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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第五十四章 今の世界に永遠はない

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123 投光器から見えるもの



あの南海広場競技場の、あの高さ40メートルほどの投光器。



そこからシリウスとファクトはベガスの街を眺める。


風も少なく日が照り付けるが、ここからはベガスの先のアンタレス郊外まで見渡せる。



「あっちが響さんの住んでる小七曜(こひちよう)だろ。あそこは商店街がおもしろい。コロッケ屋のじいさんは褒めちぎるとおまけしてくれる。

それで向こうが上越。師匠ジュニアがいるところだっけ?今度道場遊びに行かないと。四支誠は上からでも目立つよね。あんなに文化会館があるんだ…。」


現在復興している街は、比較的近代の高度建築物できれいなまま残ったところなので、リノベーションでほとんどがそのまま使えた。


「あ、あそこはカウスさんたちのマンション。あの辺ほぼ単身赴任状態のママたちがたくさんいるからみんな仲もいいし、亭主元気で留守がいい状態らしい。カウスさん、ベガスにいてももったいないからどっか行けばいいのにね。」

「はは。」


笑っていい話なのか。


「でさ、結局今一番バランスがいい都市がベガスなんだって。義務労働はあるしそういうのって給料安いんだけど、その代わり仕事の休みも取れるし。」


義務労働は、ベガスに住む限り基本勤めなければならない労働である。

一部の人間はベガスでもまだ社畜の如く働いているが、全体的にはベガスは低価格で住めるし、みんながどこかで労働をバランスよく担っているため休暇も多く取れるようになった。その代わり、生産性に合わない場合は全体に多少の生活制限はされるし、もちろん少しの贅沢をするには過剰金を儲けなければならない。プラス所得と言われる、保護される以上の所得の事だ。けれど宿舎でも暮らせ、今後ベガス全体に貯蓄が貯まればそれも全体のバランスで回せるようになるだろう。


あれこれ説明するファクトの声を聞きながら、シリウスはアンタレスの全貌を眺める。


「…………。」

いろいろ話していたのに、ファクトが一か所を眺めながら静まった。

「…?」



見ていたのは、いつか撤去される廃墟のビル群だった。


現在、他の街に掛からないよう、どこから崩していくか検討をしている。風下は最後に崩していくであろう。




あの屋上。


もしかしたら、あのままチコは目を覚まさなかったかもしれないし、死んでしまったかもしれない。そして本人はそれでもいいと思っていたのだ。今となっては何もなく通り過ぎてしまったような出来事なのに、今分かる。


締め付けられるほどに、まだ胸が痛い。

「…………。」




強いと思っていた人の肉身は、自分たちと変わりなかった。


守ってあげるべき女性で、自分の姉だった人。



あの時チコが生きることを諦め、シェダルがとどめを刺していたら今のベガスはなかっただろう。少なくとも、下町ズはもうベガスには入れなかっただろうし、分散してしまったかもしれない。


シェダルという人間も、正体不明の犯罪者のままであっただろう。



サラサはもちろんチコの心配もしていたが、チコに何かあったらまたユラスが分裂してしまうかもしれないと泣きそうだった。


あの当時はそれがどれほど大きな話なのか分からなかった。



チコもいつか議長が捕虜解放された時に、その横を空席にしておきたかったのだろう。

チコとテニアおじさんも、まだ出会えていなかったかもしれない。


自分も必死に繋いできた、今。

切れそうだった、切れてしまった何かを必死に繋いできた。どことどこを合わせれば、未来が良くなるのかも悪くなるのかも分からなかった。ただ、ただこれ以上悲しいことがないように必死だった。



でも、今、自分たちはここにいる。


今、この形で。





「……たくさんのことが変わったね。」

そんなファクトを見て、シリウスは静かに言う。


「そうだね。ここに来なかったら蟹目の高校にそのまま通って………結局その辺の大学にでも行ってたのかな……。」

この時代は大学時代からほとんど社会的実践をすることも普通だ。大学が一研究組織や企業と変わらない生産性を上げることが望まれている。

「そんで普通に中央区の公務員でも目指したか……大学行かずにどっかの倉庫管理とかして働いてたかも。」

ニコッと笑って振り向くと、シリウスもニコッと笑う。


ムギや響と出会うこともなかったかもしれないし、シェダルがこの街に来ても自分には知らされることはなかっただろう。今の自分だから機密も共有できるのだ。本来なら一般人は知りもしない事だ。




「……ファクト…………」


地上40メートルの風が二人に吹き流れる。

少し圧迫もあり、でも気持ちよくもある。


シリウスはまた優しく笑う。



「ファクト…………」

「………。」

「………私は小さなあなたがSR社によく来てた頃、とても楽しかったんだよ。」


「……?その頃シリウスはいなかったんじゃない?」

多分子供の頃のことだろう。

「確定した私はいなかったけれど、ずっと前から私の前衛はいたしね。」


『北斗』のことだろうかとファクトは思う。

データも全て引き継いでる。シリウスはある意味ファクトよりはるかに老年なのだ。


私たちの関係も変わったよね。

と、シリウスは思うがその言葉は無機質な瞳の奥に閉じ込める。



「今一番楽しい仕事はベガスだよ。あなたたちを見ているから他の仕事も頑張れる。」


少し強い突風が吹き、青い空に黒い髪が空に揺れた。




***





第3ラボだろうか。


誰も知らないここ。



一部の人間しか知らないこの場所に彼女は眠る。

シャプレー・カノープスはその奥の大きなストレッチャーに眠る女性を眺めた。普段は普通のベッドだが響は少し検査がある。



髪先が軽くカーブしたセミロングの髪。全体をきれいに整えてもらった、寝たきりの人。



「バナスキー。今日はジグレイドの墓参りに行ってきたよ。」


返事はない。



「生きていたらサダルと同じ年だったな……。」


「ミザルに子供ができた話はしただろ。安定期が過ぎてもつわりが終わらないそうだ。」

普段自分からはほとんど話をしないシャプレーが、しばらく呼び掛けていた。


「………。」

そしてベッドわきに座って、彼女の耳横の髪を掻き分けた。


顔のこけた女性はただ静かに上を向いていた。






***




学校があるとファクトが去ってしまった投光器の上で、シリウスはまだ街を眺める。



そこにジリジリと音を立てて入って来る、デジタルニューロス。


『シリウス、どうして私の侵入を許したの?』



許したわけではない。ここは言論の自由の地。

ネットとメールを開いただけだ。開かなければいいだけだが、正当に入って来る者には何もできない。違法にしても、河漢や大房の調査はシリウスそのものには任せられていない。仕方のないことだ。


『ねえ、あの子たちおもしろいね。

変にメカやネットに関心のある人間や、博識な人間よりずっと面白い。』


「…………。」

シリウスは何も言わない。


『あなたがメカニックの中で最もあらゆることを許されているのに………。

あらゆるものを手に入れることができるのに。


あなたは選ばれ、祝福された者。』


「……………」

『要らないものは要らないなりに処理して、ほしい物を手に入れればいいの。』


「私は………」

シリウスは遠くを見る。


「私はあの子たちがほしい物がほしいの………。」



そう言ってシリウスはストンと投光器から飛び降り、呼んだRⅡに乗ってここを去った。





これで『ZEROミッシングリンクⅥ』は完結します。


この回は、組織運営、まちづくりと結婚が主だった内容でした。最後に出てきた名前は、新キャラではなく実は以前に既に名前だけ、もしくは何かの形で少しだけ登場している登場人物です。


いつもご訪問ありがとうございます!またよろしくお願いいたします。




※追記


2025/3/21 完結後の全体修正が終わりました。


本当は100話超えたくなくて、部ごとに80話以内に収めたかったのですが、小説の勝手が分からず、自分も書きながら学び検討をしていたのでこんなに長くなってしまいました。修正しながら説明が多く5000文字を超える話を調節しています。



『Ⅵ』は全体的に、聖書解説(筆者なりの。空想です)が多く、苦手な人にはだめだったかもしれません。ごめんなさい。

同じ内容が重複するのは、筆者が書いたか、書いていてもどこで覚えていない事と、この長い小説を全部を細かく読んだ人や内容を細かく覚えている人もいないだろうから、おさらいのような感じでいいかな…と載せてしまっています。くどいところも多いので整理したいのですが、自分の頭の中だけでは整理できないのですね。小説の内容は十数年頭の中をぐるぐるしていたので、まっさらな状態で再検討できなくて……。

もし全部読んで、細かく覚えている方がいましたらすみません!


短縮した【ストーリー版】も現在『Ⅵ』。閑話以外どこを削除するか悩みどころです。なろう版は、さらに短くしたバージョンをいつか載せる予定です。


NOVELDAYSの方には、絵や図解入りの『ZEROミッシングリンク解説チャット小説』もあります。

▼NOVELDAYS版『ZEROミッシングリンク』

https://novel.daysneo.com/author/nekorea/


もう一度全部読み返して修正したいのですが、取り敢えずこれで!



この小説を読んでくださる全ての方に、本当に感謝申し上げます。










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