表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第五十三章 通帳手形が通過する日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

110/124

109 あなたはなぜここで?



「……他、誰かいたっけな…。」


ファクトは南海パブリックスペースの隅の囲われたワークスペースで、ノートにあることを書き込んでいた。



えっと……


ルバを被った宇宙の人………。

寝込んだ体格のいい薄褐色肌のナオス族みたいな人。

くすんだ金髪の髪の長い人…多分美人。

茶髪ストレートの人……。

…………。

シェダルを抱いて怒ってた人。シェダルの母?

5人?違う。まだいた気がする。



そう、夢や意識層で出会う人たちだ。もしかして何人かは同一人物かもしれないし、本当はもっと違う人なのかもしれない。


それにしてもなんで意識層にシリウスがいたんだ?

ふと考えながら、シリウスも描いてみる。

いつも髪を部分的にアップにしているからか、透いているように見える黒髪が上手く表現できた気がする。絵が下手と自覚しているが、少し上手に描けたとうれしい。


モーゼスみたいなものもいた気がする。


でも、ただの思念やその存在体的な物と、向こうにも意識があるものは全然違う。理想や恐れが生み出した『自身の中の想像の産物』と、相手にも『霊体の生命』があるものは全然違うのだ。



現われた女性たちを絵に描いて表にしていく。

この人は多分何人(なにじん)ぽい。この人はめっちゃ怒ってた。泣いていた。いい感じで話しかけられた。この人は荒野に。あの人はラボだった。第3ラボ?シェダルがいたのはおそらくアジア圏ではない。


………けっこう覚えてるな………。

って、もう一人いた気がする。雰囲気が最新コパーみたいな髪型の人。いつの話しだっけ?

起きてすぐにメモをしておけばよかったと反省した。


シャプレーのサイコスのように、ほんの少しだけ心理層を垣間見て思い出せないかと少し瞑想をしてみた。だが、今日は心理層の浅瀬にもいけない。

「はあ………」



「………。」

誰かが近付くも、熱心に考えすぎたせいかファクトは気が付かなかった。


「ファクト?」

「うわ!あ、はい!」

ガバっとノートを隠す。


「あっ、ごめんね…。」

「ニッカ?」

そこに来たのは、同じ教育科のニッカであった。

「こっちに向かったって聞いたから。

それ、顔だよね?子供たちの遊びのアイデアを考えているのかと思って……。」

下手過ぎて大人の女性を描いたと思ってもらえない。

「あ、…いえ。……そうです。」

まさか実在するかもしれない女性の顔を描き出していたとも言えず、そう言っておく。女性を羅列し特徴を書くなど何の趣味だ。


「見せて!」

「え、おもしろくないアイデアだったら恥ずかしいから…。」

「大丈夫!どうせ少し見ちゃったし!顔だよね?」

「…………。」

ラボとか地下っぽいとか、怖いとか書いてある。もういっそうの事、小説家を目指していたとかゲームシナリオを考えていたとでも言うべきか。俺の嫁候補とか?何人かに『子持ち』とかも書いてしまった。何度も不貞者扱いされそうになったのに自分のバカさに気が付く。せめて『母』と書けばよかった。


「……って、シリウスを描いていたよね?」

「………。」


バレていた。絵でバレたのではない。なにせ『シリウス』とはっきり文字で書き込んでいるのだ。

「アンドロイドごっことか楽しいかなって。………いや。何でもない。」

と、隠していたノートをパタンと閉じる。


ニッカはそうでないことがすぐ分かる。シリウス嫌いなのにそんなことをするわけがない。


「いいよ。いやなのに無理に聞かないから。」

「……」

デバイスだと情報漏れする可能性があったのでノートにしたのだ。一瞬安心するも、ノートにしてもバレるとは。遂にシリウスに傾向したとでも思われていないか。


「あのね、ファクト。この前の実習にいなかったから共有しておいてって言われたんだけど…今いい?」

「いいよ。」

「今度の実習先なんだけど、子供たちに問題があって……」

と隣に座ったニッカの話を聞くが、だんだん上の空になって来る。



繋がりはおそらくギュグニー?

あの荒野はギュグニーなのか。それともユラス?

それからラボ。ラボと言えばニューロス研究?

チコの母親は茶髪じゃないのか?ブロンドの人の方?本当はシェダルと母も違う?母の姉妹や伯母の子?そうなら遺伝も近い。チコの母と双子だったら?


そう言えばテニアのおじさんはどこで何をしているのだ。

こんな狭い地球のどこに逃げ隠れしているのだ。



ファクトは思い出してデバイスに打ち込む。

『奥様の髪色は茶色でしたか?』

テニア宛だ。


「…………」

考えてさらに打ち込む。


『お久しぶりです。元気に生きていますか?死んでないですか?娘の顔でも見に来てください。さみしいそうです。サミシイ(´·ω·`)←チコ』



「ファクト!」

「っは!」

「今聞けないなら後ででいいんだよ?ただ明後日の実習までに話しておかないといけないから…。」

ニッカが少し怒っていた。

「…ごめん…。」



「『子持ち』って何?」

「はい?」

「ごめんね。先見っちゃった。」

「………。」

これはまずいと頭を抱える。



しかし、現在頭がフル回転し過ぎているファクト。


もしかして、シェダルにもっと先を問えばいいのか?

……それは危険だ。シェダルがどこまで安定しているのかは分からないし、やっと落ち着いてきたのだ。ファクトは事実を知らされていないが、シェダルがギュグニーから来たというのはなんとなく悟っていた。



もしあの地下や黒板のある勉強部屋が…ギュグニーなら。


乾いた荒野。荒地。人種の混ざった人。兵士たち。恐怖だけで統率されている世界。


熱帯ではない。完全な寒帯でもない。

近年は西アジアにも、明確な拠点を持つ組織立ったテロリストはいないはず。

メンカルでないなら北方の国か。

でも女性たちが来ていた服は、今なら分かる。チコやカイファーが時々纏っていた南ユラスの服。北方っぽい衣装もあったが、住居が北方なら南ユラス式は着ないだろう。

だとしたらギュグニーか、アジアラインのテロ組織だ。


ということは、チコもギュグニー出身?


もしかしてチコの深層に入った方がいいのかもしれない。

最初に女性たちの風景を見たのは、響のDPからチコの深層を追っていた時だ。

でも、議長夫人にそんな危険な真似はさせないだろう。昔を思い出させてどうするのだ。ただでさえ今も、多くのものを背負っているのに。



オミクロン族の慰霊碑に見た、たくさんの名前を思い出す。

青年たちの抱えきれないほどの命の重さ。



「………ファクト?」

ニッカがもうあきらめ顔でファクトを見ていた。ファクトはそっと顔をあげる。


そして気が付いた。

どこからか、ギュグニーの声がする。


先DP(深層心理)世界に入っていこうとした名残なのか、寺で瞑想した時から何かが付いて来ていたのか。




急に世界がガーーーーーーッと回る。



『ファクト?!』



ニッカの声が一つ違うレイヤーの向こう側に聴こえる。

サイコス??



――そして…荒野が広がる。


あの、たくさんの屍が転がる荒野が。




『絶対に振り返るな』



すると、草むらに踏み固められた土だけの獣道が現れた。上にはフェンス。



『越えろ。これを越えるんだ!』



必死になって逃げるのは………



薄褐色の肌、少し淡い髪。

その少女を導くのは誰?



くすんだグレーブロンドの……亡霊?




バジン!と何かが弾けると、


またガガガーーーーーーーーっと空間が戻って来て、世界と一致した。



ガン!と目覚める。




「ファクト…?」


心配そうに覗く、薄褐色の肌に淡い髪色の目の前の女性。その胸元から、

ギュグニーの呼ぶ声がする。




真っ直ぐな顔でファクトはニッカを見た。

「ニッカは………

ニッカはどこから来たの?」


「どこ?」

「どこから来て………アリオトさんの家の養子になったの?」

「………。」


「………どこって…。」

目の前のニッカが困った顔をしていた。

「知らない。小さな頃だったから……。」


けれどファクトは躊躇せずに言った。


「もしかして…ギュグニー?」

「?!」


その周囲の空間が揺れた。




***




病院から帰って来てから響はシャワーを浴びる。


スウェットを着て水を飲み、香を灯した。

部屋の数点に少しの塩をまいてから結界を張る。


そしてリビングの床に大き目のクッションをいくつか置き胡座をして集中した。



シェダルが生まれる前後、何があったのだろうか。

本当にチコと兄弟なら…その母はやむを得ない事情で再婚したか、もしくは………。



ただ、今はそこには行けない。


あまりにもひどい殺され方や性被害、出産や子供に関する怨みつらみは、全身串刺しにされるような、底のない怨念だけが漂う黒よりもさらに黒い穴の中に無限に落とし踏まれたり………

そんな霊世界を持ってしまう場合もある。


何の対策もせずに行くのは危険だ。


よく社会の授業で昔の人口が上がるが、実際に消えた命は研究に出てくる人口よりもはるかに多い。赤子や幼少期に早く亡くなるというだけでなく、生まれてすぐに死んでしまった命も、殺された命も一時代ですら憶では足りないくらいだ。



新時代までは、歴史全体を見ると自由を与えられた女性は非常に少なかった。


そういう思念が解かれていないと意識層にも固まりになって渦巻いていたりする。



誰にも聞いてもらえなかった、相手にされなかった、信じてもらえなかった怨みを吐き出そう、ここに引き込もうとする思念もある。



過去は分からない。響も過去そのものが視えるわけではない。過去の人が見てきた意識下しか見えないのだから。


そしてそこに入るわけでもない。今の響にそれが支えられるわけでもない。




ただ、シェダルがなぜ()()に居つくことができたのか知りたいのだ。


このアンタレスに。



普通、あんな風に閉鎖的な育てられ方をして、あんな生き方を強要されたら、まず一般の日常に溶け込めない。指示通りに作戦をする、人を殺す仕事をしてきたのだ。時に暗殺、時に兵士として。


人の顔さえ見いだせない、あの、ただ部屋を彷徨う子供時代を思う。


自我が芽生える前に抱きしめられることもなく愛情も与えられず、閉鎖された世界で生かされた場合、人は早々に亡くなってしまうことが多い。栄養や住居があってもなぜかそうなるのだ。



今だって違和感がないわけではない。


けれど、シェダルはファクトやウヌクとアンタレスに溶け込んでいる。

シェダルはまだ本当の意味で、罪も、人の痛みも理解していない。けれど、それは自分も同じだ。



響はその理由が知りたかった。


シェダルがアンタレス(ここ)に立っていられる理由が。



自身はシェダルの気持ちを知っている。

チコのように女性だったら躊躇なくその手を握り返しただろう。

けれどそうはできない。



シェダルは自分の結婚を受け入れてくれるだろうか。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ