第三十二話
「お疲れさまでした」
アカリさんが店長にそう言ったので、私も続けて言った。
七町珈琲を出たら、笹風駅まで一緒に帰る流れになった。
私は一緒に駅まで帰りたいけど、アカリさんは嫌だったりしないかと考えていた。
「今日はお客さんが多かったわ、十九時から二十時の間。先週はそうではなかったのに、やっぱり連休中だからかな。それともカスミが集めたのかな、招き猫ってことで」
アカリさんは私の顔を見ながら、招き猫の手を真似るようにした。
「アハハっ。私よりアカリさんの方が看板娘で目立っていると思うけど」
アカリさんは満面の笑みになった。
「そうかなぁ、私って声が大きいから目立つっていうか、人を引きつけるのかもね」
「そうそう」
アカリさんが喜んでくれると私は嬉しくなる。
そして、気になっていた事を聞いてみた。
「アカリさん、私が面接を受けた後に店長に何かお願いした?」
「アカリで良いよ。カスミが面接の後? 何も言ってないけど……。店長に何か言われたの?」
「ううん、面接で全然上手く言えなくて、絶対不採用だと思ってたら採用だったから」
「単に人手不足だったんじゃない? 三月末で大学四年生が辞めていって、バイトがごっそり減ったみたいだし」
「そうかな……」
私の思い過ごしだったみたい。でも、あの時の店長の表情は何だったんだろう。私が人とのコミュニケーションが下手だからかな。それとも、私がHSPだからかな。
「そうじゃない。最近、朝は超忙しいから夜は店長が居ないこと多いし。今日はカスミが初日だったから心配で居たみたいだけど」
「そうなんだ」
「店長がいないときはね、みんなでケーキ食べるから」
「ケーキ? 良いの?」
「内緒……、でね」
駅の改札口を通ると、アカリさんは逆方面だから、そこでお別れとなった。
「私、こっちだから。またねー」
アカリさんは笑顔でそう言うと階段の方へ行った。
「またねー」
私も同じように言うと、いつもより声が出たような気がした。
腕時計を見ると二十三時前だ、家に着くのは二十四時頃。バイト初日はとても疲れた。明日からは連休だからゆっくり休もう。




