第七十二話
「うわぁ!」
想像から覚めた私は驚いていた。
心臓の鼓動が大きく身体全体に響いている。
胸が苦しい。
ゆっくりと深呼吸をして落ち着かせる。
何故……、何故……?
ナンパ男はわかるけど……。何故、友達まで殺したのだろう。
手の震えが止まらない。
心が苦しい。
涙が溢れてきた。
どうして……、どうして……?
考えてみたけど、やはり何故か分からない。
私の心が傷つくと、頭の中に“嫌な記憶”が占領して、グルグルと動きだして、止めることができず疲弊してしまう。
今までその“嫌な記憶”を消す方法として“想像の私”を創り出し、原因となる私を傷つけた者を始末する。そうする事で“嫌な記憶”が消え去り、平穏な自分を取り戻すことができる。
最初は高校二年生の時だった。
友達のリオが私を誘って動画撮影したことがあった。それを動画サイトにアップしたことで多数のコメントがついた。そのコメントの中に私を中傷するコメントが突然発生した。
コメントを見た私は深く傷ついた。
傷つくだろうと予想はできたが、ネットの匿名で犯人が分からない中傷に私は疑心暗鬼に陥った。
クラスメイトの誰かが犯人ではないかと思った。それは何の根拠も無い私の直感だった。普段は直感だけで物事を判断はしないけど、直感ぐらいしか判断する材料が無かった。
クラスメイトに対しての疑心暗鬼がさらに激しく渦を巻いて私を襲い、“嫌な記憶”が頭の中を埋め尽くした。
その“嫌な記憶”によって学校に行くことができなくなり、夜も眠れない日々が続いた。
苦肉の策として、“想像の私”を創り出し、その困難を解決させた。
自分だけで解決させた。
高校二年生の時以来、この苦肉の策を使うことは無かったけど、大学生になって最近使うことが急激に増えた。
“嫌な記憶”が頭の中で暴れだす前に処理をすることで、気分が底まで落ちることがなくなった。
自分の心を護るために使ってきたけど、駄目なのかな。
でも何故、友達を殺した?
友達が私のことを傷つけた……?




