第四十一話
社員さんがキッチンへ戻ってきたのは三十分ほど経ってからだった。粟田さんからはタバコの臭いがする。
人見知りでコミュニケーションが下手な私はこちらから何も言わなかった。基本的に私からは怖くて話せない。特に男性は緊張しすぎて話せない。
キッチンでは私と社員さんがどちらからも喋ることなく沈黙の空間になっていた。
アカリさんの方は上手く仕事が出来ているみたいで良かった。もう二ヶ月を過ぎたから、研修期間が終わって一人前なのかな。私も一ヵ月を過ぎたから、一ヵ月後には一人前にならないといけない。調理も全部作れるようにならないといけない。頑張らないといけない。
今日は次々とお客さんが来店されて注文が入る。
“バニラミルクコーヒー”
“アイスコーヒー、ワッフルサンド”
珈琲をドリッパーに二人分セットして、ワッフルサンドを焼くためのワッフルメーカーにスイッチを入れた。ワッフル生地は冷蔵庫にあったはず。焼いたら何を挟むんだっけ?
ワッフルメーカーが温まるまで、カンペノートを見て確認する。
「早く作れよ、ノートを見てる暇があったら。お客さんが待ってんだろ」
粟田さんが腕を組みながら、私に向かって言った。
私はその言葉がとても刺々しく感じて、心が一瞬で萎縮した。
「はい、すみません……」
突然の事で何も言い返せずに謝った。
温まったワッフルメーカーにバターを塗り、ワッフル生地を均一になるように流し込んだ。四分ほど待てば焼きあがる。
後ろから粟田に見られていると、また何か言われるんじゃないかと気になって仕事に集中できない。
ワッフルが焼けるまで待っている間、コーヒーグラスを二つ用意して氷を入れた。
「ドリンクの一つはバニラミルクだろ。グラスじゃなくてカップだろうが! 間違えるんじゃねえよ、馬鹿か!」
粟田さんは店内に聞こえるぐらいの声で私を怒鳴った。
「す、すみません」
怒鳴られた私は泣きそうになった。
ちょっと間違えたぐらいで、何でこんなに怒るのだろう。




