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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十三章 緑の瞳

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1 年上でもいい?好みはある?

こんにちは!

この小説は『ZEROミッシングリンクⅤ』の続きになります。

https://ncode.syosetu.com/n1436hs/


はじめましての方も、いつも見に来てくださる方もありがとうございます。

聖書の内容や歴史を知っていると、より楽しめます。解釈は作者の作った物語ですのでサラッと流してください。ご了承お願いします。

本業が始まるので、不定期更新なります。


キャラデザ原案を用意すると書いて、まだできていなくでごめんなさい!






成人する数年前。


チコは一人の男と、ミーティングルームいた。



机に向かい合って自分と座っているのは………深い緑の目の人だ。

珍しく他に誰もいない。


チコが緑の目を不思議そうに見ると、その人は笑った。

「ワズンからは聞いたか?」

「………?」

チコは黄色いブロンドの髪を揺らし、ほとんど無表情で何のことか分からないと顔を傾ける。


「………はぁ。」

深い緑の瞳の人は、対照的に赤くなって困った顔でため息をついた。この人のこんな顔はあまり見ないので意外で少し驚く。普段は非常に冷静沈着な男だ。


「…………?」

「………やっぱりワズンがいいかな……。」

顔を伏せて、仕方なしな感じでその男は言った。


緑の目にビターブラウンの髪。シュルタン家の長男。

カフラー・シュルタンである。



「チコ。この前ガイシャスにいろいろ聞かれただろ。」

ガイシャスは別部隊で大佐だが、女性をまとめているので時々チコの面倒も見に来てくれる。


「…?」

色々聞かれるから、チコはどの話か思い出せない。

「…………」

「………結婚。」

「!」

やっと反応する。


様々な会話の後に、結婚したいか聞かれたのだ。


正直、あの時はどう答えたらいいか分からなかった。

結婚はいいとは思う。カフラーが、前に自分の奥さんの事を楽しそうに話してくれたからだ。その人は、もう、ずっと前に亡くなった人だけれど。


けれどチコも、ユラス軍で一般の社会生活をしている知り合いができ、全くの無知ではないので今は少し分かっている。


自分は結婚はできない。


してくれる人もいないだろうと。

誰かがチコの事をそう言っているのも何度か聞いた。壁があっても霊性で話し声が聞こえるからだ。血縁社会のユラスでは子供を求められる。……いや、最近の夫婦なら大丈夫だろうか。ユラスを出ればまた違うのかもしれない。


………そういう場合であっても、自分はたくさん人を殺してきた。そして、メンテが要り、生涯東アジアとSR社の世話にならないといけない。全て国がお金を出してくれるが、そんなプライベートの無い人間になってしまった。

だから一生軍生活を続けるだろう。負荷の違う肉身と義体を酷使している。きっと長くは生きられない。


実世界の社会常識を知らないチコは、あまりよくは分からない。結婚式もユラスで初めて見た。時々軍の教会で挙げる人がいるからだ。タニアでも見た。研究所でマーカー博士たちも式を挙げた。

けれど、それは自分の事ではない。


そう。正直に言えば、結婚という何もかもピンとこなかった。



あの時、ガイシャスが、

「した方がいいよ。」

というので、


「…………できるなら。でも………しなくてもいいかな。」

と答えた。




そう、あの時。



__




「…好みってある?」

ガイシャスはチコの答えに関係なく、どんどん話を進める。


「好み?」

結婚相手と『好み』になんの関係があるのか分からない。

「うるさいのはダメとか。働かせてくれない男は嫌だとか。何でもいいよ。しないにしても一応答えて。」

「……?」

ますます分からない。チコには他人を自分の好みに当てはめるという概念がなかった。働かせてくれないことがある、というのもよく分からなかった。チコの知っている結婚した女たちは、傭兵の世界でも皆働いていた。


「年上でもいい?」

「………なんでも…。」

「……10、20以上離れていてもいい?」

「…いい。」

この時代は前時代より更年期も寿命も違うため、20歳離れていても問題が少ない場合が多い。それでも、20以上の年差はなかなかないが。とくに結婚を天の教理として重んじるユラスでは、表向き天の祝福を受けた相手と以外は(つが)わない。


「ここの軍の人間でもいい?」

「………?何でもいい。」

そう言ってから、知った顔の誰かと結婚?と想像できなくてまた首をかしげた。


ガイシャスはデバイスに何か書き込んでいる。


「お金持ちがいい?貧乏でもいい?」

「………なんでもいい…。」

お金持ちはよく分からないが、ポラリスたちみたいな生活をしている人だろうか。聖典で言う王様はさすがに世界が違うだろう。でも、何日もシャワーもできない、濁った水で体を洗うテント生活もしている。貧しくても何でもいい。


「結婚観は?………えっと、結婚は何だと思う?」

「……?聖典の結婚しか知らない。」

「宗教は何でもいいか?」

「正道教がいい。」

それだけははっきり答える。




耳の奥に…


『天の、永遠の結婚を結びなさい』と声が聞こえる。


誰の?


誰かは分からないけれど、女性の声。

黒板に書き込む文字。



それは命の道だから。




「ユラス教徒の正道教受け入れ者でもいい?」

「いい。」

ガイシャスは頷く。

「……むう。」


「結婚経験者でもいいか?」

「………いい。」

チコは質問されたことの意味を間違っていないか、考えながら答えた。

「相手が死別でも?奥さんに未練があっても?」

「……いい。」

つまり、前の奥さんを愛している人でも……ということだ。生きている間の繋ぎの結婚ということになる。

「まあ、できればそうしたくはないな……。」

どの娘もガイシャスにとって大切な部下であり妹であり娘だ。ユラスは血縁関係なくそういう連帯意識がある。


「相手に自分には望めない、できない、と伝えておきたいことは?」


「………子供。」

「……。」

書き込むだけでガイシャスは何も言わない。上部はチコの手術の事を知っている。


「……結婚した人は、その人と一緒に暮らすのか?」

初めてチコから質問が来た。

「……まあ、そうだろ。」

「宿舎で?」

「……さすがにそれはかわいそうだから家だ。夫婦専用のヴィラもあるし。ただ泊まり勤務の場合も多いだろうけど。」

「……『家』?」

想像ができない。家ってなんだ。家は知っているがどう暮らすのだ。宿舎とは違うのか。

「誰もいないのにどうやって暮らすんだ?」

結婚する気はないが、チコは不安に思って聞いてみる。誰が食事を作るのだ。


この時点でチコは、自宅に住むには掃除や洗濯を全部しなければならないということを知らない。チコは少し特殊な位置にいたので、ベッドや宿所の整理掃除はするし、物は畳み磨くけれど、家を管理するという概念はなかった。調理も生きるためのサバイバルしか知らない。


そしてガイシャスはチコの顔をじっと見る。骨を折ったり皮膚が削げたりして少し直しているが、きれいな顔だ。要求も何もない女性。

「あいつらの誰かにあげるのはもったいないな……。」

デバイスに目を落としてぼやいている。

「しばらくは面倒が掛かるだろうから、バカにはやれない…。」

「…………」


「あと、結婚は全うするためにするものだけれど……うまくいかないこともある。」

「……。」

コクンと頷く。傭兵の世界では戦いだけでなく病気や環境でよく誰かが亡くなっていたし、痴情のもつれもあって相手が変わることも普通だ。結婚かどうかも分からないことも多くあった。

でも、ポラリスもマーカーも、タニアにいた人たちはみんな妻と仲が良かった。ポラリスだけはちょっと違うが。



「…ワズンと………」

「…?」


「……ワズンとカフラーだったらどっちがいい?」

「………。」

チコは目をぱちくりさせた。

他にも候補がいたが、あいにくチコを希望していた者たちは子供を残してくれないと、親族があれこれ言いそうだ。可能性はなくもないが、今は無理だろう。ただ、チコを引き取りたいと言った者の把握はしている。

「………。」

チコは少し考えている。

「……それともサイシン?シェクター?ジンズ?」

どちらを、誰を選ぶというより、途方もなくて考え込んでいる。答えがなくて……。そんな想像も答えもない。

「………さあ…。」

非常に困った顔をしている。

「ぷっ。」

思わず笑ってしまうガイシャス。

「あ、ごめん。…笑う話じゃないんだけどね。」

笑いをしばらく堪えている。

「あいつらに聞かせてやりたい……。」



そしてガイシャスは「ふー」とため息をつき、遠くを見るような目をし優しく気持ちを整えた。


胸が苦しい。ずっと笑っていられたらと思う。

でも…、それでも未来は繋げていくのだ。


そういう意味では亡くなった妻との子供を残せなかったカフラーも、適役ではないのかもしれない。なにせ、族長の一番上の甥だ。状況次第で子供を求められるだろうし、何も言わなくてもカフラーにそう願っている者は多い。


せめてあの時………お腹の子が無事だったらと思う。



___




「チコ?」

ミーティングルームで、反応がなくなったチコをカフラーがのぞき込む。


「!」

ふと、今の時に戻るチコ。


「ガイシャス大佐が言ってたこと?」

「……そうだな。面談したんだろ?」


無言でうなずくと、カフラーは優しく笑った。

「どう思う?」

「………。」

「誰かと結婚したいか?」


チコは分からなくて、さらにジーと考えた。



優しく答えを待つカフラー。




アジアラインとユラス近辺はいつ誰が亡くなってもおかしくないと分かっていたのに………

そういう仕事だとも分かっていたのに……



あの懐かしい目が……緑の目が………


自分を見なくなる日があるなんて思ってもいなかった。





お読みいただきありがとうございます!


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