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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十三章 緑の瞳

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11 その嬉しさと



もっと田舎だと思っていたのに、まさにその田舎に切り開かれた、それなりの地方都市時長。


ここは複数の大学と県の共同研究学習施設で、機械栽培や完全管理栽培ができる農作物も、前時代の栽培方法で育てていく。農業従事者や研究者が、植物と季節の性質を体感で知るためだ。ハウスも露地栽培もあって様々な風景がみられる。



「え?もう苺は終わっちゃったの?」

苺が楽しみだったソラと小さなビオレッタ。そしてなぜかトゥルス。

「苺の最盛期は冬だよ。」

「え?そうなの?5月とかじゃないの??」

アンタレスは少し北寄りのため、今は7月だがギリギリないかと狙っていたのだ。畑をあまり見たことがないのでよく仕組みが分からないが、時長はアンタレスより少し南でも、大陸の中では北寄りの地域なので時長にもあるだろうと。


「そこまで寒くないし。どのみち雨続きの時期に入ったら草本(そうほん)類は難しいし。」

「そうほんるい?」

「土の上に生る木でない草植物。基本ハウスだからね。ハウスも温度制御がないと露地栽培よりは強いってだけだから。」

「ロジ栽培?」

「普通に外での栽培。でも抑制栽培で向こうの完備施設でまだ何棟か残してるよ。苺は年中需要があるし。アルたちが来ると思って、多めに残しておいたんだ。」

「おー!うれしい!!苺だ!!」

なぜか喜んでいるのは子供アルでも女子でもなく、ムギ弟トゥルスだ。そんなに好きなのか。

「桃もあるよ。」

「マジか!食いたい!」

桃好きのソイドが喜んでいる。


「………。」

全然関心がなさそうに見えたのに、けっこう熱心にあちこち見入るムギ。

「何?おもしろいの?」

珍しく研究熱心なムギに、ファクトが声を掛けた。


「……土がないのに育つんだと思って。」

大きな建物の窓からトマトを見て驚いている。

「知ってたけど見たのは初めて。」

とニッカも驚いていた。

「菜っ葉系も、完全管理の水栽培の部屋があるから後で行こう。同じ野菜でも、いろんな育て方をしてるんだ。ベガスの方でもこれでハーブ育ててると思うけど。」

キロンが教えてくれる。

「これで栄養のある野菜が育つの?」

「それはまた後でね。」


「………ミニトマトって、こういうふうに()ってるんだね…。」

映像でしか野菜の生っているところを見たことがない、ラムダやソイドもびっくりしていた。トマトは点々と茎についていると思っていたのに、ミニトマトは鈴なりに成り、グラデーションのように緑から赤に色づいている。


子供たちは施設に入らせてもらい、レーウがいくつかのトマトをその場で採った。

「いろんな色があるんだねー!」

カウス長男テーミンことテミンが感動している。

「レーウのおじさん、野菜いろいろ写真に撮っていい?」

「おじさんじゃないけどいいよ。撮影禁止のマークのあるところだけ避けてね。黄色いテープ側も映らないように。」

「うん!ウヌク先生に送ろう。」

テミンが写真にハマっている。



「歩きながら食べるなよ。危ないから、子供は座って食べろ。」

リゲルが全員座らせ、子供が真似をするので落ち着きのないファクトも座らせた。

「ムギちゃんも座って。」

「もう子供じゃないんですけど!あ、リギルさん。こっちに来なよ。」

端っこで一人でデバイスを見てしゃがんでいるリギルを、ムギが引っ張って来る。

「いいっ?!」

女子に腕を引かれ気が気でない。

「いいよ…っ。」

しかも、なぜかすごい力だ。

「っ??!?」

「せっかく来たのに。おいしいから一緒に食べようよ。」

リギルは焦って赤くなって断るが、ラムダやジョア長男シーバイズの横に座らされた。

「??」

「お兄さんもどうぞ。」

ムギの力に気が動転しているリギルは、シーバイズにすすめられ仕方ないので苺をむしゃむしゃ食べると、久々の新鮮な味にびっくりしていた。


「お姉ちゃん。甘いね!」

ニッカと仲良くなったジョア長女ビオもうれしそうだ。

「自分で採ってもいいの?」

子供たちが薄い手袋をして他のスタッフに教えてもらいながら、ラムダたちと楽しそうに採っている。


すると、別の方に園児たちの集団が見えた。

「園や学校からよく体験学習に来るんだ。あっちの方は、畑が持てない園とか学校の菜園もあるよ。近所は園や学校は土地があるから、市内から来てるんだけどね。」

大学内のため、農作業の忙しい時期も学生たちが外部員に対応できる。


「ねえ、ファクト先生。」

テミンが不満そうにファクトに報告しにきた。

「何?」

「ウヌク先生こんなことしか返してこない。」


『響先生激写して』


テミンがいろいろ野菜の写真を送っているのに、ウヌクの返信がひどいのである。

「あいつ、日曜教室の先生外してもらおう。」

「そうだな。」

先生失格である。しょうがないので、研究室の生徒やティガとトマトや苺を食べて楽しそうな響の写真を送る律儀なテミン。


「テミンくーん。キファ君に送ったの?」

元研究室の学生たちが聞く。

「違う。ウヌク先生だよ。」

「ウヌク?イオニアさんやタラゼドさんでもなく?」

ウヌクを知らない学生が戸惑う。

「キファと類似種。」

とティガが答えると、なるほど。とみんな納得した。

「先生、結局誰にしたんですか?」

「へ?誰とかありません!それにウヌクさんは女好きなんです。誰でもいいんです!」

「……ああ、あのスパイラルパーマの人ね。」

「タラゼドさんが一番役に立ちそうなのに。」

響はタラゼドの名前が出てから、赤くなって怒っていた。照れているのだろう。


その後、楽しそうな雰囲気にウヌクから不満のメールが届いたが、テミンの撮った野菜の写真を色順に出るように待ち受けにしたとも書いてあり、それだけでテミンは大満足で喜んでいた。

「ねえ。ウヌク先生が、僕の写真待ち受けにしてるって!」




「………。」

そんな風景を見ながら、ファクトはシェダルも来れたらいいのにな…と思った。


今、シェダルは外出することもなく、ほとんど勉強に時間を費やしているらしい。

基本的な頭はよく、既に高校レベルを超えている。集中すれば止めるまで十時間でも二十時間でも勉強しているし、本人が知りたいからと生物以外に人体なども勉強していた。


与えられたスケジュール以外は、本を読むか運動をするか、丸まってずっと眠っていた。



「………ファクト。」

しゃがんだ姿勢でボーと子供たちを見ていたが、話しかけてきた落ち着いた声に、ファクトは顔を上げる。


「響さん……」

「………シェダルのこと考えてた?」

年上だから()()付けにしていたのに、響は結局シェダル呼びだ。

「…まあ。」



響はファクトの横にしゃがんだ。

「ファクト………」

響がファクトの横で下を向いて話す。


「………私ね。シェダルのサイコスと向き合うって決めてしまったら、正直…どう距離を置いていいのか分からない…。」

相手の好意を知っているからだろう。


「本当は関わらないのがいいのだと思うけれど…。」

シェダルは連合国としても放っておけない。


そして………

「やっぱり……あの子からはチコの面影を感じるから…。あんなことがあってもどうにかしてあげたいと思うの。」

響が、ぎゅうと自分の膝に顔を沈める。

「………。」

ファクトもそれがよく分かる。



ファクトたちの少し先で、アーツメンバーが子供たちに遊ばれていた。

賑やかな歓声が耳の奥に届く中で、響の言葉も胸に響く。



多分、響と自分は、シェダルの過去を知ってしまったから、その虚無を知ってしまったから………



閉じ込められ放置された環境に何の自覚もなく、それでも布団やタオルを求めて、あてもなく彷徨う小さな足音を聞いて………

その闇の中の小さな子を抱きしめてあげたかった気持ち。




掴まれた己の手脚やしっぽを切ってでも、必死になってアンタレス(ここ)に駆けて来て………。




彼の中の無虚の世界にたくさんの色彩が生まれ、文様が織りなされていく

その嬉しさと何とも言えなさを…



…………自分たちもいつの間にか知ってしまったから。





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