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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十四章 天の締結

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20 花子さんの思い通りにはいかない

前回のお知らせ記事は暫くの間残しておきます。


キャラ原案画は進みませんでした!




「社内恋愛でもしたらどうでしょうか?」


SR社こそ玉の輿の宝庫ではないか。



ファクトまで敬語になって、緑の花子さんに勧めてみる。

「SR社はハイスペックで埋め尽くされていますが。倉鍵の研究所にはちょこちょこイケメンがいますし……。護衛ロボもかっこいいじゃないですか。」

男の思うイケてるメンズを女性が好きかは知らないが、ファクトは女性型アンドロイドより、メカメカなメカか男性タイプの方が好きである。あのアーミーな風貌。蹴っても倒れなさそうな機体。惚れる。


「人間がいいの。いろいろ考えるからおもしろいもの。自分より話ができて意外性がある人がいいの。でないと、子守になっちゃうわ。」

ロボと言われて不機嫌になる。けれど、リゲルは、ファクトを見る方がよっぽど子守りではないかと思う。


「人類はバカですので、アンドロイドの方が賢い説が既に100年以上前からあります。人間はバカですよ?」

「人間は魂や霊があるから、心もあって創造性もあるでしょ?そこに意外性があるからたのしいの!既にあるものの中での、収集や再構成とは違うもの。科学も数学もどんなに永遠で果てしなくきれいでも、決まった既存のものでしかないでしょ?数字の羅列!

どんなに情報が膨大でも、現われてくるものが平坦な情報と人間は違うから。……立体性と確実性、柔軟性が違う。

………まあ、ファクトだって数字の羅列でもあるけどね。」


花子さんはカメラをフォーカスするように指でファクトを囲って勝手に話している。

「今のファクトを、化学式で残しておきたいわ。いくつ原子が繋がってるのかしら!でもすっごくあれこれ数字が変わるの!永遠の方程式!」



「霊って………自分にはないのに?」

「…………」

緑の花子さんは、ムギの横やりに嫌な顔をする。

「持っていないから持っている人に憧れるんです。」

花子さんはニコッとファクトを見るが、ファクトに返される。

「シャプレー社長にしたら?いつも一緒なんだよね?多分アジア………世界でも5本指に入る金持ちハイスペックだよ。バランスよく構ってくれるんじゃない?」


「~っ」

ぶーと怒る。

「彼は子供だもの!嫌だわ!」

「子供?」

どう見ても(いか)つく、雰囲気も下手をしたらサダルより大人だ。どこをどう取ったらそうなるのかと、ファクトは考える。やはり花子さんはバグっているらしい。さらに言えば、緑の花子さんと並んだら親子である。もちろん花子さんが子供だ。


「ファクトがいい!!人間だし。程よくおバカで、優しいもの!顔も好きなの。」

「顔?」

また顔。なぜ?自分の開発者のミザルに似ているからか。それとも開発者の一人である、ミザル大好きポラリスの傾向が影響しているのか。

「ファクトは私を詮索しないし………意地悪しないし………してもかわいい………」

詮索しないのは関わりたくないからである。もしくは無関心。


しかも本当に、男にかわいいと言うのはやめてほしい。なぜ大人女子は、成人した男にもかわいいと言うのだ。男性陣は受け入れがたい。

「………リゲルにしたら?俺よりずっと怒らないよ?」

ファクトはリゲルに睨まれる。



「おい。緑髪。」

遂に怒り出すムギ。


「お前はプログラムで一定の思考性を保てても、人間は気が変わる生き物だからな。これ以上余計なちょっかいをし続けるならぶち壊す。」

「………」

男を煽るなということだろうか。ムギがそんなことを言うと、みんな何と答えていいか分からない。


「私も日々学び変わるわ。そして新しい岐路を開く。あなた方よりはるかに高速で――」


「その結果が、こんなところで油売りか?」

「……」

そんなに頭はよくないはずだが、ファクトの中の最近のムギで、今が一番かっこよく見える。相手はバグっている緑の花子さんなのだが、世界のシリウスに対峙するとは。


「余裕があるからここに来るんです。」

「本体は何をしているんだ。」

「休息というメンテ中よ。24時間機体を稼働させるの?システムも24時間動いているのに。SR社はそんなひどい企業じゃないもの。」

「……原始型の方がセキュリティーや監視に穴が開くから、この緑髪に入って入るのか?お前、分離やコピーではなく?」

「コピーってそんなに簡単にできませんよ。物理的(うつわ)や周辺環境もいるし、私の容量になるとパンクしてしまいますので、ここにも私の一部しかありません。」


そして、どんなにコピーを作っても、分離したらそれぞれの個体だ。全てのPCが同じ型でも使う人、使う目的一つで全てが違う物になっていくように。一度主体を離れれば、主体を基に再合成しない限り別個体だ。似ているようで外形も変わってくる。


緑の花子さんはシリウスの主体なのか。




「でも、今のお前がしているのは、ベージンと同じことだ。」

ムギはショートショックをシリウスの額に向ける。


この花子さんの体なら、多少は効くであろう。


「お前がそうでなくても、相手がその気になるようなことをするなら同じだ。前の持ち主に何をされていたのか知らないけれど、手癖の悪いメカだな。」

「?!」

「っ…!」

さらに言い放つムギに、言っている意味が分かった男子どもが戦慄する。せっかく未成年に気を使ってあげているのに、純粋そうなムギからそんな言葉が出るとは。やめてほしい。いたたまれない。


「本当にあなたは本物の本物の意地悪ね!私はそんなことしないし、そんな機体には入らないわ!!ねえ、ファクト!」

「っい!」

怒った花子さんはファクトの腕に飛びつこうとするが、ファクトは反射的に避ける。

「……。」

それにショックを受けている花子さん。



ファクトがいくらシリウスに絆されても、そういう目的で買ったロボットの昔の持ち主と、そういう兄弟になるのはごめんである。

「ファクト、この機体は個人所有の物でなくて………、今ではこの機種も初期OSのドット画みたいな作品だけど企業用だよ?この時代の企業用デジタルメカニックにはまずそんなものはないわ!」


性のおもちゃにされていたような機体は、単純機のアナログメカニックである。いわゆるアナログデジタルだ。何せデジタルは全部記録に残り、政府関係や企業サーバーに情報として収集されるのだ。昔の人だって、よっぽど解放主義の人間以外、頭のいい人やまともな人はそんなものに手を出さない。

「あ、そうなんだけどごめん……。」

ファクトの態度が一気に嫌悪に変わったので、緑の花子さんは相当傷付いたのか、ムギに敵意を丸出しになった。襲いはしないが、ものすごいふくれっ面をしている。



本当は『ドット画』というセリフに、クラシック好きファクトは胸熱に語りたくなるが、そんな童心を押さえる。ヤバい、選ぶセリフが所々ファクトの胸を突いてくる。なにせ、初期PCのディスクトップ画面Tシャツすら持っている男である。

だが、そんなどうでもいいことで絆されてはいけない。



「ほら見ろ。ファクトだって普通の男だ。本当に優しいのと邪険にしないのや怒らないのは違うからな。ただ優しいだけの男が何なんだ。」

「え?ムギさん、今ひどいこと言ってるよ。ファクトかわいそうだよ?」

ジャミナイが暗にファクトを落としているムギに言っておく。

でも、実際ただ優しいのと真の優しさは違うのである。


なので、ボロが出るファクト。所詮、この前まで進路も自分で決められない高校生だった男である。咄嗟の危機にまで女性に考慮できるわけがない。


「ファクトはそんな中途半端な人じゃないわ!やさしいの!すっごくやさしいの!」

なぜそんなに庇うのかと思うが、苛立ちを越えてムギは緑髪にだんだん呆れてくる。

「おい。シリウス。いくら緑でも、そんなにバカになってどうするんだ。」

「バカはあなたよ!私とモーゼスを比較するなんて!!」


本体のシリウスなら、ムギやモーゼス相手に憤慨して張り合ったりはしないだろう。

「お前本当にシリウスか?」

「そうです!ばか!!あなたは何なの?ずっと会場にいればよかったのに!」

もう子供同然である。ジャミナイやリゲルもアイスコーヒーを飲みながらただ見物している。

「バカ!嫌い!大っ嫌い!!」



「花子さん。そこまで。」

そこで止めたのはファクトであった。


「ムギはバカじゃないよ。」

「?」

「?!」

そう言ってムギの前に立ったファクトに、緑の花子さんもムギも驚く。


「昨日、一国に感謝されたばかりの人間に、そんなこと言ったらダメだよ。」

ファクトは強く言う。いつもポケーとしているので、こんな意志のある顔をしたファクトは初めて見る。


アジアラインのために子供の時から尽くしてきた子だ。


みんな、ファクトも………ムギが何をしてきたのかは知らない。でも、少なくとも、今まだガーナイトがここベガスにいる期間、敬意を尽くしたい。

「………」

「……。」


自分にあれこれ言うのはいいけれど、ムギのことを出されて花子さんはなんだか嫌な気分だ。

「……なんだ?ファクト。別にいいぞ。こんな人形に何か言われたって……」

意外過ぎて、ムギも思わず戸惑う。


ショック顔の花子さん。

「………どうしてファクトは、私の言ってほしいことを言ってくれないの……?」



そして………

ピーンと弾けてゆっくりと花子さんは、クラシックアンドロイドに戻って動かなくなった。



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