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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第五十四章 今の世界に永遠はない

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117 物事が自動で動き出す時



「チコ様、駐屯の第三会議室でガイシャスとグリフォが面談希望です。」

「グリフォ?」


グリフォはパイラルと共にずっとチコに付いていた女性の護衛だ。仕事に入っている日に直接言えばいいのに、何なんだと思うチコ。



会議室に入ると、ガイシャスとグリフォが敬礼をする。

チコが座ると、カウスは礼をして出て行こうとするがガイシャスが止めた。


座ってくれと促すと、チコの正面に座ったのはグリフォ。ガイシャスは後ろで立っている。

「……」

いやな予感がする。


「チコ様。ご報告したいことがありまして…。」

「あ、今度で。」

と立ち上がろうとしてガイシャスに叱られる。

「チコ様、お座りください。」

「…ぇえ…。なんかヤダ……。」

そう言うも、ガイシャスが怖いので大人しくまた座った。


「それで?」

「…あの。」

「……」

「お付き合いしたい方がいまして…」


「ああーーーーーー!!!!!!!」

チコは机に伏せてしまう。

反応を予想していたのか、慌てることはないがグリフォは困ってしまう。

「付き合う前にいちいち言いに来るということは…」


「アーツメンバーです。」


「?!」

「っ???」

これにはカウスも驚いてしまう。アーツメンバーがベガスにいる人間と付き合いたい場合には事前報告しろと言っていある。


完全に固まってしまった。



ヴェネレ人でもなく…VEGAでもなく…アーツ???

グリフォが??

グリフォもユラス人ナオス族のエリート家系。父は一般のメカニック技師だが母の家系は昔の貴族でほとんど教師や教授職だ。


「え?アーツ??」

先週、響を奪われたばかりである。

「カウス。アーツって知ってる?」

「とぼけてるんですか?先週お嫁にやった先ではありませんか。」


「え?

人の講義中にホントに鼻ほじってた奴?女の裸を見ているからぶっ叩いたら、グラビアを見ていたら広告で出てきただけです!と言い訳こいたやつ??人の講義中に飯を食っているから顎掴んだら、大房の伝統です!とか言い放った奴???」


早弁と言います!教科書を立てて食べるのが東邦アジアの文化です!と真面目に訴えてきた大房民。疲れすぎて昼食時に寝ててしまい、今食べているとな。「授業中に寝るのと、食べながらでも参加するのとどっちがいいんですか?!」と真剣に訴えたアホがいる。

お腹が鳴る声がうるさいし、夕方のトレーニングをサボられるよりはいいので、こいつに飯をやって下さいと解説擁護するバカもいた。そいつか。


「………。」

みんな暫く固まる。


「チコ様が、いい奴を紹介すると言いながら、オリガンとか回って全然紹介しないからですよ?」

「だって、よく考えたらユラスって軍関係しか知り合いがいないしっ!」

そうなのだ。命と隣り合わせの軍人や政治家関係者は紹介したくないと思っていたが、考えてみればそれくらいしか知り合いがいない。そう思うとカーティンおじさんの守備範囲は広い。しかも彼は、話した人をことごとく友人にしていくのだ。大房のパリピさえ。


「ヴェネレに取られるよりいいじゃないですか。」

いつもながらカウスがうるさい。

「で、誰なんですか?」

そして率直に聞く。


「~っ。」

数字があと1つ揃ったらテンビリオン当選みたいな緊張感丸出しで、チコはその名前を待つ。



「………」



「ライブラです。」


そう言ったグリフォの顔はかわいい。そこは認める。



チコは頭を上げた。

「ライブラ兄さん?」


ライブラは第2弾の副リーダーだった者で、今もゼオナスやサルガスの次席だ。ゼオナスはその内どこかの完全な筆頭に彼を置きたいと思っていた。

彼は大房民ではなく、普通に文武両道の優等生である。ベガスや移民がまだ批判の渦中、何をしているのかよく分からないあんな第1弾を見て、アーツに参加したいと言ってきた強者。実はただ筋トレさせていただけで、後は成り行き……という無様さを知っても文句を言わずに付いていたのだ。

感心を通り越して、感動である。


第1弾の時は、「何でこいつら出て行かないの?縄跳び千回追加する?」と思っていたが、第2弾、3弾の時はエリスまで「みんな出て行きませんよーに」と毎日朝一で祈っていた。


第2弾はそういう者が特に多い。彼らは初めから優秀かつ、パイオニアでありリーダーであり、第1弾の「俺ら何してん?」感をきちんとまとめ直し体系化して組織作りに貢献してきた。

ただ、第3弾までの大半の者のアーツ参加決定打は、「軍人から格闘術学べるんですよね?オミクロン軍もいると聞いたのですが」だったことをチコもよく覚えているが、とにかく優秀は優秀である。



「………。」

ボーと考えるチコ。


「………ライブラ………。」


「……ライブラか…。」

ライブラはハウメアに続き、軍や特警など各所にスカウトを受けている。もちろん婚活おじさんの婚活就活射程内。

「…ライブラなら…許す!」

「…!チコ様、ありがとうございます!」


「…いや。問題を抱えていない限り許可制じゃないからな。報告だから、報告するだけでいいぞ。」

ガイシャスがぼやく。許すも何もない。


「……で、どうやってそういう仲に?」

恐る恐る聞く。

「仕事で何度が現場が重なって話すようになって……。その後に何度か食事も……。」

「はあ?いつ?!!」

グリフォまで気が回らなかったので、全然気が付かなかったチコである。

「………やっぱりだめだ…。ライブラの奴、人を出し抜きやがって…。」

「チコ様の懐に手を出すって、ちょっと見直しました!」

なぜか横からチコにバシっと蹴られるカウス。

「うおっ!」


「でも、パイラルも行ってしまうのに、グリフォまで抜けたら………」

「それで私たちが来たのではないですか?」

「……。」

サラッと返すガイシャスが憎い。


「でもチコ様。カーティンさんに持って行かれるよりも、こっちの懐に収められるんですよ。」

「…黙れカウス。」

チコの中でチェス盤があれこれ動く。第1版のクイーンはこちらの手中に収めたが、ビジョップは先手を許して持って行かれてしまった。ユラス軍人版のビジョップ2人はお互いの結婚でこちら取ったが、ナイトは片方既にカーティン陣営に…。



婚活オバさんは一番婚活に(いそ)しんでいたのに、付き合い成立で一番打撃を受けている。


「あんまりいろいろ言うと、勝手に発生した姑小姑が多すぎて嫌になって、グリフォまで持って行かれてしまいますよ。」

カウスが言う。

「………。」

チコがじっと正面のグリフォを見ると、グリフォが申し訳なさそうに笑っていた。


「…分かった…。好きにしろ…。」

と、また机に伏せてしまった。

「チコ様…。」



そこでガイシャスが席に座ってそのまま話を続ける。

「ライブラは今年で30だろ?パイラルはいくつだっけ?」

「今年で37です。」

「えっと、宗教的にも問題ないし…ライブラの経歴ならグリフォの親も説得できるし……。急いだほうがいいな。」

この歳まで結婚をしなかったし、グリフォの両親は海外暮らしもしていて先進的な考え方なので、問題はないだろう。側近なのであまり誰にでも嫁がせることは出いないが、ライブラならおそらく軍の要求も飲める。


「なら明日にでも休暇を貰って、祝福を貰って、子供も作ってもらいましょう!」

「んん゛っ?!」

楽しそうになったガイシャスに、チコは慌てる。この身内だからできる話だ。

「はあ?!」

「?!」

グリフォも少し赤くなる。


「まあまあ、それはサルガスも許さないでしょうから……。」

式典までは現在皆激務である。パイラルも年末まで待つし、グリフォもそう考えていた。ただ、年齢的におそらく何かの折を見てすぐに結婚はさせられるだろう。この時代は更年期が遅いと言っても人によって差はある。


「あいつも何も全く匂わせないとは………」

とだけ言ってチコはまた伏せてしまう。集中していれば違っただろうが、悪い雰囲気もないし霊性のモヤでは違和感もなく分からなかったのだ。



「チコ様……?」

パイラルはベガス赴任初期からの護衛。グリフォはチコがユラスに来た時は上官で、サダルと結婚した時も近くにいた女性兵だった。二人とも結婚してしまう。



チコは知っている。何かが変われば築き上げてきた物も様変わりしてしまう。


それは衰退だけでなく、発展もそうだ。


そして皆、それぞれの人生を持ち、組織だけでなく個々も成長していく。

ユラス教も正道教も結婚を重んじる。


成長……その先にあるのは結婚だ。

節々で自分を支えてくれた女性たちは、結婚でみなチコの元から離れていった。うれしいことなのに、寂しくもある。



「なんで、こんな男ばかりが残るんだろ……」

と、カウスを見る。

「えー。その代わりエルライを連れてきたじゃないですか!」

「ずっと妊娠してるから全然見かけないだろ??」

そう、なんと第3子を授かってしまっていた。このまま数人いきそうである。


「チコ様。でも、パイラルも響もベガスに残りますよ。よかったじゃないですか。私も多分ここに住みます。離れてもおそらくアンタレス内ですよ。」

「グリフォ…。」

ユラス軍は基本夫婦間をなるべく近く保つように配置する。ライブラや婚活おじさんの部下のファイドルはおそらくこのままベガスに残る。パイラルの相手であるファイドルは物流部門の代表取締役になる可能性が高い。


それにきっと、寂しくなった頃にはまた新しい人間たちが集まって来るだろう。ここに拠点があるのだから。


「グリフォ、今までごめん…。」

グリフォをこの歳まで縛ってきたのは自分だということも自覚している。ナオス族長夫人として、もっと早くどこかに送るべきであった。


「違いますよ、チコ様。しようと思えばいつでもできたのに、しなかっただけです。それに、何でも時というものがありますし。」

やっとユラスの本陣から、新たな護衛だけでなく河漢事業まで包括できる人員が入って来た。それまではどちらにせよチコの近くにいるつもりだった。チコが二度も大怪我をしたことも、それでも解任にも免職にならなかったことも、申し訳なさ過ぎてずっと心に引っ掛かっていた。


「なんか婚活って、思ってたのと違う…。」

どんどん結婚していくので外から見れば大成功。アンタレス一般の結婚相談所よりはるかに優秀で、アンタレス市からどうしたらそんな結婚が増えるのか連絡が来たほどだ。今のところ、この5年の統計でチコの間で結婚した者たちには離婚もほとんどない。


既にアーツや移民との付き合いや結婚もそれなりに進んでいる。


でも、チコは泣きそうであった。ユラスに見捨てられ、ベガスでも人を立てたら早々に各席を辞任して出て行こうと思っていた。でもそれまではここに一つの基盤を作ると。

チコの周りにいるほとんどのユラス人が本国の親戚を蹴って来ていたのだ。付いて来てもチコを罵倒して出て行った者も多かった。


残ってくれた者、死者やその家族。今だ病院や施設で治療を続けている者。

まだ返しきれていないものも多いのに。


少ない陣営だったからこそ関係も深い。



迎えるのは嬉しいが、送るのは辛すぎる。ベガスも想像以上に早く拡大している。きっと分散もしていくだろう。キロンたちのように市外に行ってしまう者もいる。



ムギもどこかに行ってしまうのだろうか。




***




「へ?それでサダル議長が対戦したの?」


「そう。なんでファクト知らないの?そういうの大好きじゃん。」

「ファクトが勝手にユラスに行って、みんな呆れてた時だよ。」

「そう言えばそうだ。」


今日は南海の一般の食堂でご飯を食べていた、ファクトたち。

「え…。そんな世紀の瞬間を見逃すなんて…。」


みんなが盛り上がる中、その場に自分がいなかったことにショックを受ける。

サダルが民間人と一対一なんてまずない機会であろう。なにせ半分ノリだ。あの流れだからそれが実現したのだ。


そこに仕事から戻ったタラゼドが来た。




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