから、聖典信仰の教会を中心にあらゆる場所に閉じ込めて銃殺する、燃やして殺す。

人道を証明するために、人数が多すぎる場合は働かせて過労死させることもある。」


会場は聞き入る。


「……今、アンタレスでそんなことが起こることはないし、自分たちはそんなに野蛮ではないと思っているだろうが、霊性が分からなくなってしまった旧時代からの人間は、小さな恐怖や脅威、ストレスであっという間に攻撃側に変わってしまう。無気力になることもあるし、霊性をはき違えて、自分の見解を浮流する者も多くなる。


恐怖は悪いことではない。誰もその場の恐怖には打ち勝てないことはある。でもどう乗り越えていくか、現状をどう捉えていくか……というのは人の未来を左右する。自身だけでなく、たくさんの未来を。


ただ、言えるのは……人を殺すことより、この世で生かすことができる人間の方がよっぽど優秀だということだ。」


会場はまだ反応がない。


「今はまだ分からないだろうが、それは永遠の力になり、そして天に積む永遠の宝になる。

本当に価値あることが何か、生きているうちに悟ることができるようになってほしい。」


「………。」

周りはザワザワし始める。考え込んでいる者もいれば最後に牧師面してきたと笑う者もいた。実際ユラス人は、皆幼少期からユラス教の学校に通って勉強してきているので、みな牧師神官のようなものでもある。



それから大枠の説明や注意事項。自分たちの割り振りに質疑応答になる。

この頃には南海で説明をしていたスタッフたち、ゼオナスやサルガス、シャウラやナシュパーなどもこちらに来ていた。


サラサは来たがっていたが、河漢のあの辺りは産後の女性が行くところではないと言われ、母乳で胸が張って熱が出てきてしまったのもあり結局帰って行った。母乳が出ても全然足りなくて粉ミルクと混合。粉ミルクでもいいなら半日ぐらい耐えてくれ!と張った胸に訴えるサラサであった。



河漢アーツの新規メンバーは机のあるところで、それ以外はパイプ椅子に自由に座っていた。

そこに突然後ろの空きに、椅子を置いて座った者がいた。

「いっ?!」

誰かが横に来て、ジャマかと思って少し椅子をずらした既存の河漢メンバーが驚く。

チコであった。

「あ、どうもっ。」

その周辺が騒めくが、チコはシーと静かにさせる。


そしてその後ろには黒髪の男、サダルメリクも入り、チコの少し後ろに座った。サダルは河漢メンバーにはあまり顔は知られていない。ニュースなどよく見なければ分からないであろう。



「ところでせんせー!あ、教官でしたっけ?

でも格闘術も教えてくれるんですよね~!」

新規の誰かがガイシャスに振る。

「そんな甘ったるいことを言っていて、教育できるんですか~?矛盾もしてません?」

マジ、マジ!と、その周辺が騒いで笑いが起こる。


「河漢は危険だって知っているだろ。丸腰で仕事をする気か?身を守り、少しだけでも他人を守れる力は付けた方がいい。」

「え?先生が教えてくれるんですか~?俺らの方が強いですよ?リング立ってましたから。」

ドッと会場が湧く。


「………。」

ガイシャスはその男の情報を参照し、地下やストリート格闘技のチャンプを取っている者だと知る。

「おい、ヤバいって、ユラスだろ?子供の時から格闘技してるらしいぜ。」

「つーか先生!胸が邪魔で動けるんですかー?」

「きょうかーん!教官が指導して下さるんですかー?寝技や絡み技もOKでしょうかー?」

「殴ったらヤバいっしょ。そういう趣味ある?」

先の雰囲気が壊れて、笑いが起きる。


「勝負しましょー!」

「俺らより弱かったら話にならないじゃないですか?」

何人かが手慣らししている。


見に来たミューティアが嫌悪を隠さない。南海アーツのメンバーも呆れている。



そこでガイシャスが、「はあ…」と、めんどくさそうにため息をついた。

「指導されたいのか?」


「おおおーーーーーー!!!!!!!」

と会場が盛り上がる。

「でも、私が出るのは卑怯だろ。」

服で分からないがガイシャスは一部強化義体だ。

「もしかして勝つ気っすか?」

ヒュ~!と会場が湧く。この事態にアーツたちが戸惑っている。


イオニアがチコの後ろに来た。

「止めますか?」

「いい。任せろ。」



「ミコラル。出ろ。」

そこで、ガイシャスが手で指示を出すと、一人の女性が現れた。ガイシャスより線の細い女性兵。無表情で首も細い。マスクをしているので顔は半分も見えない。

また、おおおーーーー!!!と会場が湧いている。


「彼女、ニューロス化してる女性ですか?」

イオニアがチコに聞くが、チコが「いや」と言いそのままにさせる。イオニアが会場を沈めようとすると、チコがまた制した。

「でも…。あいつ河漢でも結構ヤバいです。」

「女にぶたれたら、あの高い鼻の一つや二つ折れるだろ。」

「いくら軍人でも女性では明らかにパワーに差があります…」

一般女性よりはたくましいが、それでも首も腕も細い。


「こっちも見たい。どうなるか。」

「え?チコさん。勝てる確信があるわけじゃないの?」

イオニアはチコに何言ってるんだ?という顔をする。

「名前とかは知っているが、初めて見る。現ユラスのことは知らん。」

「え?!」


ヤバいんちゃう?と、隣にいた河漢メンバーも驚く。

「ちょっ…!」

と、後ろにいるサダルを見ると、周りは知らない兵だし、サダルは資料を読んで顔も上げない。


そうしている間に、会議場の中心に簡単な空間ができ、チャンプの男が前に出るとともに、軍人にしては細身のその女性も前に出て、肩慣らしをしていた。



「いいのか………?」

みんな固唾を呑んで見守るしかなかった。




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