第百十八話
図書室に案内した出来事があった後日、畑島さんは分からない事があれば全て私に聞いてきた。その度に私は丁寧に優しく教えた。
畑島さんと何となく一緒に行動することが多くなり、徐々に仲良くなっていった。
ある日、学校からの帰り道で話していると、今から畑島さんの家で遊ぶことになった。
畑島さんの家は小さなアパートの一階の一室で、部屋の窓際に沢山の大きな虫かごと昆虫図鑑が並んでいた。
「うちは昆虫が好きで、将来は昆虫の博士になりたいんよ」
畑島さんは虫かごの一つをじっくりと覗きながら言った。
「そうなんだ、凄いね」
私は素直に思ったことを言った。
「ヤマトカブトムシとオオクワガタにヒラタクワガタ、あとはコクワ。コオロギも沢山いるけぇ」
虫かごを一つ一つ指を差して私に説明した。
「カブトムシなら知っている」
「どんなカブトムシ飼ってるん?」
「飼ってはいないけど、見たことある」
「えー、どこの公園で見た? どこの木?」
「えっ、テレビとかだけど……」
「なんだぁ」
畑島さんは虫かごに目線を戻して、残念そうに言った。
私は昆虫は苦手だったけど、虫かごのカブトムシと畑島さんを眺めていると昆虫への抵抗が薄らいだように思えた。
「山木部じゃあ木に山ほどおって、取り放題じゃけぇ。今、一番欲しいのはヘラクレスオオカブトなんじゃけど、日本にはおらんのんよ」
畑島さんは昆虫図鑑を開いて、ヘラクレスオオカブトの写真を指差した。
角が長くて背中の色が黄緑っぽく、想像していたカブトムシとは違っていた。
「大きいね」
「幼虫もぶち大きいけぇ」
畑島さんは幼虫の大きさを比較したイラストを指差した。
「うわぁ」
私は幼虫はまだ苦手だったけど、畑山さんが嫌な思いをしないように喜んだ表情をした。
畑島さんは私が知らないことを詳しく知っていて凄いなと思った。畑島さんだったら将来も昆虫の博士になれると思った。




