伝承者の策略<音のならないオルゴール編>
「史乃―!大変だー!」
珍しく黒板が慌ただしい。うるさいのはいつものことだが、慌ただしいのは初めてだ。
「どうしたの?」
「それが、今回の伝承、滅茶苦茶危険なんだよ!」
「危険?」
もう死んでいる自分に危険とはいったい何なのだろうか。
「今回は、コトリバコにまつわるものなんだよ!」
「だから?」
「史乃は女の子じゃん!もしコトリバコの呪いでもかかったら死んじゃうかもしれないよ!」
「……」
「え?あ、やっぱり怖いよね?でも役目だし……」
「ねえ黒板。私が女であることは事実だけど、もう死んでるからね?」
「あ、そっか!なら、史乃じゃなくて選ばれし者が危険なのか!」
「何言ってんの?」
支離滅裂なことを言う黒板に半ばあきれてしまった。慌てているからと真剣に聞いた自分を殴ってやりたい。
「こほん。えーと、仕切り直して。彼は小鳥遊琥珀。普通の男子高校生だよ。まあ最近祖母が死んだみたいだけど。」
「それで?彼がコトリバコの持ち主?」
「違うよ。でも彼の家にあるのは事実。彼の祖母が盗んできたんだよ。で、解体して現代でも受け取ってもらいやすいようにオルゴールの形に作りかえたんだ。しかも盗んだのはハッカイときた。」
「なるほどね。」
本をめくりながら黒板の話を聞く。
「ハッカイは最も強力なものだと書いてあるわね。じゃあ、最近祖母が死んだのもこの呪いによるものね。呪う側も無事ではいられないって書いてあるし。」
「だろうね。でもこの人勇敢だよねー。呪いの箱を盗んだ挙句、解体して別の者に作り替えるなんて。並みの精神じゃできないよ。」
確かにそうだ。本にもコトリバコの作り方は載っているが、かなり惨い。
「そこまでして祖母は誰を呪いたかったの?」
「元旦那の浮気相手。浮気して離婚したから、選ばれし者に兄弟ができなかった=子孫を途絶えさせられたみたいな感じに思ったのかも。」
「そう。」
愛故にみたいなことだろうか。大切な誰かのためとなったなったときの人間は割と無敵なのかもしれない。
「とりあえず、彼の家にあるオルゴールは回収した方がよさそうね。彼の祖母が作ったオルゴールだけど、コトリバコでできているなら、彼の母親がただでは済まないかもしれないわね。急ぎましょう。」
「待ってよ!何も伝えるプラン聞いていないよ?回収して、その後どうするのさ?」
私はその言葉を無視し、急いで最後のページまで読み進めた。
「史乃ってば!」
私は本を閉じると立ち上がった。
「準備するわ。」
「ええ!?だからプランなしで?」
「プランはあるわ。この本に入っていたのは鎮魂花。これをコトリバコを保管している子取神社に届けてもらえばそれでいいわ。鎮魂花が力を発揮してコトリバコの呪いを祓うと同時にこの町に起きた最悪を伝える。それから今回は記憶を消す薬ではなく改ざんする薬を使うわ。コトリバコについて忘れられると困るし、祖母がこのオルゴールを作った事実だもの。でもここにいたこととかも覚えていられると迷惑だから、あらかじめ用意したシナリオを彼の記憶と融合して書き換える。どう?」
かなり早口で話したが黒板は理解してくれただろうか?
「とんでもないことを思いつくね。でも、改ざんするにしてもあらかじめ用意するシナリオは少し変えた方がいいかも。」
「どういうこと?」
「史乃は急いで選ばれし者を呼んでオルゴールを回収させようとしてるけど、もう手遅れなんだよ。」
「な……」
「オルゴールの音色は一瞬でも聞いたら最期なんだよ。だから小鳥遊琥珀の母親は助からない。」
「もっと早く選ばれし者を見つけられなかったの?」
「無理だよ。何億人っている中からみつけるから。間に合わせたくても間に合わない場合もあるよ。」
「そんな……」
いつもより早く本を読み切り、急いで策も練ったが意味をなさなかったようだ。
「落ち込まないでよ!そういうこともあるって!」
「そうなんだけど、なんかちょっとショックだったの。」
「史乃……」
「責めて悪かったわね。少しシナリオをいじってくるわ。合図したら、選ばれし者を呼んでくれる?」
「分かったよ!」
別に、彼の母親が死のうが興味はそこまでなかった。だが、なぜかやるせない気持ちになった。