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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十三章 緑の瞳

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15 連行されるムギ




その時だ。



パキンッ!と音のない音がする。


ファクトはそのペンダントに既視感のある何かを感じた。



荒野を駆け抜ける女や子供たち。



走れ。走るんだ。



草の中に入った。大丈夫。ここには地雷はない。





また世界が変わり………懐かしいカビ臭さ。

掃除もしていない埃だらけの薄暗い世界。




窓もない建物。たくさんの歳の違う子供たちが静かに勉強をしている。


ここは?

嫌な臭い…。すえたような…しけたような…。


「…?!」


見渡してファクトは戦慄した。



その部屋の隅の椅子、同じく長いスカートを履いた女性が抱く、まだ言葉も話せないような赤ん坊ほどの小さな子供。その子の髪色は濃い黒のような、いまいち掴めない………グレーブロンド。


知っている。


今は知っているその髪。

その瞳。底の無い、暗い暗い………色。



「シェダル?!」



でも、もっと強くファクトを眺める瞳はシェダルのものではない。


そう、小さなシェダルを抱く…その女。

大切そうに、大切そうに………シェダルを抱く女から…………

地の底からあふれるような…………


怨みの目が見えた。





パキンっ!

と、また弾かれてファクトが我に返る。



「っ!?」



「ファクト?!」

ニッカが心配して肩を揺すった。

「大丈夫?!!」

「あ…。大丈夫………」

「ファクト…?」

ムギも心配で寄って来る。


馬たちも騒めくように馬房でうろうろしていた。


「……ファクト。気分悪い?」

「ちょっと立ち眩みっぽい。」

考えながら、ファクトは気分を落ち着かせた。

「…………」



呼吸を整える。

「………ニッカの故郷って、北東ユラスだっけ?」

「……うん。」

「馬いっぱいいるの?」


会話をして世界線をゆっくり()()()に戻す。


「それなりにいるよ。ここの馬みたいにスマートな馬じゃないけど。」

「いつか乗りに行こう。俺も、延々と草原を走ってみたい。」

「…………。」


少し間をおいてニッカが笑った。

「はは、いつか行こうね。ムギも!」

「ファクト、そんなに乗りこなせるの?」

ファクトは少しムスッとする。

「でもファクトなら兄さんたちとも気が合いそう。」

「俺?そう?」

「え…、ファクトは何にも考えてないよ…。」

ムギとしては、あの真面目そうな家族にファクトが合うようにも思えない。

「だからだよ。何もない場所だから、どこにでも適応できそうなファクトなら、それでも喜んでもらえそう。お肉はおいしいよ。倉鍵ほど繊細な料理はないけど………。」

「なるほど…。」


ムギは何となく想像できた。都会の若い子には退屈なところだが、ファクトならなんでも喜んでくれそうだ。ムギの故郷も何もないので同じである。




***




響は3日目の午前に講義を2コマ。


その間に子供たちと教育科は近くの小川で水遊び。

ほぼ流れはないが、アーツは基本ライフセーバー役である。プールと違うことは、想像以上に魚がたくさんいることだ。

「魚ー!魚ー!!」

「カニーー!生きてるカニ初めて見たー!!初めて捕まえたー!!!」

「花札じいさんの生け捕り水槽の中にでっかいのいるじゃん。」

と大騒ぎである。



そんな風に一日が終わり…………爆睡でバスの中である。


最後に響は、時長に来てくださいと講師や学生から熱烈アピールを受けていたが、医者になるまではまだまだ勉強ですと言うのでみんな寂しがっていた。医者になるのを待っていたら何年先か分からない。






「響~!!」

「チコ!」


ベガスに帰って来たバスを降りたとたんに、響はチコに捉まった。

「大丈夫だったか?」

「何が?お土産いっぱい持ってきたよ。キロン君たちがたくさんくれたの。」

「はー。無事でよかった。」

元研究室の子たちはもうしばらく時長に残るので、帰りは響一人だ。

「怪我はないか?」

「大丈夫だよー。」


「暑苦し。」

横で言ってしまうティガ。チコはファクトや女性を心配し過ぎである。

「あ?ティガ。お前こそ、こっちでの仕事放棄しやがって!」

今度のイベントで、ティガたちの会社もベガス構築のモデルになっている。

「新人育成ですので……。」

と、ティガはサッサと荷物の方に逃げていく。


そして、男子に混ざって大きい荷物を降ろしているムギを見付けた。


「ムギーーー!!!」

「ただいま。チコ。」

「ただいまじゃない!!」

「今度のプレイベント。何の準備もしてないだろ。明後日だぞ!」

「…私は見てるだけだもん。」

「………何言ってるんだ。」

チコは呆れた顔でムギを見る。

「…?」



そこに子供たちの大群。

「チコ様ーー!!!」

「ただいまーー!!!」

ユラス兵オッジーも子供や保護者たちと降りて来て、黙ってチコに敬礼する。

「僕が苺とった!!大事に抱っこしてきたのに潰れたー!」

「だから最初から荷物に入れとけって言っただろ?」

「これーー!!」

と、潰れたイチゴを差出されるので、洗う前でもチコは一つ食べてくれた。メレナ三男は大満足である。


騒がしい中で、ジョアの従妹ジリオも降りて来て挨拶をした。ユラスから赴任してそのまま観光に行ってしまったのだ。

「チコ様、お久しぶりです。」

「あー、ジリオ。お久しぶり!お疲れ!」

子供に囲まれて身動きできないうちに、ムギは荷物を持ってサーと逃げようとする。



「チコ、ただいま。」

ファクトもバスのゴミなど降ろし出てくきた。

「ファクト!ムギを捕まえろ!!」

何のことかとジリオは驚き動こうとするが、

「OK!」

と、ファクトが動いた。しかし、その矢先に後悔する。


「いい゛ぃ!!!」

と、ムギが萎縮するような声を出したのだ。

「うわっ。ごめん!」

逃げようとしたムギを、ファクトは自分が片腕に荷物を持っていたので、片腕でわき腹から抱えてしまったのだ。もう、ムギはそこまで子供ではない。


どうしてもチビたちの中にいたイメージが抜けず、こんな声を出されるとは思ってもいなかったファクト。ムギもこんなことを想定をしてなくて真っ赤になってしまい、慌ててファクトも下ろすが、一応服は捕まえておく。

このところ逃げ回るチビッ子たちをすくい抱えて捕まえていたので、思わずやってしまったのだ。


「あああ?!!!ファクト!!」

チコには怒られるし、ムギも慌てている。

「あー!!ごめんって!」

と、言ったとたんにムギに掴んだ腕を捻られ、抑え技を掛けられる。


「うわ!」と辺りの風景が回り、情けなく関節を抑えられ、さらに慌ててしまいギブアップをした。

「おお!!」

と、迎えに来ていたユラス兵たちからも歓声が上がる。しかも、転がる時にムギに頭を庇われ、わざわざ近くにあったリュックに押さえ付けられた。背中にはプロテクターが入っている。


「ムギねーちゃんツエー!!」

盛り上がるメレナ次男。バスで爆睡したので元気だ。




さらに迎えがやって来た。

「リギルー!シャムー!お帰り!動画取ったか?!」

「おう!サイコーだ!!」

迎えに来たのはウヌクである。しかし一番に駆け寄るのはテミンであった。

「ウヌク先生ー!待ち受け見せて!!」

「お!テミン。楽しんで来たか?」

「せんせー!いっぱい写真撮った!!」

「え?テーミン君。パパがいるのにウヌク先生?」

チコに着いて来たカウスが後ろで嘆いている。



地面に座ったままのファクトと立ち上がったムギ。そんなムギと目が合うと、なぜか赤くなってしまうのはウヌク。

「何だウヌク?」

「………いや。何でもない……。お帰り。」

「…?ただいま。」

「……………。」

ムギが応えてくれるとは思わず、ウヌクは赤面してしまった。


「トゥルスは?」

「トゥルスとデルタは向こうでもう少し研修を受けるよ。地方開拓を学びたいから現地に定住した移民の人たちにも会って来るみたい。レサトも一緒で、レサトは明後日の朝帰るって。」

「ふーん。そうか。」

と、ウヌクが言うが、怒っているのは後ろのガイシャス。

「あいつ……、プレイベントの準備を手伝わず、ミーティングに参加もせず当日入りする気か……。」

もちろんレサトのことで、一応当日は逃げないらしい。


もう明日にはタイイー議長がベガス入りする。




一方、ファクトは座り込んだままなぜか顔を上げない。

「………。」


「フン!」

ムギはまだ座り込んでいるファクトにそう言って去って行こうとするが、

「ムギ、大事な話がある。」

と、チコに凄まれたため、ユラス軍人に囲まれながら仕方なく連行されて行った。




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