表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見えざる館の伝承者    作者: 花咲マーチ
52/56

伝承者の策略<刃編>

「ねー史乃ー。あの村、結構話題になったみたいだね!」

「そうなの?」

「9割若者の村! 名探偵なら、謎を解きに訪れそうな見出しじゃない?」

「別に興味ないでしょ。1つの村が若者だらけだろうが、年寄りしかいなかろうが、誰も知ったことじゃないわよ」

「ぶーぶー。つまんない反応!」

「悪かったわね」

 そう言われても、ピンと来なかった。無事に伝承が伝わっていればそれでいいし、きっと、あの村は水不足が解消されて、大変な生活からは脱しているはずだ。まあ、死体が埋まっていたりするから、その辺が落ち着いてからだろうが、無実の人間が平和に暮らせるようになったのなら、それ以上はなにもいらなかった。

「そっか! じゃあ、早速、次の伝承に移ろうか!」

 正直、黒板のテンションは読めない。私はまだ、あの冷たい声が頭から離れないのだ。

『よくさ、人間の心がないとかいうけど、このほうがよっぽど人間らしいよ。己のためだけに他者を押し除ける。これほど人間らしいことはないよ』

 思い出すたびに、鳥肌がたった。ハイテンションの黒板と、冷酷な黒板。どちらが本当の黒板なのだろうか。それに、機械なのに、感情があるように感じてしまうのは、私の都合の良い解釈なのだろうか。答えは果てしない螺旋階段の上にあるようだった。


 本のタイトルは『復讐の刃』

 たくさん人が死んだ。笑った犯人が歩いている人たちを次々と殺していった。

 犯人は、捕らえられるまで殺し続けた。しかも、確実に人が死んでしまうであろう、首を刺したり、心臓付近を連続で刺したり……倒れた人たちは、マネキンのように倒れたポーズを保ったまま動かない。違うのは、血が出ているということだけ。

 犯人は人を殺してみたかったらしい。そんな理由で、多くの命は奪われた。反省もしていない。このまま死罪になっても本望だという。

 死んだのは15人。治療を受けたにもかかわらず誰も助からなかった。道を歩いていただけで死んでしまった。明日何が起こるか分からない人生。だが、歩いているだけで被害に遭うなんて理不尽すぎる。許せない。許せない。ユルセナイ……殺したい。殺したい……

 犯人を憎む被害者たちの魂は、ナイフの形になった。天使か悪魔か分からないが、我々の怨念をナイフという凶器に変えてくれた。ただし、使えば天国へはいけない。でも構わない。復讐するという選択をした時点で、地獄行きは確定している。

 しかし問題は起きた。我々は体がない。ナイフを持てない。使えない。誰かに使ってもらわなくては。だが、ナイフが近くにあろうとも、見える人間はいなかった。見えたとして、犯人を殺すとは限らない。

 身を挺して作った凶器。意味のないものにしないでほしい。使える人間がいるのなら、いつになっても構わない。犯人の魂を打ち砕いてほしい。我々の無念を晴らしてほしい。


 伝承というより、事件で亡くなった人たちの無念が書いてあった。復習を果たすことで伝えられる伝承。でも、そのためには、選ばれし者に死んでもらう必要がある。死んだ上で、ここに来てもらう。後は、紅茶に細工でもすれば、しばらく魂を留めることも、1度現世に戻すことも可能だ。

「史乃ー。どうしたの?」

 あれこれ考えを巡らせていたら、どうやらぼーとしてしまったみたいだ。最後のページをめくった白紙のページを開いたままでいたら、誰でも不思議に思う。

「別に。ただ、選ばれし者が死者じゃないといけないし、ナイフを使えば、存在を抹消されるって……こんな条件って、ちょっと酷いなって思ったの」

「どうして? これは断罪道具で、復讐ができる魔法のアイテムだよ。代償くらいは受け入れてもらわないと。相手の命を奪うなら、それに見合う対価は同じく命しかない。妥当だと思うけどなー」

「なら、選ばれし者は、復讐したいって思ってるってこと? 復讐心もない人に、頼めることではないわよね?」

「その辺は心配しないで! 選ばれし者はもうすぐ死ぬから!」

「は?」

 預言者か。条件が揃っている人を見つけてくるとは思っていたけど、もうすぐ死ぬかどうかまで分かるなんて。何者なんだよ本当に。

「選ばれし者の名前は、夕顔美紅。高校2年生。可愛い顔で男を籠絡している女の子!」

「真面目に言いなさいよ」

「えー。モテるってそういうことじゃない?」

「違うわよ。本人の意思が伴ってないじゃない。モテるってのは、その人の魅力が、周りを惹きつけるってだけで、別に籠絡してるわけじゃないから」

「ナビちゃんには違いはわからないけど、夕顔美紅は、告白をたくさんされているけれど、夢である美容師になるまで、恋愛は禁止してるんだって!」

「そう。意思が強い子なのね。じゃあ、告白を断ってばかりだから、フラれた奴らが殺しにくるってこと?」

「違うよ。殺しにくるのは、衣斐蓬。連続殺人犯の魂が宿った人間だよ。でも、生まれつき変な子だったわけじゃないんだ。執着心はあったみたいだけど。夕顔美紅と出会い、彼女に惚れてしまったが故に、殺人犯の魂が開花。元々の執着心を利用され、恐らく今は、衣斐蓬であって衣斐蓬じゃないんだよ」

 要するに、異世界転生的な感じか。あれも、途中まで生きて来たキャラクターに成り変わっている。転生に気づき、かつ前世の記憶を持っていたのだろう。心くらいは、衣斐蓬のものなのだろうか。

「じゃあ、衣斐蓬を夕顔美紅に魂のナイフを使って殺させれば、伝承は広がるってこと?」

「まあね! そのためには、夕顔美紅を見殺しにする必要があるけどね!」

 忘れていた。このナイフは、死者しか扱えない。しかも、使えば存在ごと消えてしまうという、いらないオマケつき。

「他の方法なんてないのよね?」

「見殺しにしたくない?」

「できればね。わかっているなら回避したいわ」

「んー。無理だね! 道具を使わない訳にはいかないから、助けようとなんて思わない方がいいよ!」

 確かに、知恵を絞ってどうにかなることではない。分かってはいるのだ。だが、見殺しは後味が悪い。

「史乃。人は生きるために命を奪うよね。なら、史乃は、伝承を伝えるという自分の役目のために、人の命を奪いなよ」

 冷酷な声が頭の思考を鈍らせる。黒板の考えに頷いてしまいそうになる。しかし、私は、

「冷たいわね。でも、他に方法もないからね。だから私は、初めから夕顔美紅が死ぬことを知らなかったことにするわ」

 と、最も最低な発言をした。見て見ぬふり。最悪な手段だ。きっと、割り切って話す黒板よりも冷たいだろう。

「冷たいのは史乃じゃん! まあ、いいけどね!」

「そうね」

 そう。私は冷たく残酷だ。自分の心を守るために、夕顔美紅の未来を知らなかったことにするのだ。

 見て見ぬふりなど、自分を守るためにしか役に立たないのだから。


 



 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ