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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十四章 天の締結

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17 ファクト、王子様に期待する



南海とミラの端の慰霊塔に、東アジアとベガス関係の重鎮がタイイー一行を迎えた。


ベガス入管から、東アジアの警護が東アジア特警とユラス軍の警護に切り替わる。ベガス内の東アジア軍はニューロスアンドロイドマイビーたちと共に、周辺の警備に入っていた。


アジアで事前準備をしていた、ガーナイトの外交チェージ夫妻にタイイーは誘導される。始めに現ベガス総長エリス夫妻とカストルの妻デネブ牧師に礼をし、それから元総長でありユラス議長夫妻にも挨拶をし、他の重役が続く。


しばらく、正道教式とメンカル式で慰霊式が行われ、今度はミラの国際会議センターに移動になる。



協定決議前日会議は完全身内だけで、メンカルの留学生も基本いない。


しかし、アーツやVEGA南海の一部は出席している。今回、ガーナイトや南メンカルの研修生をたくさん受け入れ、今後ベガスをモデルに北メンカルを復興させていく予定だからだ。


(つづみ)たちVEGAメンバーに、ゼオナス、サルガス、タウやライブラ、シャウラ、ミューティアなどが揃う。


そしてなぜかファクト。

「なんでお前がいるんだ?」

サルガスが普通に疑問に思う。いてもいいが、ファクトがいるなら他に優先メンバーがいそうだ。

()()でいろと言われた。」

ただの高校生でも一応心星家のご子息である。いるだけでいいのだ。コネ・オブ・コネである。


そして久々のカーフもいた。

「お!カーフ!」

「あ、ファクト。」

そういえば、カーフもアジアライン関係に手を出している感じだった。カーフも正装で身を固めているが、何かを避けるように周りを見ている。

「何?」

「会いたくない人がいる…。」

「………?」

ズバリ母である。


「あ…。」

そこで同じく久々の人に会う。

「…えっと、君は……。」

「ニッカやムギの学友のファクトです。」

ニッカとその兄アリオトたちだ。


彼らも民族衣装で固めていて、教育実習に行ったサンスウス以来だ。ニッカの地域に元々真夏の装束はないため、近年のアレンジデザインである。彼らは挨拶をするとカーフと来賓席の方に行ってしまい、ニッカだけがこちらに来た。


周りの正装具合に思わずファクトがつぶやく。

「…俺も、紋付き袴がよかったかな…。」

ポラリスでなくミザルの故郷の着物である。

「なんでだよ。スーツでいいだろ。ただの見物だし。」

タウに言われるが、何か惜しい気がする。しかも、ヘアバンドはやめろと言われ、今日のファクトは髪の毛を後ろに流していた。こんな髪型したことがない。


「ハンドの中に武器でも隠してると思われたのかな……」

「違うだろ。ただ単にTPOだろ。王族来んだぞ。」

「王子って何?こういう人?」

ファクトはデバイスで西洋のキラキラ王子様画像を出す。

「これ?肩章付いてるのめっちゃ見たい。楽しみ。」

と言うも、シャウラがつまらない画像を引っ張って来る。

「北メンカルの王子はこれだ。」

タイイーではないが、北メンカルの王族たちの写真が出てきた。ヤバそうな顔つきに軍服であった。あんな南国の新陳代謝が良さそうな国で、でっぷりした腹を暑そうに出して散弾銃を持っている者もいる。

「………。」

軍服大好きだが、ピカピカキラキラ王子様が見られると思っていたので実につまらないファクトである。


「中年でも、禿げてても王子は王子だからな。余計なこと考えるな。」

カッコいいとは限らないと暗に言うサルガス。ファクトはキラキラ王子様を見て、妄想チーム書記官クルバトにこれまでにないニューキャラ報告がしたいのに。


いつもバンドをしているか、ゴムやピンでジャマな前髪をくくっていたので、頭が落ち着かないファクトはみんなに格好はこれでいいのかもう一度聞く。

「大丈夫。いつもより大人っぽくてきちんと見えますよ。」

ニッカが笑った。




そして会議場の雰囲気が変わり、会議が始まる。


一連の挨拶などが終わると、サダルとチコが、エリスたちと入場した。威圧感のあるサダルに、いつもと違って覇気のないチコ。小さくまとまっている感が凄い。

「おお!あれが噂の着飾ったチコさんか。」

「布被っていて布しか見えん!」

「みんなが影というのが分かるな。チコさんである必要がない。」

ウチの番長はヘタレであった。


そして、その後紹介と共に入って来たのは、ティモニー夫妻とタイイー議長、その側近2名。


タイイー王子は、軍服でなく民族衣装を着ていた。

縦襟の長袖の上下。腰には半分スカートのように大きな、シーニという絹の布を巻き、腰辺りからフレアスカートのようにシーニが広がっている。顔は南ユラス人にも近いが、褐色肌に目も髪も黒。長髪で少し顎髭もある。自らも戦うからか太ってはおらず、体は引き締まってやや長身で若かった。

お付きの者も多くが、姿勢の良い軍人のような人々であった。茶系の髪に薄褐色の顔立ちもいる。北メンカルは、珍しく近代歴史の中で東方アジア系があまり入っていない地域だった。


「は~。金ぴか王子様でも軍服でもない……。」

挨拶を述べるタイイーを見ながら寂しいファクトである。

「さっきの写真を見たせいか、だいぶまともに見える…。」

みんなもそう思う。正直男の顔などどうでもいいが。


「ファクト。内容聞いてろよ。メンカルもこれから関わって来るし、まだ内戦中だ。複雑な関係を一応知っておいた方がいい。」

サルガスに注意された。



そしてタイイーの挨拶が始まる。


彼が述べるのは、アジアやユラスへの感謝の辞だったが、現在の北メンカルの状況も時々含まれる。体面は民主主義でも実際は軍事独裁国家が北メンカル。現在大きく3派に別れる中で、タイイー率いるガーナイトのみが連合国賛同政権である。


壇上のチコは人形みたいに何も言わないし、顔が分からないのでほぼ人形である。

シリウスの方がよっぽど外交が上手い。



一連の流れの中で、アリオトたちも壇上でアジアライン共同体の話をした。


そして、その終盤に小さな女の子が出てくる。


「?!」

「え?」

実際、もうそこまで小さくはないのだが、なにせ周りが高身長でガタイがいい。同じくらいなのはティモニー夫妻くらいで、あとは女性でも170はありそうな長身。


巫女の化粧をしていたため一瞬みんな分からなかったが、ムギであった。

「……え?なんで?」

みんな不思議がっているが、ファクトは知っている。



ムギがガーナイトとギュグニーの協定を引き延ばしたからだ。


もしそれがなかったら、今、北メンカルどころか国境を越えて民主主義国家、南メンカルにも軍事政権が入っていただろう。つまりそれは、南方もギュグニーの手が入り、その両サイドのアジアとユラスにも火花が散ったかもしれないということであった。世界地図を意図しない方に書き換えるサインを阻止したのであったのだ。


「ムギちゃんの故郷ってメンカル?アジアライン?」

「アクィラェだったんだな。」

プログラムを見たアーツメンバーが初めて知ったと納得していた。経済に外交にもあまり伝わってなかった国。政治にや地理に詳しくないと『大陸の隙間』、アクィラェを知る人は多くはない。この会議で初めて知った者もいる。



ムギは少し緊張して手順を確認しながらぎこちなく壇上を歩き、国旗、聴衆に礼をする。


「っ?」

一瞬ファクトはムギと目が合った。

ファクトは笑って手を振るが、ムギはそれどころではなく、すぐにタイイーに向き合い後はもうステージ下は見ない。

「緊張してるね。」

ニッカが微笑ましく笑った。


「…………」

お互い礼をしてムギがタイイーを見上げると、大きめの瞳を細くして彼は笑った。ムギは恥ずかしそうに敬意を示す。


「アクィラェの巫女殿には、我々ガーナイトが全ての礼を尽くしても足りないほどの感謝をしている。」

心を込めてタイイーは感謝を述べる。ここで詳細は話さないが、コミュニティーで嫌われてもバカにされても巫女はガーナイトを離れなかった。



チコもこの時は顔を上げて二人を見ていた。チコにとってムギは、アジアでの生活で体の一部のような存在だ。

不器用でもタイイー議長としっかり向き合っている。ファクトはそんなムギが、とてもかっこよく見えた。



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