22 求婚
その夜、ファクトはベッドで悶々とする。
「どうしたの?寝ないの?」
「……眠れん。」
宿題を終えたラムダが隣のベッドに寝転ぶ。ラムダは他のメンバーと夕方まで南海で子供たちの総攻撃を受けていたので、疲れてフラフラだ。
「大房行ってたんだって?」
「………リゲルの従兄んとこ。」
「前に言ってたジャンク屋?ムギちゃんも一緒だった?チコさんが大房に連れて行くなって怒ってたよ。」
実はファクトやムギ、リゲルのデバイスにも着信がたくさん入っていた。
ムギはパッと見た感じは普通の子なのに、どことなく存在が掴みにくい。
……誰もが思う美人ではないが………かわいく見えるとはこういうことか、と思う。
子供はみんなかわいい、女子はかわいい、響が言うところの「学生はみんなかわいい」。今まではそうだったけれど、今はちょっと違う。
「……子供だったのに………」
今でも子供であるが、無鉄砲ではあるが、精神性は非常に高かった。初めのムギを知らなければ立派なハイティーンに見えたであろう。
「…子供……。」
はっ?と、何か思い出すファクト。
「子供!」
ガバっと半身を起こす。
「何?寝なよ。明日授業で寝ちゃうよ。また先生に叱られるよ。」
「ヤバい!ラムダ。俺ちょっと出掛けて来るわっ。」
「もう11時だよ?」
「まだ11時だろ!明日、実習とかないよな?」
「……ないよ。」
「じゃ!」
それだけ言うと、下の短パンを長ズボンに履き替え、パーカとカバンとデバイスだけ持って外に行ってしまった。
「……早く戻りなよ…。」
と言って、ラムダは眠ってしまった。
***
もう1人悶々としている人間が一人。
ムギであった。
しかし、ムギは悶々とし、同時に「はい?」という感じにもなっていた。
横にいるカストルの妻デネブ、エリス夫妻。アリオト。
カウスはガーナイト側の周辺警備に入り、チコは追い出されている。
「きゅうこん?」
「そうだ。」
「どのキュウコンですか?」
「根っこの話だと思うか?…結婚の求婚だ。」
「へ?『朱』に?」
「そうだ。とりあえず会ってみたいらしい。」
「それは……。彼女は謎の人で、永遠に謎です………で終わりにできないの?」
ムギはハテナだらけだ。
「一旦『朱』に来た話だからな。世の中的には存在するし、偽名なだけで実際存在する。ここに。」
本人は「えー、それはご無体な。」という顔だ。いるけどいないのに。
「誰からですか?」
「それは総師長ともう少し詳しく相談してから報告する。」
「………。」
んん?と考えるムギ。この期間の話なら、メンカルの人間だろうか。留学生?アジアラインの人間?
「ほら。なんだかんだ『朱』って、私一人というより、今やチーム『朱』って感じじゃないですか。もう、本当はチームで、本人は謎のホログラムってことで終わらせましょう!」
「…………。」
一理あるが主体はムギだ。アリオトが苦笑いしている。
「様々なことを抜いて、結婚に関してはどう?」
デネブが聞く。
「どうも何も、学生だし……。一生現役で働くので考えていません!」
きっぱり理想を述べるムギに、
え?それはそれで困ると思う一同。
「ダメです。結婚はしてもらいます。」
と、デネブはすぐに一刀両断する。
「え?!なんで?」
「ムギは既にアジアライン復帰の一員です。
引導、指導側に立てば必ず夫や妻がいるという後ろ盾が必要です。たとえ死別しても、その存在は非常に意味があります。家族がいなけば、いつかどこかで虚無や寂しさに襲われてそこを狙われますから。
今は若いからエネルギーもあり分からないでしょうが、高齢になってくるとそういうところに付け込んでくる者たちがたくさん出てきます。」
「………」
「家庭を持っているゆえの弱みもあるでしょうが、ムギには必ず結婚してもらいます。」
厳しい顔でデネブが言い切る。
「………。」
すごく落ち込み顔になる。
でも、ムギも言わんとすることは理解できる。
男性は性や女性に落ち、女性はさみしさややるせなさを埋めてくれるものに傾向する。
男、占い、知人、趣味………たくさんの横やりが最初は支えとして入る。最終的にそれで、自身や国を傾けた者は多い。
まだ、アジアラインは4分の1が独裁国家だ。今、錨を降ろすわけにはいかない。
「……それにね、一人だと無理をするでしょ。支えてくれる人が必要だわ。結婚イコール幸せとは限らない世の中だけど、ムギには幸せになってほしいの。」
少し泣きそうな顔でデネブが見るので、反論しようと思ったがムギは黙ってしまった。
「総師長ともう少し詰めてから、取り敢えず相手には断りがあったということだけは伝えておく。けれど、天からの招集があった時にいつでも答える準備はしておくんだ。
『朱』も、『ムギ』としても、天命に生きると決めたなら、聖典が未来を継ぐ一手になるんだ。
ムギ自身が。」
エリスがそう話し、解散して送ってもらい寮に戻った。
ムギはなんとも言えない思いになる。
結婚………と聞いて、誰?どこの国の人?と思いながらも…なぜかファクトが思い浮かぶ。
「??!」
びっくりして一人で火照る顔を抑える。違う、違う………と念じながら部屋に戻っていった。
***
その頃この能天気な男は、ユラス中心国家ダーオ首都の鉄道駅に到着していた。乾いた空気が懐かしい。
そう、大陸を越えてしまっていた。
アジア時間朝5時半。
ユラスはまだ深夜だ。
んー。漫画喫茶みたいなのないだろうな、空港にいればよかったな……ホテル行くか。
と歩きながら、朝起きた時に呼んでもらえばいいとワズンにメールを入れておく。
『ユラスです。いつでもいいので連絡ください。』
と、同時に着信が入る。
「うお!はやっ!もしもし、ファクトです。」
『お前何なんだ!バカか!』
「もしかして夜勤でした?朝以降でよかったんですけど。」
『寝てたわ!駅だろ?待ってろ。』
ファクトの着信音だけハデでうるさくて何か違うのだろうか。特殊部隊とかいそうだったので音に敏感なのか。
「え?ホテルに入ろうかと…」
『ウチでいいだろ。ファクトを自由にすると後々面倒だ。どうせ面倒事を起こすのに。』
「起こさないですよ。用が済んだらすぐ帰ります!」
『とにかく待ってろ!』
「押忍!」




