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見えざる館の伝承者    作者: 花咲マーチ
51/56

二十五冊目<刃>

「好きです。付き合って下さい!」

「これ、俺の気持ちです!」

「一目惚れです!」

 ほぼ毎日のように言われる、告白の言葉。勇気を出して言ってくれているのは分かる。でも、

「ごめんなさい。私、恋愛しないって決めてるから」

 と、いつも断っている。友達からなどという優しい言葉はかけない。正直迷惑なのだ。好きでもない相手からの告白など。それに、私は夢を叶えるまで、余計なことで頭を悩ませたくないのである。


美紅(みく)、また断ったの?」

 窓際にある私の席の机に腰掛けながら、コーヒー牛乳を飲む数少ない友達、桂小夜(かつらさや)。短い黒髪で、吊り目の茶色い瞳。ボーイッシュな女の子だ。男子に人気のある私に、嫉妬したりせず、対等に話してくれる。

「だって、美容師になるまで、恋愛はしないって決めてるもん」

「そんなこと言ってると、売れ残りになるぞー?」

「美容師になれたら売れ残りでもいいもん」

「そこまでこだわる理由って何?」

「私、ヘアアレンジ好きだし、美容室って、可愛くなりたいから行くと思うんだよね。だから、可愛くなりたいって人の手伝いをしたいの。これ以外やりたいこともないし。とにかく、恋愛するより大事なの」

「いいねえ。青春だねえ」

「同じ歳なのに何言ってんの?」

「そうなんだけどさ、高校2年にもなって進路の1つも決まってない私にとっては、美紅は眩しいのよ」

「何それウケる」

 小夜といると、やっぱり楽しい。私の学生生活はこれでいいのだ。彼氏など必要ない。しかし、私の平穏は、すぐに破られた。

「あの……」

 目にかかるくらい長い前髪に、肩まで伸びた後ろ髪。男子にしては珍しいヘアスタイルだ。確か、名前は同じクラスの……

衣斐(いび)君だっけ?何の用?」

「えっと……放課後、少し時間いいですか?」

「はあ。5分くらいは」

「じゃ、じゃあ、放課後、校舎裏に来てください!」

「わかったから、もう用が済んだなら消えてくれない?」

「えっ、ああ、ごめんなさい。それじゃあ……」

 どうせ告白したいから呼び出したのだろう。全く迷惑な話だ。小夜との大事な休み時間を1分ほど取られた。

「美紅、結構酷くない?いくら告白が迷惑だからって……」

「いいのよ。てか、変に優しくすると期待するでしょ?興味ないですって態度と言葉で示さないと、生殺しみたいになるだけよ。むしろ親切心で言ってるんだから」

 小夜は何も言わず、困ったように笑った。周りの女子たちは、ヒソヒソと何か言い合っている。悪口だろう。構わないけど。


 放課後、言われた通りに校舎裏に行った。すでに衣斐君は来ており、手をもじもじさせていた。

「お待たせ。で、何?」

「あ! えと、その……」

 うっざ。小夜を校門に待たせているのだから、さっさと言うこと言ってくれないと困る。言葉が紡がれないことにイライラした私は、無意識に足で地面を叩いていた。すると、衣斐君は、慌てたように話し始めた。

「あ、あの!僕の前髪……切ってもらえませんか?」

「は?」

「えっと、美容師を目指してるって、教室で偶然耳にして……それで……」

「悪いけど、プロになるまでは、やらないから。用ってそれだけ?じゃあ私帰るね」

「え、あの……!」

 衣斐君の言葉を途中で遮る。告白以外は初めてだが、私の中のプライドみたいなものが許さない。美容師になったらお店に来てくらい言えばよかっただろうか。何かを言いかけた衣斐君だったが、早歩きする私を追ってくることはなかった。


 しかし、問題は翌日に起きた。

「夕顔さん、僕と付き合って下さい!」

 衣斐君は、登校するなり、私の席に来て、告白してきたのだ。周りは、冷やかしの声で満ちていた。こんなことは初めてだ。昨日は告白ではなく、髪を切ってほしいとのことだったのに、この気持ちの変化は何なのだろうか。もしかしたら、昨日の言葉そのものが告白だったのか。

「あのさ、何のつもり? 嫌がらせ?」

「いえ。僕の気持ち、受け取って欲しくて。昨日のセリフも告白のつもりだったんです。でも伝わっていないみたいだったので、今日ははっきりと言おうと思って。ああでも、髪を切ってほしいのも本当で」

「はあ。私は付き合わないって決めてんの。はっきり言って、こんな所で告白されて、迷惑だから」

「そんな……」

 眉が下がり、前髪で隠れかけた瞳が潤んだ。でも、同情しない。これに懲りたら、2度と話しかけないでほしい。そう願った。だが、私の願いは叶わなかった。

 この日を境に、毎朝告白、さらに、廊下で会った時に告白と、振られたというのに、告白してくる。しかも、なぜか断られるたび、喜んでいる気がした。うざいうざいうざいうざいうざいうざい。

「美紅大丈夫?こんなこと今でになかったよね?」

「なかったわよ! クソ、どういうつもりなのよあいつ!」

 長く伸びた親指の爪を目一杯前歯で噛んだ。自慢だった美しい爪は、切り取られその場に落ちた。


 衣斐の告白を断ってから3日が経った。私は限界を迎え、自ら校舎裏に呼び出した。少し怖くもあったので、小夜にも同行してもらって。

「衣斐君、もう私に付き纏わないでくれない? 迷惑なんだけど」

 睨みつけながら言い放つ。衣斐は俯いており、表情は見えなかったが、肩が震えだした。

「く……くくく。僕が、夕顔さんの言葉に傷ついていると本気で思っているんですか?冗談。むしろ興奮しますよ。僕が執拗に告白すれば、あなたは僕のことしか考えられなくなる。どんな感情であれ、僕はあなたの思考を支配できるんだ。最高でしょ?だから告白はやめません。あなたが僕だけを見てくれるようになるまで」

「ちょっと! 美紅が好きなら、美紅が嫌がることをするんじゃないわよ! 頭おかしいんじゃないの!?」

 狂気じみたことを言う衣斐に、小夜が反論すると、氷のような冷たい視線を向け、

「金魚のフンは黙ってなよ。僕は、夕顔さん以外どうでもいいんだ。夕顔さんがいるだけでいい。後はモブだよ。きっと、夕顔さんだってそう思っているはず。自分以外モブだって。そして僕は今日、モブを卒業した! モブは女王様直々に呼び出しなんて受けないからな! 」

「うるさい! お前なんて嫌いだし、モブ以下だっつーの! 気色悪いこといってんじゃないわよ! 私の前から消えろ!」

 きっと、誰の告白を断った時よりもキツイ言葉を言ったと思う。でも、言葉で強がらないと、背筋が凍って動けなくなりそうだったのだ。どうせ、コイツは傷つかない。どんな言葉も無意味だ。だから、強がることしかできなかった。

「そうですか。僕は諦めませんよ。でも、そうですね……誰のものにもならないと決めているなら、僕も考えてアピールしないといけませんね。今日は、これで幕引きします。振り向いてもらうためなら、僕は手段を選びません」

「っ……じゃあ、最後に聞かせなさい。どうして私に執着するわけ?」

「答えは簡単です。僕、入学式の時、派手なグループにぶつかったんです。その時、鞄を閉め忘れていたせいで、中身が全て出てしまって。廊下を散らかしてしまったんですよ。派手なグループは笑いながら去っていったのに、あなただけが、落ちた筆記用具などを拾うのを手伝ってくれた。ファイルやペンケースを手渡された時の顔は今も忘れられません」

「たった……それだけ……」

「人を好きになるきっかけなんて、そんなものでしょう?そんなこと? って、他人からしたらくだらないことでも、本人にとっては、かけがえのない出来事で、大切な思い出で、印象深いことなんです。高校2年生になった時、同じクラスになった時は嬉しかったなあ。一生分の運を使い果たした気分だった」

 衣斐は、頬を薄紅色に染め、微笑みながら天を仰いだ。その光景に、私はゾッとした。

「夕顔さん。僕はあなたが好きです。他には何もいらない。全てを捧げる覚悟ができているんです。こんなにあなたを想っているのは僕だけでしょう?だから……」

「……気持ち悪い」

 吐きそうなのを堪えると、代わりにそう言っていた。衣斐は、感情を失った瞳をして固まった。まるで魂が抜け出てしまったかのようだ。

「い、衣斐……」

 さすがに悪かったかと、謝ろうとすると、小夜が私の腕を掴んだ。

「美紅! 今のうちに逃げるよ!」

 私は小夜に引っ張られるまま、走って逃げた。衣斐は動くことなくその場に佇んでいた。


 学校に行くのが怖くなった。酷い女だと、諦めてくれたらと思うけれど、違う気がした。怖い。

「美紅ー? 学校に行く時間よー」

 何も知らない母は、私をいつものように呼ぶ。どうしたらいいのか分からなかった。

 結局、母に話すこともできず、学校へ行った。


「美紅! 学校来て大丈夫なの?」

「小夜……できるならもう来たくないけど……」

「夕顔さん、おはよう」

 首筋を舐められたかのようにゾッとする声。衣斐であることは、すぐに分かった。

「あんた! もう美紅に近づかないでよ!」

「しつこいな……邪魔だよ」

「きゃ!!」

 衣斐は小夜の肩を片手で思い切り掴むと、自分の背後に投げ飛ばした。当然、机や椅子があるわけで、大きな音と共に小夜が倒れた。机か椅子の角に頭をぶつけたのか、気を失ってしまった。教室もざわつき始め、目立たないように教室を出ていく生徒もいた。たった1人、窓際に追い詰められた私は、誰かが衣斐を止めてくれると思っていた。しかし、誰も声さえかけてこなかった。

「ね? 僕の言った通り。僕以外、君を想ってくれる人なんていないんだよ。だから……」

「え……」

 衣斐が一歩足を踏み出したのと同時に、腹部に鈍い痛みを感じた。

「な……に……」

 口の中にも鉄の味が広がる。腹の栓が勢いよく引き抜かれると、赤い液体が宙を舞った。立っていられなくなり、後ろに倒れ込んだ。

「くくくく……あはははは!! これでもう僕のものだ! 君は誰にも渡さないよ。愛してる」

 衣斐は、赤い手で、鬱陶しい前髪をかきあげた。整った顔が、狂気に歪んでいた。そして、何度も何度も、場所を変えては私を突き刺した。意識が遠のいていく。覚えている限りで、先生が止めに入るまで続いていた気がする。バカだな。殺したら、土に還るだけで、お前のものになんてならないのに。消えゆく命の中、そんなことをぼんやりと考えていた。

 私は、高校2年生という若さで、夢を叶えることもできずに死んだ。



「う……んん?」

 殺されたはずの私は、赤い絨毯が敷かれた、本棚しかない洋館の床に寝転がっていた。

「あれ?私死んだんじゃ……それに……」

 服をめくってみても、どこにも傷1つない。服にもだ。あれだけのことがあったら、服はボロボロで、血まみれだっておかしくないのに。

「天国って図書館なの……?」

 体を起こして立ち上がる。すると、

「ようやくお目覚めだね。気分はどうだい?」

 私の真後ろは、本棚ではなく、カウンターが設置それていた。そしてそこには、赤い瞳に艶のある美しい黒髪を持つ少女がほおづえをついて座っていた。綺麗な子だが、少し不気味であった。衣斐ほどではないけれど。

「気分がよさそうに見えるのかしら。滅多刺しにされて、最悪な気分よ。で、あなたは誰なの?」

 精一杯の強がりだった。そうしないと、腰が抜けてしまいそうだったし。

「私は葉月史乃(はづきしの)。伝承者だ。ようこそ、選ばれし者、夕顔美紅。歓迎するぞ」

「伝承……?意味わかんないんだけど」

「簡単に言えば、忘れられた物語を伝えるのが仕事かな。だが、私は君たちのいる世界には行けない。決まりみたいなものがあってね。それで、君のような、現世の選ばれし者を通じて伝えるということを行っている」

「そう」

 嘘かもしれないと思ったが、そんなことをするメリットが、葉月にはない。恐らく、本当だろう。しかし、私は、もう現世の人間ではない。

「ねえ。悪いけど、あなたの手伝いはできないわ」

「なぜ?」

「だって、死んでいるもの。だから私も現世には行けない」

「知っているぞ?だから呼んだのだ」

「は?」

「まあ、座りたまえ。ゆっくりというわけにはいかないが、少し話をしよう」

 カウンターの向かいにある木製の椅子を勧められ、とりあえず座った。霊体のはずだが、随分とリアルな感覚だ。

「さて、紅茶でも飲みながら話そう」

 葉月は温かい紅茶の入った、金の線がオシャレなティーカップを差し出した。

「なんか……やけに赤い紅茶ね」

 しばらく赤色は見たくないと思っていたのに、わざとだろうか。血を想像させるほどの赤い紅茶が出てきた。

「フレーバーティーだ。ビーツやベリーを私が自分で調合して作ったのだ。色鮮やかにできた自信作だぞ」

「そ、そう……」

 葉月が嬉しそうなので、嫌がらせだと思うのはやめた。

 見た目は最悪な紅茶だが、味は美味しかった。心も体も、芯から温まるようだった。

「本題に入るが、君は、衣斐蓬に殺された。そして、そんな君だから任せられる伝承がある。これを見てくれ」

 鎖の巻かれた黒い箱を取り出して、丁寧に鎖を外すと中身を取り出した。ガラスでできた、ナイフのようなものが出てきた。見慣れない形をしている。

「これは魂のナイフというものだ。連続殺人犯が使っていたナイフと同じ形をしていて、殺傷能力が極めて高いナイフらしい。犯人は、10人くらい殺してみたかったらしい。それくらい殺せば有名人になれるからなんて、ふざけた供述したそうだ。殺された人たちは、犯人を憎み、その怨念が魂のナイフを作り出した。たが、このナイフは死者しか握れないという欠点があり、被害者たちの復讐は果たされずに終わったそうだ」

「じゃあ、私はこのナイフで誰かを殺せるってこと?」

「もちろんだ。試しに握ってみるといい」

 ナイフに触れると、氷よりも冷たい気がした。あまりの冷たさに、手を離す。

「そういえば、さっきあなた普通に触って取り出していたわね。あなたも死者なの?」

「私は特別だからな」

「ふーん。でも、私そのナイフ触れないわ。冷たすぎるもの」

「仕方ないな。では、このグローブをはめてもう1度握ってみてくれたまえ」

 革でできたグローブをはめてから、再び挑戦。今度は冷たさを全く感じなかった。

「これなら大丈夫だわ。けどこれだと、殺人犯みたいなら見えるわね」

「実際そうだろう?君には、今から殺したい相手を殺してもらう。いるのだろう?殺してやりたいほど憎い相手が。君の将来を奪った相手が」

「……」

「今の君が誰かを殺しても罪には問われないが、魂のナイフを使用すると、ナイフに囚われた怨念も、君の魂も砕け散ることにはなる。この世から存在ごと消えてしまうけれどね」

「……あいつにそんな価値はないわ。でも、このまま消えるのも癪だから。いいわ。魂のナイフとやらで殺してやろうじゃない。私と同じように滅多刺しにしてくれるわ」

「現世に行けるような手筈は整っている。案内は、ここにいるニイナがしてくれる」

「ここにって……」

 ナイフから視線を上げ、葉月の隣を見ると、気が付かなかったが、1人のツインテール少女がいた。人形の髪を結ったような、美しい髪の毛の持ち主だった。

「ニイナです。衣斐蓬がいる牢屋に案内した後、史乃様の元へ戻ってまいります。それでは行きましょうか」

「わ、わかったわ」

 椅子から立ち上がると、魂のナイフを握りしめ、ニイナと共に衣斐の元へ向かった。


 図書館の扉を開けると、牢屋の中に寝転ぶ衣斐の元にあっという間に着いた。私はともかく、ニイナのことも見えていないようだった。

「よくも……」

 魂のナイフを握る力が増すのと同時に、涙が零れた。悔しい。告白を断っただけで殺されて、追っていた夢を叶えられずに終わって。モテるって、得だと誰かが言った。でもそんなことない。可愛いことがいいと誰か言った。でもそんなことない。必要なのは、可愛さやモテることじゃない。自分の人生を自分のしたいように生き抜くことだ。干渉されたくなかった。告白されたくなかった。その結果がこれだ。何が得なものか。

「うわあああああ!」

「うっ……!」

 魂のナイフで貫かれた衣斐の体からは、赤い花が舞った。まだだ。私が咲かせた花はそんなもんじゃない。もっとだ。もっと……!

「ふ……ふふ……」

「え……?」

 真っ赤に染まり、ほとんど死にかけの衣斐は笑った。そして、

「見えないけど、夕顔さんだよね……ふふ……ありがとう。僕に、殺す気持ちも、殺される気持ちも味わわせてくれて……やっぱり、大好きだ……愛して……」

 衣斐は、笑いながら息絶えた。何がありがとうだ。私の痛みを知ってほしかったのに、これでは興ざめだ。すると、衣斐の遺体は、形を失い、やがて年老いた老人になった。

「あれ? 私が殺したのは衣斐のはず……」

「魂のナイフは、そもそも連続殺人犯に復讐するためのものです。故に、連続殺人犯の魂が宿った衣斐蓬を殺すことで、怨念は解放され、犯人は牢屋の中で生き絶えたという形になります」

「じゃあ、衣斐がおかしな性格だったのも……」

「はい。連続殺人犯が転生したのが、衣斐蓬という少年だったと思われます」

 これでは、誰を恨んでいいのか分からない。連続殺人犯を恨むべきか、衣斐を恨むべきなのか。

「申し訳ありません。色々と説明不足で……。ですが、衣斐蓬は、この世から消滅しましたのでご安心を」

「そう。とりあえず戻りましょう」

 いつの間にか、私の手の中にあった魂のナイフは消えていた。代わりに残ったのは、返り血と、真っ赤に染まったグローブだけだった。しかし、遺体は衣斐蓬のものではない。変な気分だった。


「史乃様、戻りました」

「おかえり。どうだい?復讐してみて。スッキリしただろう?」

「……いいえ。あいつ、喜んでいたもの。私と同じ目に遭えば、反省して、私を殺したことを後悔するんじゃないかって思ったの。でも違った。あいつはイカれていた。だって私に、殺される気持ちを味わわせてくれてありがとうッて言ったのよ!気持ち悪いでしょ!」

「だが、これで衣斐蓬は、転生することができなくなった。永遠に転生した魂が殺され続けるのっだ。今日を境に、死の無限ループの中に閉じ込められたのだぞ?その点では復讐をやりきったと思わぬか?」

「うーん……どうかしらね。話しだけ聞けば、残酷だと思う。でも、きっとあいつは、その死の無限ループでさえ、喜ぶんだろうなって思うと、復讐なんてするんじゃなかったわ。それに、殺したのは衣斐であって衣斐じゃなかったわ」

「気が付いたのか?」

「ニイナに聞いたし、目の前で見た。複雑な気分よ。あと、私は存在が消えるんでしょ?生まれ変われるって言ったって、この年まで生きてきて、誰の記憶からも消えるって、悲しくない?」

「そうだな。しかし、私は覚えている。1人だけでも覚えていれば君は生きていたことになるよ」

「うん。あれ?」

 体から力が抜けて来た。立っているという感覚もない。

「時間だな。このまま君は消える」

「そっか。ま、あんたが覚えているならいいわ。じゃあね。来世では復讐なんてしない人生を送るわ」

「ああ」

 私は光が弾けるように消えた。


「小夜ー。そこ私の席なんだけど?」

 窓際の席の机に腰かけ、コーヒー牛乳を飲む小夜。

「ん?ああ。ごめんごめん」

「てか、小夜って、その窓際の席好きだよね。なんでいつも座ってるわけ?」

「あー……なんでだろう。なんか、私、いつもこうして、この席の机に腰かけて、誰かに話しかけてたんだよね」

「何それ」

「自分でも分からない。ホントごめん」

 小夜は飲みかけのコーヒー牛乳をゴミ箱に捨てた。

「ホント……なんでだろう……」

 小夜は、廊下で1人涙を流した。




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