23 失った顔と顔が合わさる
そんな訳でなぜかワズンに迎えに来てもらう。
相変わらずドでかいSUV車だ。ただ、運転がめちゃくちゃうまくブレーキ感が全然ない。
「なんで広い国の人ってでっかい車に乗るんですか?事故でつぶれるって時代でもないのに。」
「利便性がいいんだよ。」
「独り身なのに?」
「………。」
ワズンは苦い顔でファクトを見る。
「誰を乗せるんですか?」
「………分かって敢えて言ってるのか?」
「いえ。真面目に聞いています。これ、9人乗りにもなりますよね?誰を載せるのかなと。」
「時々ガタイのいい奴らも乗るからな。」
「え?」
ファクトは憐れな顔を向ける。まだ乗せる女性もいないのか。
「………だから何が言いたい。」
「チコもバカだなって……。俺なら絶対ワズンさんを選ぶのに。」
「ん゛っ?!」
一瞬固まる。
「………まだそれを言うのか。」
「この運転に乗れるならワズンさんがいいのに!」
「…?…お前、絶対女に嫌われるタイプだろ…。」
「え?なんで??」
そう言いながら、ワズンはやはりブレーキ感なくサーと完全マニュアルで車を走らせる。
「程よく買い物に付き合うか自由にさせてくれ、趣味もさせてくれ、家事もする男が好きだぞ。女は。車など乗りやすくて安全運転ならなんだっていいだろ。」
「えっ?そうなんですか?運転とかもだけど、パンチングボールすごい人とか、あと蹴り技すごい人とかめっちゃカッコいい………。思い浮かべるだけで………胸が抉られる…。」
「で、それが何なんだ……。」
「え?惚れません?ワズンさん余裕で全持ちでしょ?」
「そんなん普通の女が惚れるわけないだろ。」
「マジっすか?!」
ワズンは呆れているが、ファクトには理解できない。……かっこよすぎるのに。
「ニッカ………あ、ベガスに来た女の子なんだけど、ニッカが剣構えた時は最高にカッコいかったし、ハウメアとかミューティアの試合も燃えまくったんだけど、女子はそういうのキュンとこないの?」
「こないんじゃないか?大半は。」
ぜひキュンと来てほしいのに違うらしい。
「………そうなのか…。初めて知った…。」
「何を基準にそう思うんだ。」
「ラムダが、『女性は背の高い騎士がめっちゃ好きだ、騎士団長とかも。王子も大半は騎士をしているらしい。そんで、だいたい騎士と結婚する』って言ってたのに…。女子が何を喜ぶのか全く分からなくなった………。」
それはラムダが読む女性向けファンタジー小説の話である。
「でも、チコもワズンさんの方が気が合いそうなのに。」
「だからやめろと言っているだろっ。」
と、ワズンに叱られながら到着しマンションに入る。
***
懐かしい感じだ。
ラフなのに、上品な感じの部屋。いつもキレイに整理されている。
「お邪魔します。」
礼をして中に入る。
「ベッド使え。シーツ洗ってからずっと使ってないから。」
「床やソファーでいいでので、バスタオルか布団一枚貸してください。」
ワズンの家は土足ではない。
「いい。ここんところ家にいる時間が少なかったから、帰る時はずっとソファーで寝てた。こっち来い、施錠の登録するぞ。」
主人で解除してからファクトも登録をする。
「………。」
それから久々のワズンの家を見渡す。壁に貼ってある写真はそのままだった。
「早く彼女か奥さんの写真が増えたらいいですね。」
「………お前、本当にムカつく男だな…。
あ、冷蔵庫も勝手に使っていいし、飲み物も食材もあるもの好きに使っていいからな。」
スーと前と同じように壁を見ると、両親に挟まれたお姉さんの写真。
それから、ワズンとシュルタン三兄弟との写真。
その知らない顔の一人をじっと見る。
ムギの中で、頭を打ちぬかれ顔が一部飛んでいた人。
写真では笑って目が細くなり、あの緑の瞳は見えない。
「ワズンさん。」
「なんだ。」
「この………カウスさんの弟さんの写真、他にありませんか?」
「タビト………か?」
「タビトさんって言うんだ……」
ワズンがいつも使っている物でないデバイスを持って来て、ソファーに座ったので後ろから見る。
『タビトの写真』と言うと、数枚出てきた。
「タビトのはあまりないな。」
けれど両目を開いた写真がある。やはりきれいな緑の目。
長男よりは少し薄い…………でも澄んだ色の瞳。
「…………。」
自分の中であの人の顔が完成したようで………安心する。
ムギの心理層に置き忘れたような、そんな思い出す中にある胸の鼓動が………
この次元、この空間と相まって、やっと落ち着いてきた。
別の一枚を見ると、タビトの横にダークブラウンヘアの女性が笑っていた。
「………」
髪の色で一瞬ガイシャスかと思うが、豊かな髪を後ろに結び、雰囲気が素朴な感じで少し違う。ワズンもその写真を見て少し驚く。
「まだこの写真、あったんだな………」
「もしかしてタビトさんの彼女?」
ワズンがまた、前にここに来た時にもした表情で、仕方ないように笑った。
「婚約者だよ。」
「!」
ワズンは、彼女がまだ婚約を解消していないのを知っている。お見合いで大して話もしなかったのに、カストルが引き合わせそのまま結婚の約束をした。
彼の死後、まだ正式に式もしていないので、「申し訳ないが次に……」とカストルも言ったが、正道教は永遠を約束する。嫌だと今もそのままだ。
「………はあ。」
「……。」
そこまで細かい事情は悟っていないが、過去を考えファクトも何とも言えない思いになった。
ムギはこういうものも背負っていたのかと感服してしまう。自分だったらきっと背負えない。
「で、なんでタビトの写真が見たいんだ?」
「頭が半分なかったから………生きている時どんな顔だったか知りたかったんです。」
少々驚くワズン。誰かに聞いたというより、やはり見て来たような言い方だ。
「あっ、そう言えばファクトは何しに来たんだ?突然。」
「そうだ!カストル総師長に会いに来たんです!」
「総師長…?」
「朝一で教会に行こうかな。」
「…………」
ワズンが変な顔をしている。
「お前、何度も言っている気がするが、先に連絡して予定を聞け。」
「連絡?」
「いるかいないか。総師長がどこにいるか。」
「………。」
「昨夜の仕事が済んでから、直ぐにベガスに向かったぞ。」
「え?マジっすか!!」
どこまでも間抜けであった。




