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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第五十二章 愛はどこに?

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105 自分の生きる世界を眺める

閑話です。



「ベガスが無人都市になる前の資料です。」

事務局横のミーティングルームで話を進めるVEGAや移民代表たち、藤湾、そしてアーツ。


今回はアンタレス他大学の都市研究所も来ている。


過去なぜここが廃都市になったのか。その頃に栄えていた商店街や繁華街。アンタレスや他都市の分析からどうすればバランスよく街が機能するか。どうしたらそういう街をつくれるか話していく。


今は行政各施設、入管や入出管理事務局機能のある南海に人が集中し、それゆえにこの辺りは人口が多いが、これから都市機能や住宅地を移動させていく。

既に移住が済んでいたり、もう受け入れ皿ができている場所も廃れない町をつくっていく準備、そのためにどう学校教育の段階から人材を育てていくか。その教材を作っていくか。それまでにも考えてはきたが精査させていく。


これからオリガン、そしていつか解放されたアジアランにも関わっていく話だ。

チコは今日は大房ズが固まっている辺りの、壁際の席で聞いていた。



今回、一人の用意してきたプレゼンが注目を浴びる。


自分たちがどんな町機能に支えられているかを図解したメンバーがいたのだ。幼児向け、小中高各学年、中学年、それから高校生以上向けとある。


幼児用も遊びのようで、デジタル資料を展開していくとかなり内部まで入り込め、例えば電気や水はどこからどういう課程を経て来るか。使った水はどこに行くのか、その間にどんな職業の人間が入り誰が処理するのかなど細かくみられる。


「おお!」

排水施設の仕事もしているファクトは嬉しい。


警察署をタッチするとほのぼのした3Dのかわいい警官たちが署内を案内してくれる。職業を押せば警察署内の業務が出てくるし、組織図やその仕事に就くまでどんな勉強をし、どんな学校に通えばいいのか、どんなことができるのかまで出る。歩いている清掃業者を押すとまたそこからその業界に入れるのだ。


絵本版もあるがデジタル資料はかなり密で、下手をしたら前時代から展開している『ゴールデンファンタジックス』のダンジョン並みに広大なのかと思ってしまう。

「うわっ!めっちゃ楽しい!!」

小学生までの子供版なので絵は非常にかわいく、世界観や人物を動物版にも変えられるし、子供たちに人気のハッピーくんや他に提供するアニメにも変えられるらしい。現在は試用版なので架空のアニメを使っている。展開図を小さくすれば『おまわりさん』『パンやさん』と台詞も完全な幼児版にもなる。

「これドット画版とかも作ってほしいな。」


「すごいな…。」

これにはチコも驚き、後方で聞いていたアセンブルスもびっくりしていた。

こういう、絵本やゲーム、アニメ的発想はユラスにはあまりない。文字や画像資料なら様々な企業や行政でもこれまで出しているが、こんなフィールド世界やダンジョンのような物はなかった。


前時代から数十年近く経っているので様々な物が開発されてはいたが、重要なことは、要は人間の手や感覚に合うフィット感だ。それがないとどんな優秀なシステムも過疎化し一般化しない。


「これ、大学で作ったんですか?」

「はい。そうです。大学の頃に卒業論文代わりにその頃のゼミの友人たちでベースを作って。パターンだけいくつか作って後はAIですから。その代わり、基礎データや仕上がりは本物の街や職人を回って、その方たちのチェックを入れてきちんと作っています。」


そう言ったのは、アンタレスでも藤湾でもない。

なんとアーツメンバーであった。柔らかな茶色の髪の爽やかな彼は、楽しそうに話す。


「あまり広大にしても身に入らずユーザーが空洞化しやすいので、都市、郊外、地方の小さな町を一か所選んでそれをモデルにしています。少し他の国や地域もあるんですが、現在は紹介用の架空の国外です。後、親しみやすいよう、自分の住む地域や文化にバージョンを変更できます。

チャイルドロックも数段階あって、プレイシアであれど、年齢が低い場合大人の監視がなければ見れない資料もあります。一般能力ではなく倫理の問題ですから。」

プレイシアは特殊な能力や学習力を持っている者だ。彼らの中には幼児、小学生時期から思考が早熟しているものもいるが、だからと言って子供の頃から何でも見せるわけではない。


みんな聴き入る。ユラス地域を選ぶと少し乾いた雰囲気になり、人や道の雰囲気もユラスっぽくなった。

「これまで似た物がなくもなかったんですが、AIが成熟する前に企業が作ったようで、膨大なお金を賭けても中途半端で廃れてしまったようです。それからどの企業も引け腰になってしまって…。要は練り直しです。」


皆、デバイスやホログラムで好き好き触っている。


「ここから、子供たちが何になりたいか、もしくは自分の住む世界にどんな仕事があるか、誰に支えてもらって自身の生活が成りたっているか想像力を広げていくんです。生活様式や大まかな規則も。

こちらの高校生以上の物は、その業界の各分析数値、問題点や課題も出てきますがオプションなのでコンパクトにもできます。

途上地域や戦後跡地から来た子にも分かりやすいかなと。ここで、ベガス生活のチュートリアルも見れますし、移民や河漢住民の生活試験問題も出来ます。」


彼が礼をすると拍手が起こった。

彼。誰かと言えば筋肉系でない、アーツには来ないだろうという理由でヴァーゴ祖父が探してきた、アストロアーツ元店長のジジェであった。スポーツ系店長はみんなベガスに来てしまったからである。



「やばいー。寿司屋とか宇宙開発研究所とかも出てくるっ。めっちゃ使いやすい!」

と言いながらファクトはそれで遊んでいるが、頭脳系もここに来るなら次は何系を店長にすればいいのかと、大房ズは悩んでしまう。もうヴァーゴ祖父が全て兼任すればよいのか。ヴァーゴ祖父ではホットケーキも潰してしまう。


「ファクト、そんな事言ってる場合じゃねーだろ?オカン系もスポーツ系もダメ。爽やか系も頭脳系もダメ。アーティスト系もダメ。そしたら誰を店長に呼べばいいんだよ?じいさん死ぬぞ?」

「あんなの頭脳系には入らねーよ。」

みんな口々に言い、ファクトも口を挟む。

「アーティスト系って誰?」

「あのクソウヌクだろ?まさかあいつ、そんな事に関心があったとは…。」

「じゃあ、もうプロ店長や普通に調理師呼べばいいんだよ。」

「店長は別に料理できなくてもいいぞ。」


「………」

少し離れた席にいる常若(ときわか)イケメン男子を見て大房ズは思う。そんなのにお願いしたら、またアーツ(こっち)に来る未来しか見えない。店長系調理師系も来ている。カフェバトルが始まりそうである。


そこでモアが小声でみんなに教える。

「……そういえばな…。なんと第4弾。マジもんの寿司職人がいるらしい…。」

「は?」

日暈(にちうん)の高級店で寿司握ってた奴がなぜか来た…。」

「マジかー!どいつだ?!」

「やっべえ。チコさんもエリスさんも、それ自分の好みで入れたんじゃないのか?」

「そん時の面接官は、エリスさんじゃなくてクレスさんだ。」

「おー!!クレスさん英雄!!!」

「安心しろ。ダチになったからその内頼もう。」

「お前も勇者だ。モア!!」



そんな下町ズと違い、ナシュパーなど文武両道のメンバーたちが真剣に聞き入っている。

「大学の時にこれを採用する企業はなかったのか?」

「企業ではサーバー管理やお金の問題で限界があるし、行政は譲っても形骸化しそうな感じで…。大学を出てからもこのメンバーでずっと肉付けをしているんです。」

AIに任せても、確認と最後の引導を取るのは人間だ。


「それに一番の目的は、先お話ししたように自分が何になるかの前に、自身の立ち位置を把握すること。自分がこの世界の一員であることを感覚で自覚するための物です。」


途上地域は生きる世界、学びの世界が狭い。

先進地域はたいして何もせずに生きることができるから、子供たちは自分だけをみて世界を見ない。そして、大人になって行く。四方を囲まれた小さな世界を作りながら。


移民南海や藤湾チームはどういう形にすれば、これここでの様々な教育に組み込めるか、また適切なのか真剣に考えている。人のスキマで隠れて寝ているレサトを除いて。



「すごく面白いですね!」

今日は、陽烏(ようう)や医大生トリマンの近くに、医師試験ステップ2が合格し少し余裕が出てきた響が来ていた。ここはアーツを越えた会議なので響が参加していてもおかしくはないが、タラゼドも来ているので、少し不満なチコ。


「あ、響さん。僕の事覚えています?」

みんながそれぞれ資料を見たり意見をあげている時間に、店長ジジェが響たちの元に来た。何事かと、大房ズはシャムやリギルも加わった医療組を眺める。


「はい。アーツの店長さんですよね。これ、いろいろ応用できますよね。」

「そうですね。いろいろできますが、手を出し過ぎるとなんでもうまくいかないので、使用目的を一点に絞って、他のアイデアがあれば他の人に任せます。フォーマットを抽出すればいろいろ展開できますので。」

「こういうのって、例えば図鑑なんかも作れます?ハーブや漢方とか。入門の方や子供たちに関心を持ってほしくて。」

「え?もしかして専門ですか?そういうのは既に出版社や研究機関で出していると思うんですが。」

「でも、この世界観が今までのデジタルブックより親しみやすくて。」

「デザインしたのは友人なので言っておきます。すごく喜ぶと思います!

あの、僕も料理とかするんでハーブとか関心があります!前、ウチに呼んだじゃないですか。」

「うち?」


響が意味が分からなくて「うち?」と首をかしげるが、アストロアーツのことである。「僕の家」と勘違いした大房ズが「ああ゛?」と反応する。キファが乗り込もうとするが抑える周囲。

「やめろ。チコさんたちもいる。後で〆ろ。」


そんな荒れ果てた男どもにも気が付かず、ジジェは続ける。

「アストロアーツですよ。おいしいリゾット作るって。」

「ああ!行けなくてすみません!」

楽しそうに思い出す。タラゼド母の誕生日に初めて大房に行った時だ。


「ああああ??アストロアーツが『ウチ』だと??テメーんちじゃねーだろ?」

「たかが数か月店長をしていたくらいで、我が物気どりすんな!!」

「ハーブなら、ティガの会社にでも行かせればいいだろ?」

第1弾が小声ながらもうるさい。


ジジェはまだ響にかまう。

「大丈夫ですよ。時間が空いた時にここで作るんで、一緒に来たファイちゃんと食べに来てください。」

「あまり来れないんですが機会があれば。」

「私も一緒にいいですか?」

陽烏もノって来て、もちろんジジェは「皆さんいつでも」と答えた。

サルガスに止められているので、響はあまりアーツだけの環境に行けない。でも、今の響は少しだけ浮かれているのですこぶる笑顔だ。


「ファイの奴か!あいつも〆る。」

下町ズ、きっかけを作ったファイを怨む。許せないことだらけである。

「チコさんもう老化か?なんであんな下心丸出しの奴が、試用期間入ってんだよ。おかしいだろ??」

「それを含めても、…お前らの霊性基準よりよっぽどよかったんじゃないか?」

タチアナが呆れる。


浮かれた笑顔の響を見て、チコもぼやいてしまう。

「…タラゼドあいつ。いつか合法的にぶちのめす……。」

「…?」

ジジェの話をしているのになぜ?と恐れおののく周囲を他所に楽しいキファ。

「え?チコさん、たまには気が合いますね!」



このよく分からない情景を見ながら、石籠(いづら)たちは、試用期間が終わったらサッサと大房ズに関わらない遠方に派遣してもらおうと思うのであった。




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