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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十三章 緑の瞳

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12 楽しい写真を送りつける



シェダルが描いていく………

果てしない文様。


それは永遠に一方方向に見えて………気が付いたらもう通り過ぎたはずの、自分の目の前にいる無邪気さ。




目の前にある、赤や黄、黒や緑のトマトたちが様々な大きさや形で日に照らされている。

同じ緑でも、無限に色彩が広がる葉の色。


心理層の世界に織りなされた五色の文様のように。



「ファクト先生!!」

「っうわ!」

そこに、ドカッとメレナ次男が乗りかかって来た。メレナも来たいと言ったが、さすがに様々な対外行事前に外泊は無理であった。その代わり別の親戚が来ている。サルニアス家、一体どれだけベガスに人を送っているのだ。しかも、その女性は本物の軍人らしい。


「先生~!食堂でご飯だって!今採ったトマトも食堂の夕飯に使ってくれるんだって!!」

食事は学食に行く。


この後、響たちは元研究室のメンバーの現在の研究室に行くので別れての行動になる。どのみち、ここで込み入った話はできないだろう。


響はファクトにニコッと笑い、仕方なしに立ち上がった。




***




午後は環境完備施設に行くはずだったが、牛の搾乳が始まるということでそちらに行くことになった。


「すごい!ホルスタインだ!!」

畜産では肉牛しか見たことのないムギも感動している。しかも、この棟だけで牛が50頭近くだ。ベガスにいる牛は交雑種なので、生活の中の写真やデザインではよく見かけるのに、実物の白黒牛にみんな感動している。響にはシャールルが付いているので、一旦ムギは搾乳を見に来たのだ。


「わー!わー!!」

子供たちが感動している。

「牛がびっくりするから騒がないでねー。約束してねー。」

学生が言うと、みんな口を閉じる。でも「怖いよー」と泣き出した子供を見ても、牛は大して反応もしなかった。


「こいつら食べられるの?」

レサトが率直に聞いてしまう。

「食えるぞ。たんぱく質が多いから健康にはいいし。肉牛のように市場には回らないけど、加工や料理次第でけっこうイケる。」

この人口に食を提供するために、可能な限り全てを活かす時代だ。


「………。」

その横で、蔑んだ目でレサトを見るソラ。

「あのさ。子供たちが牛さんだ、かわいい!とか言ってる横で、しょっぱなからやめてくれない?」

「俺は現実に生きるんだ。」

「はあ?牛糞踏みながら何言ってんの?」

サレトが足元を見ると、踏んでいたのは土ではなく牛糞だった。

「………。」

「こんなところに、そんな良さ気なスニーカー履いて来てバカじゃないの?しかも白とか。」

「………」

思いに沈むレサト。

「俺、安い靴持ってないから………。」

「それ、うんこなんだね。レサト兄ちゃん大丈夫だよ。それ、ちょっと土っぽいしいい感じだよ。土と思えばどうにかなるよ。」

メレナ次男が、微妙に乾いたウンチを楽しそうに踏んでいる。


「あ、ごめん!午前に、放牧してある方の子牛が迷い込んできてたんだ。言ってなかったけど、長靴や作業用の靴、いくらでもあるから。」

レーウが謝っていた。



そんな風景をシャムは動画に収めていく。基本自由に撮っているが、時に指示を受けながら全体の風景や牛や植物、建物にフォーカスしたり。響に付いて行ったティガも動画を取っていた。

ベガスや藤湾の紹介、説明動画を作るためだ。藤湾大も顔出しの確認がされているので、編集時に区分されていく。


「リギル。他にほしいショットある?ウヌクからの指示は撮ってるし。」

「顔出しOKの子で、いい感じのショットよろしく。後は任せるよ。」

「OK~。」

ここのメンバーはアーツだったり、軍人や為政者の子供もいるので基本顔出しはNG。時長の子にお願いする。



しかし、さすがレサト。


見た目だけはよく、ここでも男ハーフエルフなどと言われ、一見寡黙な男に時長の女子たちが遠目でキャーキャー騒いでいる。

ベガスミラの藤湾学生には「勉強しないファクト君」に並び、「脳内カオスのレサト君」はクソしてくると言って授業を抜けると有名である。アイドルや王子様はトイレに行かないと思っている女子生徒を一発で夢から引き落とす、そんなチート技を持っていた。脳内カオスと言っても、何も考えていないだけである。もともと答えがないので、行きつくところもなく探れば探るほどカオスである。


「レサト映したらカッコいいのできるし、ベガスの好感度と注目度と炎上度が一気に上がるのにな。」

リギルとしては映したいのだが、レサトも顔出しNGだ。

「ってか、炎上って何?」

ソラが呆れる。




みんなの絞った牛の乳を殺菌して持って来た時長のお姉さんが、レサトにラブラブな目線を向けている。

「どうぞー!皆さん。」


「これさっきの?」

アルがうれしそうだ。テミンはひたすら写真を撮っている。

「これでホワイトエッグプラントと、ホルスタインに並んで牛乳が加わった。先、生乳も撮った!」

ホワイトエッグプラントは白ナスの事だ。テミンに加わりメレナ長男も写真に熱中だ。

「テミン、あとで卵も見に行こ!」

白の写真が少ないと言うと、キロンが養鶏場もあると言ってくれる。

「卵も白いのある?」

「白いのもあるし、ちょっと青いのもあるよ。ってか、まさかカウスさんの子がこんなふうに育つなんてな…。」

と、キロンが喜んでいる。あのチコとの『終身誓願』でポケーとカウスに抱かれていた子なのに。

「あ、黒い鶏もいるし!」

「ほんと?!」


「お兄さん、牛乳おいしいですか?」

レサトにいちいち聞くお姉さん。周りの女子生徒もやって来る。

「この牛乳は……」

ドキドキ答えを待つ女子の皆さん。


「牛乳の味がする。」

「きゃー!!」

牛乳として当たり前の感想しか言っていないのに盛り上がっている。


あほらし、とソラが呆れて見ていた。


「2泊3日の内に乙女の夢が破れるといいのに。」

シャムがぼやくが、農林学部の生徒は看護や医療系並みに、糞尿話が平気なのではないかと思うギャラリーであった。バイオ学部とかも変態が多そうだ。ただの想像だが。




***




2日目の夜。

やはり農場に来たと言えばこれしかない。


どこから集まって来たのか、いろんな場所から生徒たちが集まり、BBQ大会になってしまった。


この日は昼に農業機械を見せてもらったこともあり、その時に会った農林学部の機械科やシステム科の生徒たちも集まって来ていた。リゲルやファクトも運転させてもらい、すっかり仲良くなっていたのだ。


「ファクトくーん!こっち肉焼けたよー!」

「来て来て!レア!」

「マジ?!」

女子の方に、肉につられて行く男ファクト。


「…なんでファクトがモテるんだ?」

ムギが驚いている。ムギから見たら、レサトもファクトもあり得ない。ついでに、そこらの男子よりカッコいいためソラも女子に人気だ。

しかも、時長はお堅いユラス人の多いベガスより、異性への距離が近い。大房よりは全然まともだが。


すっかり忘れていたが、なにせファクトは心星家のご子息。その上、黙っていれば悪くはない。だいたい機嫌がいいので声も掛けやすく、フットワークが軽い。クラスで一人はいるお調子者と言えば、小学校でモテないはずがない。ここは大学だが。

一週間も一緒にいれば愛想を尽かされるであろう。



「ファクトー!」

「おう!キロン。」

「たくさん食ってけよ。」

「もち。」

少し仕事で席を外していたキロンが、遅れて戻って来た。焦げそうなお肉をたくさん皿に乗せて席に座る。


食べながら急に神妙になるキロン。

「ファクト………。チコさん大丈夫なんか?」

「…チコ?」

「離婚届………。」

「………。」

そう、ウチの黒ぶち眼鏡キロンは、ジェイたちと一緒にチコが大事に身に持っていたA3の離婚届を見ている。

見ていなくても、今更あの夫婦のことはみんな知っているが、衝撃でトラウマだったのだろう。かわいそうに。


「大丈夫だよ。この前ウチの家族とご飯食べたし。みんな、チコと議長は離婚したら、もっとめんどくさいことになるって脅しをかけたから、チコがんばるよ。多分だけど。」

「…そっか……。よかった。」

いいのか分からない状況だが、キロンはホッとため息をついた。


離婚そのものはできても、結婚して、それから議長妻としての状況に慣れるまでのあの道のりを考えると、もうやり直す気にはなれないだろう。独身のままもダメで、バベッジ族長血統も分かってしまうと、再婚するにしても楽な再婚もさせてもらえない。


「ずっと気にしてたの?」

「……自分、チコさんたちには感謝してるから…。チコさんには幸せになってもらいたいし……。」

「…………キロン…。お前いい奴だな…。」

感動のファクト。

ただ、サダルと結婚生活を続けることは、もしかしてチコにとっては超受難の道のままかもしれない。なのにホッとしているキロンを見て切ない。



「………大房であのままだったら、多分ファクトともここまで話すことはなかっただろうし、まだ大房であてもなくバイトしてただろうな。」

キロンはそう言ってニコッと笑う。アーツに来るまで、2人はアストロアーツを通じて顔は知っている程度の関係だった。キロンは大手をやめさせられて、彷徨うように大房でバイトをしていた時にサルガスに声を掛けられてのだ。


「キローン!」

「あ、ヨア!こっち!」

見覚えのある黒髪のかわいらしい女の子がやって来る。ただ、写真で見たより大人っぽい。キロンと背も同じだ。

「え?もしかして彼女?」

「そう。ヨア、こっちファクトだよ。」

「お話は聞いています。ヨアと申します!」

「おおーーーー!!!!」

と、聴こえていた周りが盛り上がる。



「よし!チコに写真送ろう。おいしいビーフ食べてるとこ!」

急に別の気合いが入ったファクト。


サウスリューシアからお腹のすくBBQの写真を送ってくれたので、こっちもお返しをする。おそらくチコは今頃プレイベントの準備で大変なことになっているか、逃げ回っていることだろう。



そんな訳で、超楽しそうなみんなとの写真と動画を送っておいたのであった。



●あの終身誓願

『ZEROミッシングリンクⅠ』60 終身誓願

https://ncode.syosetu.com/n1641he/61


●キロン離婚届現場に遭遇。

『ZEROミッシングリンクⅡ』85 世界が動くA3用紙

https://ncode.syosetu.com/n8525hg/87



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