第三十一話
「これで完成ね」
吉坂先輩と私で二つずつサンドイッチを作り上げた。
調理のカンペノートを見ながらだと、予想よりも簡単に作ることができた。難しいのはチキンを包丁で切る時とフライパンで厚切りベーコンを炒める時だった。
「コーヒーも淹れたから、みんなの分」
お客さんが来るまで四人で、つかの間のお食事タイムとなった。
「うん、美味しい」
アカリさんは一口食べて、私の顔を見て言った。
「OK、OK。問題なし」
新崎先輩もサンドイッチの出来映えに頷いた。
「良かった」
作った自分がとても心配だった。みんなは気を遣って“美味しい”って言ってくれているのかもしれないと思ってしまう。
私も一口食べてみると、想像していた味とは違い、今まで口にしたことが無いような味だった。
独特の風味を出しているのは……、チキンかなぁ。
「美味しい」
コーヒーは飲めないなんて言えず、せっかく作ってくれたから飲んでみたが、やっぱり私には苦かった。香りはとても良い、喉越しも美味しい、後味が苦い。頑張ってコーヒーを飲み干した。
「コーヒー、美味しかったです」
二十一時以降は比較的、利用客は少なく、二十二時の閉店まで数えるほどのお客さんしか来なかった。
二十二時に表のドアを閉めた後は掃除の時間。キッチンは洗い物からトースターの掃除、ネルの洗浄と消毒、フライヤーから油を抜いたり、床の掃き掃除、賞味期限の切れる食材のゴミ捨て、などやることが多い。
キッチン周りは吉坂先輩の私で掃除した。ホールはホールでやることが多いのだろう。
「店長、掃除が終わりました」
吉坂先輩は事務所を開けて、店長に報告をした。
椅子に座っていた店長が事務所からキッチンに来た。
「はい、お疲れ。倉里さん、バイト初日はどうだった?」
何も言葉を用意していなかった私は何て言えば良いのか分からず、どう言えば相手が傷つかずに嫌な思いもしない回答を頭の中で色々と考えたが、良い回答が何も出てこなかった。
初対面の人に気を遣って雰囲気を読みながら、新しい環境で慣れない仕事をして、精神的に疲れた。
「つ、疲れました」
「そうだろう。まあ、そのうち慣れるさ」
店長は私がすぐに辞めたりしないかどうか気になる様子で言った。




