伝承者の策略<呪われた果樹園編>
「いえーい史乃!おはよう!」
「ん……あれ?」
どうやら私はカウンターで寝てしまっていたらしい。死んでいるはずなのに眠気は来るらしい。
「おはよう。何か用?」
「もちろん!選ばれし者が見つかったからね!」
「へえ。で、どの人?」
「おお?やる気満々だねぇ。」
「だって、やりたくなくてもやらないといけないんでしょ?だったら早く済ませるに越したことはないでしょ?」
「まーねー。だけど、今回は少し面倒かも。」
「どういうこと?」
黒板は文字を消し、女性の写真に切り替えた。この人が今回の選ばれし者なのだろう。
「彼女の名前は杏樹桃音。この町で一番大きなお屋敷に住んでいるお嬢様。で、現在は杏樹家の当主様だよ。」
「当主ってことは、世代交代したってこと?」
「交代しなくちゃいけなくなったんだよね。彼女の両親、事故死しちゃったんだよ。それで彼女が現当主様になったというわけ。」
一気にどちらの親もなくしてしまうのは辛かっただろう。
「でも、何で面倒なの?彼女の性格が悪いとか?」
「いやいや。そうじゃないよ!ただ、この杏樹家って家か、血筋かはわかんないけど、ここに呼べないのよね。呼べないのは聖域にいる人間とかなんだけど、ここ聖域じゃないし。」
「杏樹家そのものが聖域に近いってことなの?」
「そうみたい。それでここには呼べないから、呼ばずに伝える方法を模索してほしいわけ。」
「なるほどね。なら二号を使うまでね。とりあえず、伝承を読むわ。」
前回の伝承よりも少し薄いなと思いながら本を開く。『呪われた果樹園』と書かれた伝承だった。
読み込んでいるからか、黒板に話しかけられることなく読み終わった。この果樹園はやっぱり聖域に近いところに存在するようだ。
「ねえ黒板。ここってもはや聖域なんじゃないの?」
「それはないよ。神様いないし。読んだなら分かると思うけど、部外者の侵入を許さない場所だったから穢れがない場所なだけだよ。で、現在は部外者の侵入を許してしまっているから穢れだらけのはずなのに呼べないんだよ。きっとご先祖が彼女を守っているのだろうよ。まったく面倒な。」
「そう。てかまた薬?」
「いやいや、前回肥料だから。今回は薬だけど。」
「殺戮薬だって。この薬は杏樹家の定めたルールを破った者のみを殺す薬だって。初代当主様も恐ろしいことを考えるわね。」
「悪いことした人間が裁かれるのは当然だよ。それに初代当主様は穢れを果樹園に持ち込むことを嫌っていたんだよ。その穢れが果物の味に影響するって思っていたみたいだし。まあ実際そうだったんだろうけどさ。ここの果物すごくおいしいらしいよ。」
「うーん。なら、今の情報を二号に学習させて現世にいってもらうことにするわ。それと、この殺戮薬に前使った記憶を消す薬を調合してもいいかしら?薬を使ったと同時に効果を発揮するようにしたいから。」
「伝承者の行う調合とか、工夫は伝えるにあたって影響しないから大いにしてもらって大丈夫だよ。」
「そう。なら早速……いやでも、コンタクトをとるなら今すぐじゃない方がいいかな?」
「どうして?」
「殺戮薬って普通に聞いたら人殺し認定されるって思うかもしれないじゃない?だから、使わないといけないくらい追い詰められるまで待つわ。」
「史乃ってばドsなんだからー。」
「確実に二号の話に耳を傾けさせて薬を使わせるためよ。で?この方法でいいの?」
「いいよ!じゃあ、頃合いをみて二号を現世に送るね。それまでに二号への学習と薬の調合は任せたよー。」
「わかったわ。」
私はまず二号へ学習させるため、分身室に急いだ。