第九話
中世の城下町を四人で走っていると、噴水のある巨大な広場が見えてきた。
オンラインゲームなので、もちろん他のプレイヤーがあちらこちらにいる。知らないプレイヤーのキャラは怖くて嫌な感じ。
ヒカリが掲示板でクエストを受注すると、画面に内容が表示されてラッパの演奏のような曲が鳴った。
“迷惑巨猿の討伐”
「受注したから、やっつけに行こう~」
ヒカリを先頭に再び走って、噴水広場から町中の端にある大きな門をくぐった。
画面が切り替わると、目の前には晴天の空、一面の草原の壮大な世界が広がっていた。
フィールドの音楽などは無く、キャラが歩く足音、風が通り抜ける音、草原の草が揺れて重なる音、どこからか鳥の鳴き声がうっすらと聴こえる。
「すごーい、本物みたい」
その風景に思わず声が出た。ゲームの中なのに臨場感があり、その世界に没入する感じがした。
「すごいよね、私も最初びっくりしたわ」
前をチョロチョロと歩くアカリが言った。
道なりにみんなで歩いていると、草原から平原に続いて、川沿いの道になった。
時折、スライムやゴブリンが次々と出てきたが、ヒカリとアカリが速攻で倒して私は何もしなくても楽勝だった。
川沿いの道を進み、小さな吊り橋を渡り、木々が生い茂る森の中へと続く道を歩いた。
敵もイノシシや狼が出てくるようになった。
山奥へ続く道を進んでいると、周囲が薄暗くなってきた。
「そろそろ来るよ、巨猿!」
ヒカリがそう言った瞬間、目の前の草むらが大きく揺れて、巨猿が突進してきた。
「危ない!」
ユメが前に出て大盾で防いだ。他の三人は巨猿から距離をとった。こちらのキャラの二倍ぐらいの大きさの猿だった。巨猿は数秒間、睨み合うように相手の出方を伺っている。
ユメは棍棒で大盾を叩いて、巨猿の注目を引くように動いた。巨猿が殴り掛かってくるのをユメは大盾で防いだ。
その隙にヒカリとアカリは巨猿の後ろに回り込み、攻撃を仕掛ける。ヒカリは弓で頭を狙って攻撃をする。アカリが巨猿の足を剣で集中攻撃していると巨猿はバランスを崩して転倒した。
「チャンス!」
ヒカリとアカリの声が見事にハモった。
倒れて無防備な状態になっているので確かにチャンスだ。それに私が見る限り、頭が弱点なのか与えるダメージが大きいような気がする。私もメイスで叩きに行った。
巨猿が立ち上がると、大きな雄叫びをあげて暴れだした。
次から次へと攻撃を仕掛けてくる。
ユメはガードしているが、攻撃を弾くたびに体力ゲージが減っていくのに気が付いた。
「ヤバいっ、落ちた」
体力が無くなりユメはその場に倒れた。
パーティーの盾となるキャラが倒れたので、暴れる巨猿の殴り攻撃でアカリと私が倒れ、突進でヒカリが倒れた。
全滅したので、拠点にあるお城の最初にいた部屋に戻された。
その後、何度か同じクエストの巨猿に挑んだが、結局は勝てなかった。