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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十三章 緑の瞳

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14 草原の馬



授業風景をデバイスに収めながら、ティガがつぶやく。


「俺も響さんのクラス取っておけばよかったな…。」

折角、講師響の近くにいたのにもったいなかったと思う。


なお、キファはしょっちゅう研究室に出入りしていたので、ほぼ無料で響の講義をたくさん聴講していた。




「ムギ……、分かる?」

レサトが隣にいるムギに尋ねた。


アジア人ではないレサトは、東アジアの植物や食物を中心に語られる今の講義が分かりにくい。子供の時から住んでいるとはいえ、ベガスは都市で、移民が多く東アジアとも言いにくい文化だ。アジアラインのムギには分かるのだろうか。


「分かるぞ。アジアラインは元々はアジアと同じ仏教系文化だからな。

そのために目の前に棗が配られただろ?想像しろ。私もアンタレスより東には行ったことがない。文化も教育も自然も似たものはある。

レサトは深いこと考えずに、東アジアの文化授業と思って聞いていればいい。」

本来はユラスにも似たものはあるのだが、紛争と亡命でそれを学ぶ余裕がなかったのだ。いくらベガスが込み入ったビルだらけの都市でないにしても、アンタレスでは自然を学ぶのに限界がある。


「俺は深いことを考えたい。」

逆らうレサト。



無表情で何か考えているが、ファクトと違う意味で、本当に何も考えていない顔をしているとムギには分かる。

「勝手に考えてろ。」


ムギが言い放つも、時長女子学生たちには、考えてるレサト君かっこいい!ということになっている。響が食べるなというのにナツメをかじって、食べているレサト君カッコいい!!とまたなっている。あほらしくなってくるムギ。

「ナツメはユラスにもあるけど。試食。」

と、レサト。

「あ、そう。」

味を知っているなら今試食するなと思うが、言ったら負けな気がして言わないでおいた。



「俺はナツメより、今日食べたホルスタインの甘辛リブが好きだな……。」

と、横から全然関係ない対比を出してくるのはファクト。

「今日のリブの漬けダレにも、ナツメや林檎が入ってますよ。梨も入ってるし。」

女子生徒が教えてくれる。

「へー。」

「お前、肉ばっか食ってるから臭そうって言われるんだぞ。野菜や果物食えよ。みんなに言われてるだろ?今日もマジ肉ばっか食ってたな……。」

サレトがファクトに言うが、レサトもかなり肉を食べる。なぜなら内陸のユラス人は魚より肉で育ってきているからだ。

「ポテト食ってんぞ!」

「でも、臭そう。」

「セロリときゅうりも食ってる!リンゴも!」

丸かじりするだけである。


レサトは考える。

「そういえばさ、お前の読んでた漫画とか映画とかゲームの巨人とか大物獣系ってさ、排泄量もすごそうだな。読むたびに、肥料にするには多すぎるし、燃料にでもするんか?とか思うんだけど。腹下したらヤバいし、尿も川レベルだろ?」

「それ、俺も疑問に思って、排泄設備がどうあるべきか、いつも設定を考えていた。高身長高体重でも埋葬大変なのに、巨人って死んだらどうするんだろうって……。何葬がベストなんだろ。」


「でも、恐竜がいる時代もどうにかなってたんだろ?」

「恐竜は地球に対して、総量と数が違うだろ。恐竜だけで全土もれなく使えるし、糞尿気にする人間がいないし。」

余計なことを考えて、いつも漫画の本筋に集中できないレサト。

「人魚とかは海に?」

「あれもこれも疑問だな。」

「ユニちゃんはそんなことはしない!!」

ティガが、自分の好きなキャラを庇う。



「………。」

近くにいた女子が引いているが、さすが農林関係や移民政策でインフラを考える大学。すぐ頭を切り替える。

「そうだね。まず何でも高速で土に分解する菌を開発するね!稲と混ぜてさ。」

「稲は牛さんに必要じゃん。雑草でいいよ。」

「その菌、外に出たらやばくない?」

「こんな世の中だから、分解すべきものたくさんあるし、いいでしょ。」

「ええ…。」

「土塀やブロックにも再利用しよう。」

「街がうんちで構成されるね。」

「過去にもそういう事案はありそう。」


ファクトがまた要らぬ疑問を呈する。

「トイレは穴を掘っておくにしても…紙はどうすんの?」

「…紙も分解できるものを使うの!」


「バカだな…。」

レサトがつぶやく。

「漫画のオシャレやカッコいいヒーローヒロイン勢は、うんちはしないって知らないのか?トイレ自体存在しない。」

「…………」

最初に疑問を投げたくせに、ファンタジーで締めくくるレサトである。ファンタジーなのに悩む方が愚問なのだ。


「はあ~!?ココちゃんハウスにも、アニマルプリンセスファミリーのお家にもトイレがあるのに、そんな訳ないだろ?!!」

遂に怒りだすファクト。ファクトだって怒るのである。ムギはいちいちこういうファクトに突っかかていたが、今は放置が一番いいと知っている。大人になったのだ。


しかし、怒るのはファクトだけではない。


「ファクト!レサト!あなたたちは立っていなさい!!」

と、響に叱られ、大学生なのに講堂の後ろに立たせられる二人であった。




***




「そういう訳で、ファクトはレサトと教室の後ろに立たされたの。馬鹿だよね。」


講義が終わってラウンジで談話をする皆さん。聞いたニッカが、なんと言っていいか分からなくて取り敢えず笑っておく。ソラはレサトを見て、本当にバカなんだな、と改めて思う。

子供たちは既に眠っていた。昨日、興奮で遅くまで起きていたので、BBQですっかり疲れてしまったのだろう。


「ティガだって話していたのに、俺とサレトだけ立たされた………。」

しかも立たされても後ろで話しているので、今度は教室の端と端に立たされたのである。そこには先生など立ち見の受講者も大勢いたので目立ちはしなかったが、時長でもすっかり有名人になってしまったファクトである。


ティガはシャムやリギル、ラムダたちと動画の確認をしていた。


「ムギ、夜にコーヒー飲むと寝れなくなるよ。」

いつもミルクココアだったムギがカフェモカを飲んでいるので、心配するファクト。

「もう高校生なんで大丈夫だよ。」

その返答が子供である。


「あーあ。もう明日帰るのか…。」

ファクトはもう少しいたい。

「大して遠くもないし、いつでも来れるだろ。」

そうは言っても、キロンとは離れたくないのである。

「うー。やっぱりうちにはスチームパンクキロンが必要だー。タウパパも寂しいってさ…。」





そんな事を言ってみんなが解散した夜。


ムギはやはり眠れなくなってしまい、このスケジュールでは来れなかった厩舎にニッカと共に来ていた。

ここには数頭の馬がいる。


しかし、そこには先客がいた。

「ファクト?」

ニッカが驚きムギも振り返る。ファクトが馬を見ていたのだ。

「なに?ムギやっぱり眠れないの?」

「………ファクト?ファクトこそ何してる。」

「え?たくさん食ったから運動。」

「こんな夜に?」

「よく夜にランニングするから。こっちに行くのが見えて、厩舎があるって聞いたからここかなって。」


ニッカが優しく笑う。

「ベガスの馬をこっちに2頭移したから。少しだけだけど、私がかわいがってた子だよ。」

「だから俺も警戒されなかったのかな?この色味……この子?」

「そうだね。」

撫でると馬が顔をすり寄せてくる。ニッカが分かるのだろうか。

「こんな夜に馬起こしていいの?」

「大丈夫。起きてたし。馬はまとまって寝ないから。」

「へー、そうなんだ。触っていい?」

ニッカが場所を開けてくれたので、ファクトはそっと近づく。馬房の柵越しに触ると馬は気持ちよさそうにした。

「名前は?」

「付けてない。」

あるけれど、その名は呼んでいない。

「……」

最期、食用や化粧用になるのだろうか、とファクトはそれ以上聞かないでおく。



けれど、話し出したことは違うことだった。


「私の故郷に、アルタルフって馬がいたんだけど…、私の馬で…。この前死んでしまったみたいで………」

「………。」

ファクトから顔をそむけた。


「初めてあの高原に来た時、最初は兄弟以外同年代の子もいなくて……女兄弟も女友達もいなくて、それで私のためにくれた雌馬だったんだ。」

目の前の馬が、今度はニッカに擦り寄るので、ニッカはその大きな顔を両手で包んだ。


「もうお母さんだった馬で。でも人慣れしていて優しくて………。私がいなくなった後は従弟の子が見てくれたみたい。最後にもう一度会いたかった……。」

「………。」

「ごめんね。暗くなっちゃった。」

「ううん。」


「私は山だったからね。そんなに走らせられなかったし。いつかニッカの故郷で馬に乗ってみたいな………。」

ムギは、ニッカが走って来た世界を思い描く。


形は留学だが、ニッカもほぼ亡命のようなものだ。家族が恋しいのだろう。


「アリオト兄さん元気?」

ファクトはニッカに尋ねる。

「…うん。元気だったよ。」

「またアンタレスに来たら呼んでよ。みんなで食事でもしようよ。」

「うん。」


ニッカはアリオトと聞いて渡した骨の一部を思い出す。

人骨だと聞いてもなんとなく持っている、その胸のペンダントを握りしめた。




その時だ。



パキンッ!と音のない音がする。





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