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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十三章 緑の瞳

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10 キロンに会いに行こう



一方イオニアは、自分がアンドロイドに動揺したことを言えないでいた。


相手は分かって仕掛けたのだ。

イオニアが長い黒髪の女性に恋焦がれていると。どこで、どうして思いまで分かったのだ?しかもベージン社の機体が。接点が分からない。世に溢れているAI経由で?


世界は部屋や街角、様々な情報を収集する。そこから?

けれど、それがなぜベージンに?もっと違う場所から?


サイコス?




「………。」

河漢の事務所でコーヒーを飲みながらイオニアは一人考える。


そして未だ動揺している自分がいる。目の前にいるのが本人でないとしても、それどころかアンドロイドでも手を出してしまいたかったからだ。


本人が手に入らないなら。

それが当人の尊厳を失わせるものであっても…一瞬でもそう思ってしまった。


しっとりと笑う、響の顔。少し荒れた手。



「…………」

「イオニア、大丈夫か?」

ローが声を掛ける。

「あっ。…ああ。」

今日は十尊利(とそんり)に、河漢第15地区の希望者を移していく。イオニアは立ち上がった。




***




東アジアの南下する高速道路。

学生たちは、今バスに乗り合わせて楽しく移動していた。


ファクトたちは2泊3日の予定でキロンたちに会いに行くのだ。

そう、時長(ときなが)に。



アーツ学生のラムダ、ソラ、ソイド、リゲル他に無理や連れてきたリギル。仕事を休んで来たジリやタイなどキロンたちと仲のよかったアーツの一部メンバー。藤湾大教育科のニッカたち数人もいる。


リギルはこの騒がしい空間を寝て通す予定であるが、なぜか眠れなくて寝たふりだ。

「リギルくーん!あれ!外!見て!ミッショリーランドたよ!めっちゃ行きたい!!」

隣のラムダもうるさい。ゲームキャラのテーマパークだが全くもって行きたくない。


それから子供たち。

今ベガスにいる子供たちとその親や保護者。マリアスの三男のデルタもムギの弟トゥルスと座っている。デルタはもう年齢的には高校生。背は高いが、顔がまだ幼い。それにしても子供の成長は早いものである。


そしてなぜか最後部座席を占領している、シャムやレサトはファクトと菓子を食いまくっている。間にカウス長男のテミンも座っていた。調味料会社のティガも新人と参加。会社の材料を仕入れているので時々来ていたらしいが、せっかくなので今回も一緒に来たのだ。


さらに藤湾大、響の元研修室のメンバー数人と、響、その人である。



時長は、農業開発地域でアジアの中小規模農場の企業化、機械化、効率化開発に努めている地域だ。

そこに藤湾大農林、バイオ分野もあり、南海出身の移民やアーツメンバーも多く移っていた。精密化し過ぎて使いこなせていなかった農業機械の簡素化、アナログ化の最適化開発もして、地方や途上国にも技士や教育者を送り出している。

精密過ぎる機械では、壊れやすい農業機械をいちいち修理したりメンテするのはかえって手間だ。お金も設備も掛かる。これまで先進国や国などが手を出して放棄してきたそんな事業や田畑の有効活用など探っていく。


響の元研究室の学生数人も、漢方栽培がしたいと時長に移り住んでいた。


響が行くのでムギも行く。ムギはバスの中でずっと外を見ていた。一応高校の農業科に行ったものの、ムギの関心は響の護衛である。ムギの横には一般人型アンドロイドSR社のシャールルがいる。響の護衛で、傍目にはアンドロイドと分からない『無印型』だ。この際身内の大人には下手な気を遣わせないように警備ロボットだと言ってある。



「ねえ、チョコ持ってきたの。食べる?これ、けっこういいチョコ。シンシーが送って来たの。」

目立たないようにすると言いながら、響はチョコを配り、袋を回す。

「響せんせー。ありがとうございまーす!!」

「名前呼ばなくていいから!!

あとね。飴もあるの。小さい子はバスの中だと危ないからソフトキャンディーにしたよ。」

そういいながら、いろんな味のミルクキャンディーの袋も回す。


「マジ、バスの中で飴配ってる…。ククッ…。」

ティガ、大房のオバちゃんを思い出して笑いが止まらない。これで漬物まで回って来たら完成系最強型だが、さすがに子供の旅行でそれはなかった。ただ、酢昆布と干し梅は回って来たので、慣れない味にユラス人の罰ゲームアイテムにとなっている。

「ダメだ…。クルバトに連絡しておこ………。酢昆布とかヤバい……」

配られた物の写真と一緒にどうでもいい情報を、書記官クルバトに送っているティガであった。




地方と言っても、ICからICまで高速運転で30分。子供を乗せているので安全運転でもそんなに時間はかからない。


アンタレスを抜けてから幾分も経たないうちに、都市や住宅地が点在する山や田畑になる。しばらくは高層ビルがないだけの平たい地方都市が広がっているが、さらに走らせると山になり、そこを抜けると今度はまた中規模の都市が現れた。時長の県庁所在地だ。


それなりに大きな都市だが、街には入らずに山裾に向かい、田園とビニールハウスと住宅地の広がる場所に出る。遠くの方に農場らしき牧草地も見えた。高速を降りて少し走らせると戸建ての民家は少なくなりヴィラが増え、たくさんの近代的な大型施設が見えてきた。

そこが藤湾大学などある地域である。もっと田舎だと思っていたのでみんな驚いてしまう。



そしてファクトたち初めての藤湾大時長校に着いた。


「キロン~!!!」

「ファクト―!!!!」

抱き合う2人。別にキロンたちも時々ベガスに帰って来ていたのでそこまで久しぶりでもない。ただ、感動してみたかっただけである。なんと言ってもキロンはファクトのスチームパンク技士なのだ。


「レーウ!ノヴァ!!」

「おう、久々だな!」

「シャム~!!お前こそ久々~!!!相変わらずバカそうだな!」

「は?天才なんだけど?もう一学科卒業したわ。」


一方、早速抱きつかれているのはやはりこの人。

「先生~!!」

朱鷺(とき)ちゃん!沙宇ちゃん!」

響は元生徒たちに羽交い絞めにされる。

「響先生!髪切っちゃたんったんですか???」

「あはは…。」

「もったいない!!何かあったんですか?」

「え?…なんで?」

なぜ髪を切っただけで、何かあったと思われるのだ。ただ、響先生なので失恋とは思っていない。他の理由だ。

「だって、先生の事だから…」

「……。」

みんな響のことをよく分かっている。

「実験失敗でもしたの?」

「違います。」


「先生、キファさんは来なかったの?会いたかったのに。」

キファは行きたいとごねたが、上司どもに即却下された。何せキファは、響の研究室の助手状態だったのだ。なんだかんだいってもみんなの人気者である。


子供たちの親も来ているのでそれぞれ挨拶をしていく。




「今はね。結構忙しい時期かな。」

キロンが楽しそうに説明してくれる。この地域だと全地域の一般農地の田植えが済んで肥料撒き、夏のハウス果物の最後の最盛期だ。一部夏の果物の収穫出荷は春一番が吹く頃から始まり7月にはピークを終える。


一旦荷物を置いて、キロンやレーウがみんなを案内していく。

「お昼ご飯食べるまではこの辺りで見物してて。何か触ることもあるかもしれないから、手は洗って消毒してからよろしく。」

「はーい。」

と、みんな洗面台に行く。天幕の張ってある下の、テーブルが並んでいる周りに洗面台もあった。




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